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第81話 アリシア、シャーレさんの寝室に向かう

「アリシアさん! 大変です! 事件が起きました!」


 わたしが厨房で新作のスイーツ作りにチャレンジしていたところ、青い顔をしたナタヌが飛び込んできた。


「ん、どうしたの? そんな深刻そうな顔してー」


 またエヴァちゃんにいたずらされたスレッドリーが女神様送りになったとか?

 そんなことくらいじゃ、わざわざわたしのところに来ないか。


「シャーレさんが! シャーレさんが!」


 ナタヌは、それだけ言って、頭をプルプルと震わせている。


 シャーレさん?

 何かトラブル?


「何かあったなら教えて? 一応これでもこの城の責任者だし?」


 実際はノーアさんが取り仕切っているとはいえ、わたしもやれることはやれる範囲でがんばりますよ!


「シャーレさんが大変なんです!」


 と、ナタヌがわたしの手を引っ張る。

 一緒に来てくれ、ということなのかな。


「うん? わかったわかった。行くからエプロンくらいははずさせて」


 食材も保冷庫に仕舞いたいところだけど、まあ緊急そうなのでとりあえず雑にアイテム収納ボックスにつっこんでおこう。


 それにしてもこの慌てっぷり、シャーレさんに何が起きたっていうの?

 もしかして病気?

 でも猫の見た目をしていても、ほかのウルティムスの人たち同じでホムンクルスだしなあ。


 青い顔をして、無言でわたしの手を引くナタヌ。わたしもされるがまま、小走りで移動する。

 行先は……VIPルームかな。

 とすると、シャーレさんの自室か。



 到着した先はVIPルームが並ぶエリア。予想通りシャーレさんの自室だった。


「失礼します! アリシアさんを連れて来ました!」


 ナタヌが返事も待たずに部屋のドアを開けて中に飛び込んでいく。

 そんなに緊急事態なの?


「アリシア=グリーン。遅かったですね」


 ノーアさんが最奥の部屋から顔を覗かせて、手招きをしてくる。

 ノーアさんの顔色はいつもと変わりないみたい。そんな何か恐ろし気な問題が起こっているって感じでもないのかな。まあ、ノーアさんの顔色で何かを判断するのは難しいけれどね。


「ノーアさんも呼ばれていたんですね。シャーレさんに何かあったんですか?」


 ノーアさんのほうへと足早に向かう。

 向かった先はベッドルーム。

 ノーアさんの招きに応じて、わたしとナタヌはシャーレさんの寝室へと入った。


 中にいたのは、ウルティマさん、エヴァちゃん、ラダリィ、スレッドリー、そしてノーアさんの5人だった。そこにわたしとナタヌも加えて、わりと勢ぞろいだね。それでもスペースに余裕があるVIPルームの寝室。さすがVIP用!


 すでに中にいた4人は天蓋付きのベッドを囲むようにして立っている。

 そこにシャーレさんがいるのかな?


 ノーアさんと一緒にみんなのもとへ。


「まずはこれを見てください」


 これ?

 ノーアさんが指さしたのは、みんなの中心にあるベッド。

 天蓋は開け放たれている。


 そこにいたのは――。


 布団を頭の半分まで被った……人?


 これ……シャーレさんなんですか⁉


 えっ、人?


 人、だよね?


「えっ、シャーレ……さん?」


【こ、こんにちは……アリシアさん……】


 声はいつものシャーレさんだ!


「こんにちは? シャーレさんなんですか?」


【はい……】


 シャーレさん(?)は掛け布団にすっぽりと体を隠して、少し恥ずかしそうに顔を半分だけ覗かせていた。


「猫……じゃなくなってる……」


 完璧に人だ。

 いや完璧じゃないかもしれない? 頭にネコミミがついた人……。


「これ、どういうことなんですか?」


 シャーレさんが猫から人に変身した?


【今朝、シャーレが朝食にも姿を見せなかったので、様子を見に来たでやんす。一応ラダリィさんと一緒にでやんすよ? 女性エリアには無断で入っていないでやんす! 信じてほしいでやんす!】


 と、ウルティマさん。

 なんでこんな言い訳をしているかというと、それは昨晩の部屋割りの際の問答が原因だ。わたしは1つのルールを提案していたからね。


『空き部屋を挟んで、男女それぞれのエリアへの行き来は禁止。どうしても用事がある場合は、異性の誰かに同行を願うこと』


 健全なお城生活にはこういう規律正しいルールが必要なのです!

 ウルティマさん、守れていてえらい!


「それで、ウルティマさんとラダリィがこの部屋を訪れたら、シャーレさんがネコミミ美少女に変身していた、と?」


【そうでやんす】


「ええ、そうです」


 2人が肯定する。

 そんなこともあるんだねー。

 ホムンクルスって変身もできるんだ。


「アリシア=グリーン。仮初の体にそんな機能はつけていませんよ」


 ですよねー。

 さすがにそれはないと思いました。


「じゃあこれはいったい……?」


 ノーアさんが預かり知らないところで何かが起きているってこと?


【私、夢を見たんだと思います……】


 ネコミミをピクピクと動かしながら、シャーレさんがそう呟いた。


「夢、ですか?」


 ウルティムスの人たちも夢なんて見るんですね。

 そこは人間と一緒なのかな。


【あれがおそらく夢、なのだと思います。初めての体験でしたが、なぜだか『これが夢だ』と理解できたのです】


 やっぱり普段、夢は見ないんだ?

 でもそれがなんで突然、夢なんて見たんだろう。

 まあ理由はさておき、夢を見て起きたら……ネコミミ美少女になっていたってことだよね……。


「んーと、まずは昨晩の夢の内容を教えてもらっても良いですか?」


 それを聴けば、何があったのかわかるかな?


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