「カイランドの統率力と武力、そして私の戦略力と知力を中心に、この島――のちにパストルラン島と名づけましたが、内乱を鎮圧し、1つにまとめることができました」
だいぶ端折って国家統一されちゃったなー。
どうやって内乱を鎮圧したのか詳しく聞きたいところなんですけど、恋バナから外れちゃうし、それはまた今度聞こう……。
「それから5年。内乱の後処理と各地の貴族をまとめ上げを行い、パストルラン王国樹立を宣言。カイランドが初代国王となりました」
内乱を鎮圧してから5年もかかるんですね。
政治って大変だー。
「1番強いヤツがボスな」って感じになれば楽なのに。
「ちょうど私が30歳になった日のことでした」
あれ? 時系列が複雑……。
内乱鎮圧成功から5年でパストルラン王国ができて? えーとえーと、ノーアさんが24歳の時にサーシャさんにプロポーズして、30歳の時にパストルラン王国ができて……つまり内乱鎮圧の1年前……戦争中にプロポーズしていたの⁉
「あと少しで国としてまとまる。そう思った時、私も気持ちが高ぶってしまいましてね。酒に酔った勢いで間違いを犯してしまったのですよ。お恥ずかしながら……若気の至りでした」
マジで何の告白なの……。
14年もサーシャさんを待たせた末、酒の勢いで間違いを⁉
誰かー、このクズ男を痛めつける方法を教えてー!
「そうそう、内乱鎮圧を宣言した時に、私の初めての子が生まれたのでしたね。今思えばなぜかカイランドは、サーシャの出産したその日に、統一宣言をすることにこだわっていた気がします」
なぜか、じゃないでしょ……。
めっちゃ弟思いの良いお兄さんじゃん……。
カイランドさんって人格者過ぎるでしょ。それに引き換え何このクズ弟は……。感謝こそすれ、暗殺しようとするなんてことありえないでしょうに。
「まあ、その時カイランドにはすでに15人の妻と、32人の子がいましたが」
えっと……ちょっと考えを改めます。
カイランドさんって言うほど人格者かな?
15人ってもはや手あたり次第じゃん。さすがにモテすぎだし、うらやましすぎるでしょ。いやいや、わたしも今から本気出せば30歳の時に15人くらい余裕で行ける⁉
「国が落ち着いた後、私はサーシャとともに王宮を離れました。カイランドと仲違いをしたわけではありませんよ。魔術を、そして魔法を極めたくなったのです」
そうだ、ここからノーアさんが『賢者の石』に至るための探究が始まったんだ。
「各地を巡り、廃れつつある古い魔術の残滓を集めて回りました。とくに不老不死に関する情報がほしかった。人を傷つける魔術ではなく、救う魔法の手掛かりがほしかったのです」
「人を救う? 内乱が終わり、平和な時代が訪れようとしていたのに? もう十分に人々を救ったのではないですか?」
そこからはむしろ政治の力というか、どう国民を豊かにしていくか、生活を安定させるかが必要な気がします。不老不死は違うんじゃないかなと?
「アリシア=グリーン。それは当時のことを歴史として振り返って見た場合には、たしかにそうなのでしょう。しかし、私にとってみればあれは歴史ではなく、現実の話だったのです」
現実の話、か。
目の前で見えているものは違った、と。
「大局的にいえば、この島は、国としてまとまることで平和になりました。私たちには前世の知識もありましたし、法治国家としての理想的な在り方がはっきりと見えていた。それを国民にも希望という形で魅せることができていた。しかし、それは未来への希望に過ぎなかったのですよ」
未来への希望。
それを抱きながら苦しい今を乗り越えていく。
何もおかしいことではないと思いますが……。
「私の現世は貴族であり、後に王族となりましたから、国民と比べれば食べるものには困らず、着るものにも困らず、将来への不安など何もありませんでした。しかし、国民はどうか」
貧富の差。
人が寄り集まればどうしても発生してしまう問題ですよね。
全員平等に、なんてことは言うのは簡単でも実現しようとするとどこかで破綻が起きるだろうし。
「王都から離れれば離れるほど、国家樹立前の貴族たちの統治体制が色濃く残っている状態でした。女神様に祈る気力もない、そんな状態でした」
女神様に祈りを捧げれば、信仰心を強く持てば加護が与えられたかもしれない。
でもそれですべての人が救われるとは限らないものね。たぶんだけど、内乱のせいで信仰を集めにくい状況にあっただろうし、今ほど女神様たちの力も強くなかったんじゃないかな。
「その日の食べるものにも困る状態で、生まれた子に与える乳が出ず、子は成長できずに亡くなっていく。それらの状況を知りながら、『未来に希望はある。いずれ国は豊かになるから今は辛抱しよう』などとは口が裂けても言えませんでした……」
ああ、その人たちにはいずれなんかない。今だった。
今、その時にしあわせが必要だった……。
「しかし私1人に救える命は限られていました。どんなに魔術を習得し、魔法を極めたとしても、できることには限界があった。仲間を増やし、弟子を取り、それでも足りなかった。私は彼らの今を救うことができなかったのですよ。一生を捧げてその方法を探しましたが、ついに届くことはなかった」
人としての限界、か……。
人が人を救うことの限界。
きっとノーアさんは最大限やったんだと思います。
誰も責めたりはしない。
サーシャさんだってずっとついてきてくれたんでしょう?
「しかし、女神様は私を見放されはしなかった。命が尽きるその時、生命の炎が最期にほんの一瞬だけ燃え上がったその瞬間、私はそこへ――『賢者の石』へと至ることができたのです」