スレッドリーの話が終わり、少し会場がざわざわとし始めた。
『ウルティムス』のみなさんが、スレッドリーとわたしの顔を交互に見て、何やらコソコソ話をしている様子が見える。
ちょっと……居心地が悪いですね……。
完全にスレッドリーの主観だし、実際にはそんなに美談ってわけでもないんだけどな……。
と、ノーアさんが立ち上がり、両手を広げた。
「次の恋バナは、私の番ですね」
「「えっ⁉」」
わたしとナタヌの口から同時に、大きな驚きの声が洩れた。
いや、流れ的にはわたしかナタヌがしゃべる番のはず……。
わたしは何も思いついていないから、ナタヌに孤児院でわたしと出逢った時の話をしてもらう流れだと思ったのに?
まさかのノーアさん自身がいくの⁉
もしかして、自分の恋バナを話したくてこの会を開いたってこと⁉
「私とアリシアの出逢いは――」
「ちょっとぉストーップ! ノーアさん、それはストップです!」
それ以上はダメです!
「どうしましたか? これからおもしろい話になるというのに」
自分でおもしろい話とか言わないでください。
そうじゃなくて、それ以前の問題で――。
「恋バナのカテゴリーで、わたしとの思い出をしゃべらないでください」
「なぜですか? 殿下の時には止めなかったというのに」
素で聞いてきている?
ウソでしょ……。
「それは恋バナだったからですよ。認めたくはないけれど、スレッドリーにとってはあれが恋バナだったんだろうし……それはまあいいです。でも、ノーアさんの話そうとしているのは恋バナじゃないでしょ!」
単にわたしとの思い出を語ろうとしているだけでしょ!
それはこの場には不適切だから!
「少しボケてみただけですが、つまらなかっ――」
「すごくつまらないですねっ!」
食い気味に言ってやったわ!
真面目な顔してボケるのはやめてください!
心臓に悪いので!
「それでは真面目な恋バナをしましょう」
真面目な恋バナって何?
いやまあ、別に恋バナが不真面目って言っているわけじゃないんだけど、若干モヤる……。
「私と妻のサーシャとの出逢いの話です」
おお、それは真面目な恋バナだ!
それならとっても聴きたいです!
「long long time ago. あれは私がこの世界に転生してきてから初めて迎えた冬の出来事でした」
なんか昔話風の語りが始まった……。
そう言えば、ノーアさんも転生者でしたね。
転生してきて初めての、ってことは、前世の記憶が戻ったばかりの――仮成人を迎えた10歳の時の話ってことかな。
「カイランドが『合コンといふものを、俺もしてみむとてするなり』と言い出しましてね」
何か聞いたことがあるフレーズ。なんだっけ……前世の……ここまで出かかっているのに思い出せない……。こんな時にエヴァちゃんがいてくれたらな……。
チラッ。チラチラッ。
反応なし……。悲しい。
「私も若かったので言ってやったのです。『兄貴、この世界ではハーレムが許されるらしいぜ』ってね」
ハーレム!
というか誰? 今と口調が違い過ぎる!
「兄貴?」
ナタヌが首を傾げる。
「ああ、私とカイランドは双子の兄弟なのです」
「えっ⁉ リアル兄弟ですか⁉」
「はい。当時、とある貴族の家に生まれ……と言っても私たちは2人とも仮成人の儀の際に記憶が戻った転生組でしたが、カイランドが長男で嫡子、私は次男でした」
マジ?
そっか。当時は国家統一もしていないから王族ってわけじゃなかったんだよね。
でも貴族の子かあ。
ていうか、初代国王のカイランドさんとノーアさんって実の兄弟だったんだ……。
「私たち兄弟は、貴族らしい振る舞いを心がけようと心に誓い、未来のハーレムを作るべく奔走しました。しかし将来有望な貴族の嫡子ということで、カイランドばかりがモテていました。悔しさのあまり、何度か飲み物に毒を混ぜてやりましたよ」
貴族らしい振る舞い=ハーレムなの? ホントにそれ合っています?
ってぇー! サラッと実の兄を暗殺しようとすな!
そこでカイランドさんが死んでいたら、パストルラン王国もなかったんだからね⁉
「しかしカイランドは『毒耐性』があったため、暗殺では死なない男だったのです。残念でした」
さすが初代国王様!
『剣聖』スキルも持っているし、『毒耐性』もある!
「毒では無理だと悟った私は、当時試作したばかりの45口径の拳銃で撃ってみることにしました。しかしそれも簡単に避けられてしまいましたがね」
拳銃⁉
この世界にそんなものないですよね⁉ 自作したの⁉
「毎回、兄のカイランド暗殺に失敗していた私を慰め、励ましてくれていたのが、何を隠そう、後に妻となる幼馴染みのサーシャでした」
えー、このタイミングで恋バナが始まるの⁉
暗殺計画のほうがぶっ飛びすぎていて、ぜんぜん入ってこないんですけど……。
しかもサーシャさんって、幼馴染みかよっ!
幼馴染みエンドは反則でしょ! 最初から恵まれているくせに合コンとかすんな! 何の感情移入もできないわ!
「サーシャはカイランドではなく、私のことが好きだという、かなり変わった性格の女性でした」
客観的に見れば、まあそうなのかもしれないですけど……人の好みはそれぞれというか、ね? そんなに自分のことを卑下するものでもないですよ?
「私は『次男だし、家督を継ぐことはないので一緒にいても意味がない』と再三にわたって告げたのですが、サーシャは『ノーアと結婚する』と言って聞かないのです。困りました……」
はい出たー。
「ヤレヤレ、困ったぜ」ってぜんぜん困ってないやつー!
解散解散!
こんな惚気話、これ以上聞いていられないでしょ!
「私は言いました。『そこまで言うのなら、何があっても私のそばから離れるな。それを約束できるなら結婚しよう』と」
うわー、何があっても、か……。
めちゃくちゃかっこいいセリフなんだけどな……。その後の顛末を知ってしまっているわたしからすると……もうつらい……。
「当時24歳の出来事でした」
ええっ⁉
ちょっとちょっと! 今ノーアさんが10歳の時のつもりで話を聞いていたんですけど、いつの間に14年も過ぎたんですか⁉
「えっ、じゃあ14年もサーシャさんを待たせたんですか⁉」
「待たせてなどいませんよ」
どういうこと?
でも14年過ぎてますよね?
「サーシャが勝手に待っていたんです」
やかましいわっ!
モテ男のエピソードはもうカンベンして!