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第76話 アリシア、恋バナを聴く?(5)

 ノーアさんの話は重た過ぎだよ……。

 さすがにもう、これ以上の恋バナを出せる人はいないよね。


『ウルティムス』のみなさんも、人間の恋とはどんなものかお分かりいただけたかな? ちょっと上級過ぎたかも……。


【次はどんな話でしょう】


【人はおもしろいです】


【これが恋なのですわね】


【もっともっと知りたいです】


【私も恋をしてみたいわ】


【恋はどんな味かしら。おいしいのかしら】


【?@&T$#?$A"!~+B@*&%$E%"!】


 あれー? 感動にむせび泣いてもうこれでお開きだね、って雰囲気……じゃない?

 だってほら、ナタヌとスレッドリーはボロボロ泣いて……?


「さあ、次はどなたですか? アリシア=グリーン、どうですか?」


「いや……ちょっと……」


 ノーアさんの後はめっちゃ話しにくいし……そもそもわたし、恋バナのストックがないんですよね……。そうですねー。恋、してみたいですね……。


 いけない、これだと『ウルティムス』の人たちと同じレベルに……。


「いけっ! スレッドリー、もう一度話すドン!」


 ここはスレッドリーに滑らせて会を終わりにするしかないっ!


「俺か? ナタヌの番ではないのか?」


「ナタヌはほら、今ちょっと泣いているし、話せる状態じゃないと思うのよね。そういうの、わかる、よね⁉」


 乙女の涙を守るのも、王子様の立派な仕事よ!

 たぶんね!


「あ、ああ……わかった……」


 神妙な顔で頷くスレッドリー。

 大丈夫大丈夫。

 なんか適当に話をして、適当に滑ってくれればあとはこっちで何とかするから。


「ほら、ラダリィとの思い出でも語ったら?」


「ラダリィか? だが、ラダリィとの恋バナはないが……」


「ずっと一緒にいるんだし、ラッキースケベの話くらいはあるでしょ?」


「ラッキースケベ?」


「お風呂とか着替えとかを覗いて、『キャー、殿下のエッチー♡』みたいなやつ。そういうので良いから適当に話して!」


 寝ぼけてわたしと間違えて、ラダリィに抱き着いた話とかでもいいよ? 柔らかくて沈み込む胸に溺れて二度寝した話とか……ずるい! うらやましい!


「いや……そういう話はないが……」


「またまたー。さすがにあんなエッチぃメイドさんがそばをウロウロしていたら、日に5回くらいはスカートをめくるよね?」


「もし俺がラダリィに対してそんなことをしたらどうなると思う?」


「んー……死ぬ? んー……粉々? んー……ミンチ?」


「まあどっちにしてもってやつだな……。ラダリィには興味もないし、命も惜しいから絶対に近寄らん」


 なーんだ! 納得納得ー♪

 ぜんぜん夜伽の“よ”の字も出てこないじゃないのさー。

 王子様とメイドの危ない関係にはちょっと興味あったのになー。ま、まあ? ホントにそんな関係だったらマジ引くけど!


『一度だけハプニングがあったぞ』


 お? スーちゃんその話、詳しく!


『あれは、何年前だったか。五つ子の姉たちが一斉に嫁いで行った時の晩のことだ』


「スークル様! その話は……さすがにここでは!」


 おや? スレッドリーが珍しく慌てている?

 これは……おもしろ話のよかーん♪


『まあ良いじゃないか。話させろ。そのほうが場が盛り上がる』


 ノリノリのスーちゃん。

 そう言われてしまうと、もう強く出られないスレッドリー。


 いいぞ、スーちゃん! もっとやれ!


『五つ子たちの合同の結婚披露パーティーは、オレたち女神も参加して大いに盛り上がった。しかしそれも終わり、五つ子たちはその足でそれぞれの伴侶と新しい領地に向かって旅立っていった。その夜、王宮は火が消えたように静かになったんだよな』


 あの賑やかなお姉様たちがいなくなったら、まあそうですよね。

 残された王様も、王妃様も、スレッドリーも、ほかの兄弟姉妹たちも、さぞ淋しかったでしょう。


「スークル様……どうかその話は忘れてほしい……」


 いつも飄々としているスレッドリーがこんなふうに何度も言うのはとっても珍しいね。スーちゃんいいぞ、もっとやれ!


『その夜、いつものように執事たち、メイドたちが夜の見回りをしている時のことだった。ラダリィが担当区域を見回っていて、ちょうどスレッドリー殿下の部屋の前に差し掛かった時のこと――』


 そこで一度言葉を区切って、スーちゃんがスレッドリーのほうに視線を送る。

 スレッドリーは諦め顔でため息を吐く。「もう好きにしてください」と顔に書いてあった。やっと諦めたか。


『部屋の奥から音が……何かを引き摺るような音と、ぼそぼそと呟くような声が聞こえてきたそうだ』


「音? 声?……怖い話?」


 急に怖い話するのはやめて? 恋バナの会ですよ?


『ラダリィは警戒を強めて、そっと殿下の部屋のドアを開けて中に入った。もし賊が侵入していたりした場合、その排除もメイドの役目の1つだからな』


 それは警備兵の人の役目では……?

 なんか王宮のメイドさんたちって変じゃない?

 日常的に『ハイディング』スキルを見破ったり、読唇術や読心術を使ったり……賊の排除もするの……? それってもう、実はスレッドリーより強い疑惑が?


『仕込みのナイフを片手に音のするほうへと近づいた。そこでラダリィが見たものは――』


 見たものは⁉


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