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第79話 アリシア、裏切られる

「おはようございます。昨晩はよく眠れましたか?」


 んー、あー、もう朝なの……。

 あと5分だけ……。


「朝食の時間だそうです。朝食の支度はアリシアの仕事だと聞いています。速やかに準備をお願いします」


「えー、いつもみたいにラダリィの体をモフモフクンカクンカしてからじゃないとヤダー。ラダリィ……早く一緒に寝よう♡」


「アリシア、寝ぼけるのもいい加減にしてください。私はそんな起こし方をしたことはありません」


「えー、念のため睡眠ポーションを嗅がせてからやってるから大丈夫ー。ほら早くー。痛っ!」


 頭に強い衝撃……。

 目の前に火花が散って脳が覚醒した……。


 痛いなー。もう……誰?


「アリシア……あなたって人は……」


「あれ? ラダリィ? 本物? あー、エヴァちゃんが変装しているんでしょ。すぐそうやってからかおうとするんだからー」


 おっぱいを揉めばエヴァちゃんかどうかなんてすぐにわかるんだからね!


 モミモミ。


 あれ? 無反応。

 やわらかい……でも張りがあって……またやわらかく……。

 こ、これは人工物では決して表現できない……まさか本物のやわらかさ……?


 モミ?


 モミモミモミモミ?


「はぁ……まだ寝ぼけているんですか? いい加減にしてください」


「痛っ! ちょっとなんで殴るの⁉ 頭陥没するでしょ!」


「私が本物だとわかってからも胸を揉んでくるからです。陥没させるつもりで頭蓋骨の薄い部分を狙いました」


 こわっ。

 マジで殺そうとしに来ている……。


「……怒ってるの?」


「怒っています」


「……なんで? ひさしぶりに会えたのに……」


 感動の再会で熱烈なハグは?


 モミ。


「ひさしぶりに会えた相手に対して、アリシアがしていることは何ですか……?」


「本物のラダリィかなーって確認を」


 モミモミ。


「出会い頭に胸を揉まれて喜ぶと思いますか?」


「うん」


 そんなに大きいんだもん。

 ひさしぶりなら揉まないとやっぱり失礼だよね?


 モミモ……ッ!


「痛い……なんでまた殴ったの? なんかちょっと見ない間にラダリィさん暴力的になったんじゃない……?」


 前はこんなことしなかったのに……。

 冷たい視線を投げかけてくるだけだったのに……。


「エヴァ様からアリシアの制御の仕方を習いました」


「あのロボ、余計なことを……。全部ウソだからね? アイツ、すぐに冗談ばーっかり言うんだから、まともに取り合ったらダメだよ」


 戻ってきたら倍返しだ!

 頭のブリキがへこむまで殴ってやる!


≪私の頭はブリキではありませんが≫


 コラー。ロボー!

 ラダリィに余計なことを吹き込んでからにー!

 なんかおっぱい揉んだだけでめちゃくちゃ殴られたんですけど⁉

 どう責任取ってくれるのさ⁉


≪アリシアは殴らないとわからないですから仕方ないです≫


 わたしゃ壊れた魔道具か!


≪知能指数は高いですが、それを活かせずにいるところが玉に瑕ですね≫


 何の分析なのそれ……。

 そんなことよりさっさとこっちに出てきてラダリィに謝罪をしなさい!


≪すみません、キャッチフォンが入ってしまったのでまた掛け直します。ツーツーツー≫


 キャッチフォンって何……。


「ロボが逃げた……」


「アリシアはエヴァ様がいないと何もできない体になってしまったというのは本当のようですね」


「それもエヴァちゃん情報……? わたしってそんなふうに見えてるの?」


「わりと」


 ショック!

 ガチであのロボにはどっちが優れた存在かわからせなければいけない時が来たようだ。ロボ泣かす。


「睡眠ポーション云々の話は後ほどゆっくりと話し合うことにしますので、まずは早急に大ホールに向かい、朝食の準備に取り掛かってください」


「あー、そっか。ウルティムスの人たちに朝食を振る舞う必要があるんだった……」


 起き抜けに200人前かー。

 さすがに今から調理して出すんじゃ遅いよね。

 また『龍神の館』の料理のストックに頼るかなー。


「ラダリィも配膳手伝ってくれたりする? スレッドリーとナタヌだけだとけっこう大変でさー。あ、でもこんなに朝早くにこっちまで移動してきて疲れているよね。やっぱり休んでいて。このポーションを飲むと疲れが取れるから」


 ラダリィに緑の小瓶を手渡す。

 忙しいからって、疲れている人に負担をかけるのは良くないよね。


「ありがとうございます。ですが、私は馬車に揺られていただけなので大丈夫ですよ」


「そう? でもせっかくだからそのポーションは飲んで?」


 飲んで。


「これは……いつものHP回復ポーションとは違うものですね?」


 ニオイを嗅いだラダリィが無表情のまま目を細めてこちらを見てくる。


「超回復ポーションだよ。体がすっきりするやつ! 改良版!」


 まさか気づかれたか⁉


「そうですか。ありがとうございます。いただきますね」


 大丈夫だった!

 さあ、一気に飲むのだ!


 飲んだ♪


「とても体がすっきりしました。これで元気いっぱい働けそうです」


 あれー? おかしいな……。渡すポーション間違えたかな? いや合っているね。


「どうしましたか? 何か不思議なものでも見るような目ですね」


「えっ? ううん! 元気そうで良かったなって!」


 おかしいな……。

 確かに超回復ポーションではあるんだけど、睡眠時間を1/10に圧縮するポーションだから、体が超回復する前に、最低でも1時間は深い眠りにつくはずなんだけど……。


「状態異常無効ポーションを服用しているので、私を眠らせようとしても無駄です」


「なん……だって……」


 状態異常無効ポーション……。

 ああっ!

 ストックがごっそり減っている!


「こんなこともあろうかと、エヴァ様からいただきました」


「あのロボー! 裏切ったなぁぁぁぁぁぁぁ!」


「アリシア、あとでゆっくりお話をしましょうね」


「……はい」


 お手柔らかに……お願いします……。


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