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第82話 アリシア、シャーレさんの耳をモフりたい

「私、夢を見たんだと思います……」


 ネコミミをピクピクと動かしながら、シャーレさんがそう呟いた。


「夢、ですか? 夢の内容を教えてもらっても良いですか?」


 それを聴けば、何があったのかわかるかな?

 でも猫からネコミミ美少女に変身する夢っていったい……。


「はい。私が夢の中で目を覚ますと、そこは昨日入った温泉施設の入り口でした」


 夢の中で目を覚ます。

 なんて矛盾した言葉なの……というのは一旦口に出さないでおきましょう。

 シャーレさん(美少女)が真剣に語ってくれていますからね。

 あーモフりたい! あの耳をモフりたい! 吸いたい! 甘噛みしたい!


「私は1人でした。ですが疑問も感じず、入り口を開けて施設の中に入りました」


 布団の中からお顔がこんにちは。

 かわいい!

 えっ、待って。めっちゃかわいい♡

 猫の顔じゃなくて、人の顔だ。ホントにネコミミがついただけの人間の美少女⁉

 手足はどうなってるんだろ。しっぽは生えてるのかな? 気になるー!


「施設の中に入ってもですね、あの温泉の熱気が感じられないんです。湯気はもわもわと立っているのに、まったく熱くなかったです」


「アリシアさん……シャーレさんの話、聴いてます?」


「き……いてるよ? ど、どうしたの?」


 ナタヌがじろりと睨んでくる。


「もしかして今、シャーレさんの顔に見惚れてませんでしたかぁ? ねぇ、アリシアさん? ねぇねぇ⁉」


 怖い……。

 ナタヌが鋭すぎて怖い……。

 杖を構えてどうするつもりなの⁉


「ちょっと顔が見たかっただけだもん。布団に隠れていたし。ナタヌだって気になっていたでしょ……?」


「気にはなってましたけど~。シャーレさんって~、アリシアさんの好きそうな顔ですね~?」


 だから怖いって。

 斜めからガンをくれないようにガンを。


「私の顔……あっ」


 あーあ、また布団の中に潜っちゃった。

 ナタヌが怖い顔をするからだよ?


「人間の体でも、猫の体でも、シャーレさんはシャーレさんだから大丈夫ですよ。そんなに隠れないでおしゃべりしましょう?」


 そしてもうちょっとだけかわいい顔を見せてちょうだい♡


「ちょっとナタヌ? なんでわたしの前に立つの? シャーレさんが見えない……」


「失礼しました。つい、です」


 ついなんなのさ……。

 いや、ついならどきなさいって。そのままわたしの前に立ち続けるのは違うでしょ。


 動かない……わたしのSTR≪筋力≫をもってしてもナタヌの体が微動だにしない、だと……。


「アリシアさん、これが心意の力です」


 えっ、心意の力⁉ 何それ⁉ そんなシステムあったっけ?


「シャーレさん。あの2人は気にせず、話の続きをお願いします」


「あ、はい……」


 ちょっとラダリィ⁉

 気にせずってなによ! わたしだってちゃんとシャーレさんの話を聞きたいのに、ナタヌが邪魔してくるんだけど⁉ ラダリィ! こっちこっち! ナタヌのことを叱ってよ!


「アリシアさんは覗き見禁止です! ナタヌチェックです!」


 あー、ずるい!

 独自のチェックを作るのはずるいよ!


「シャーレさんは、湯気が熱くなかったので、そこは本物の温泉施設ではない。これは夢である、と、そう考えたわけですね?」


「そうです。とてもリアルな温泉施設でしたけれど、これは現実ではないのだなと、瞬時に理解できました」


「なるほど、それは興味深い体験でしたね」


 ノーアさんとシャーレさんの間で話が進んでいく。

 わたしを置いていかないでー!


「そこで……温泉の中で誰かと会いましたか?」


「はい。1人の女性と会いました」


 なんですとー!

 誰なの! 誰と会ったの⁉


「それは、シャーレさんの知らない人物ですね?」


「はい。初めての方でした。パストルラン王国に来てから出会ったすべての人のことは記憶していますが、そのどなたでもなかったです」


 知らない人が夢に出てきたってこと?


「その人物は、背が高く、ウェーブのかかった金色の髪を頭の上で結わいていて、時折親指で自分の頬をはじくような動作をしていましたか?」


 えらく具体的……。特定の誰かのことを尋ねているみたいな……。


「そうですそうです! どうしてわかるんですか?」


 ノーアさんの推理に興奮したのか、シャーレさんは再び掛け布団を取って顔を晒す。そしてそのまま前のめりになった。


 ちょっ、裸!


「ラダリィチェックです。全員後ろを向いてください」


 ……はい。……見たい。


「失礼いたします。シャーレさん。お召し物を」


「あ、はい。これを着れば……どうやって……」


「お手伝いさせていただきます」


 しばらく布擦れの音が辺りを支配する。

 何が行われているんだろう。いや、着替えなのはわかるんだけど……時々聞こえてくるシャーレさんの吐息が……エロい……。


「これで大丈夫ですね。みなさん、こちらを向いていただいて問題ありません」


「お、お騒がせしました」


 わたしは光の速さで振り向く。


 と、そこにいたのは――。


「ネコミミ美少女メイドだー! ありがとう。女神様! ミィシェリア様! この世に生まれてきたことに感謝します」


『この城の管轄はオレなんだが?』


 あ、スーちゃん。

 いたの?

 スーちゃんにも感謝感謝ー。


『おい、ちょっと祈りが軽くないか? さっきのテンションはどこに行った?』


 えっ、なんか……1回祈ったら冷めた、みたいな?


『おまえな……』


 てへっ♡


「それでは話を続けましょうか」


 と、ノーアさん。


「背が高く、ウェーブのかかった金色の髪を頭の上で結わいていて、時折親指で自分の頬をはじくような動作をしている人物と温泉の中で出会った」


「そうです。まさにその人と出会いました!」


「なるほど。わかりました」


 ノーアさんはそれだけ言うと、腕組みをして黙ってしまった。


 えっ、これで話は終わり?

 やけに具体的に描写したその人は誰?


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