目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第20話「複製死体」


「考えられる可能性はあと1つ。誰かがマグジールの複製死体デッドコピーを作り出したか、だ。」

「デッドコピー……ですか?聞いたことの無い単語ですけど………。」


アリスは耳慣れない単語に首を傾げ、フリードと、遅れてやってきたディートリヒも俺に視線を向ける。

それとは対照的にフェンリル達は顰めっ面を浮かべているが、それは仕方ないだろう。


「伝わってないならいい。俺らの時代でも外法扱いだったからな。確認するが、魔族の生まれる原因は覚えてるな?」

「はい。浄化された魂から零れ落ちた負の感情が集まって生まれるものですね。」

「そうだ。複製死体ってのは、魔族の発生を防ごうとして作られた術だ。」

「魔族の発生を………防ぐ?」

「死者の身体を複製し、本来グレイブヤードに行くべき魂をその肉体に移し替えて現世に留める……、そういう事ですかな?」


説明をしようとしたところでディートリヒが先に答えを言う。正解だ。


「やっぱり凄いな先生。殆ど何も言ってないのに。」

「はっはっは。複製死体、そこに加えて魔族の生まれる原因などと言われれば、答えを言ってるような物ですよ。」

「それでも、だよ。さて、先生の言う通り複製死体……、デッドコピーはそうやって新たな魔族の発生を防ごうとヴォルフラムによって開発が指示された。………当然の如く失敗したがな。」

「どんな風に失敗したんだい?」

「たしかに、肉体の複製は成功した。だが、魂の移動、回収なんてのは人間には不可能だ。結果、中途半端に対象の生命を複製した魂が肉体に入り暴走。周囲の魔素、制圧に来た城の魔導士や兵士を取り込んで暴走し、特級魔族が生まれた。」


何となくでも想像出来たのだろう。フリード達が一斉に眉間に皺を寄せる。


「………その後は?」

「その後、城で暴れるだけ暴れて城下に出てきた所をたまたま居合わせた俺と、中途半端とはいえ、複製された生命を感知して事態の全容を確認しに来たフェンリル達でこれを討伐。そのまま4人でヴォルフラムの所に行って、禁術指定にして封印しろと脅して帰ってきた。」

「…………クソみたいな国王だね。」


フリードが失敗の詳細を聞いてくるので、俺は当時の事を事細かに説明すると、フリードは汚い言葉でヴォルフラムを罵った。

こればかりは本当にそう思う。建物どころか市民にも被害が出たし。


「さすがの奴も、事態が事態だったんで即座に禁術指定にしていたよ。だからそれを使ったんじゃないかと思うんだが……、大規模侵攻で失われた可能性が高いし、そもそも別の理由でこの線は薄いかもだな……。」

「生命の循環の話、ですよね……?」


アリスの質問にフェンリルが頷く。


「うむ。一度死んだ魂はグレイブヤードで浄化され、そこから輪廻の輪に加わる。その浄化の過程で魂は無色……つまり元の人格なども洗い流されるのじゃ。複製死体の生命とは複製元の肉体に残っていた魂の残り香から生まれた物……。奴の死体を1000年もの間、綺麗に保管してでもいなければ、当時のマグジールの様な魂を持ったデッドコピーは作れぬ。」


そうフェンリルが答えると今度はニーザが口を開く。


「そもそも、何か違法な形で生命が作られた場合、それが劣化コピーであってもアタシ達はすぐに分かるようになっている。アンタ達が寝ている間、アレが作られた形跡は無いわ。」

「だよな………。」


俺は大きく肩を落とす。

奴が出てきたことで、何か事態に進展でもあるかと思ったが、余計に分からなくなっただけだ。

俺は空いてるソファーにドカリと身体を沈め、一つ気になった事を聞くことにした。


「そういえばだ。フレスにも改めて聞くんだが、器って何か心当たりは無いか?」

「は?器?何の?」


俺はあの時、マグジールが言っていた事を話題に出す。

突然の問い掛けにニーザが目を丸くした。フェンリルもだ。

俺の代わりにフレスが答える。


「スノーヴェールでマグジールが言っていたんだ。『器が見つからないばかりか』、とな。」

「なるほどね………。」


ニーザが口元に人差し指を持ってきながら心当たりが無いかを探ると、フレスは腰に差した剣の柄に手を置きながら続きを話す。


「私がスノーヴェールに封印、保管していたのはリアドール君に渡した天聖具だけだ。器となる物に心当たりは無い。」

「そういう事ならアタシもよ。フェンリルは?」


その問い掛けにフェンリルは首をやはりと言うべきか、横に振った。


「汝らも知っての通り、妾もアルシアと共に眠りに就いていたからな。1000年前でもそんな物に心当たりは無い。器が他の何かを示す単語だとしてもじゃ。」

「他の………、何か。」


俺がそう漏らすと、フェンリルはその青い瞳を僅かに細めながらこちらに向けた。


「何かを入れる物が文字通り器とは限るまい?あくまで妾の勘じゃが、マグジールの言う器とはそのままの意味では無いのじゃろう。」

「なるほどな…………。一応聞くが、アリス達はどうだ?何かそれを連想する単語に心当たりとか?」


この際、ヒントになるなら何でもいい。

もしかしたら俺達では見当が付かない物の可能性だってある。

そう思ってアリス達を見るも、3人とも申し訳なさそうに首を振った。


「力になれなくて申し訳ないけれど、残念ながら僕にも心当たりが無い。必要であれば部下に調べさせるけど、どうする?」

「そうだな……。すまないがお願い出来るか?ただし、危険だと分かるような事なら無理に調べないでいい。」

「分かった。すぐに手配するよ。」


そう言ってフリードがすぐに部下に指示を出し始めると、今度は先生が席を立った。


「私も思い当たる物はございませんが、遺跡調査の資料を探ってみましょう。何か見つかるかもしれない。」

「ありがとう、頼むよ。」


そう返すと、先生はにっこりと微笑み部屋を後にし、入れ替わりにフリードが戻って来る。


「お待たせ。まずは城にある宝物庫や記録から何か無いか調べてもらうことにしたよ。何か分かればすぐに知らせる。それでなんだけど…………、」

「ん?どうした、フリード。」


少し申し訳なさそうな顔をするフリードに何かあったのか?と俺が首を傾げると、言うべき言わないべきか……、そんな風に少し迷ってから彼は口を開いた。


「アルシア。まだ何も分かってない中、こんな事を聞くのもどうかと思うんだけど、聞いてもいいかい?」


そんな風にフリードが申し訳無さそうに聞いてくるが、俺は「別にいいぞ。」と返す。

せっかくだ、気分転換になるかもしれないし、何かヒントになるかもしれない。


「さあ、聞きたいことを言うがいい。フリードリヒ・フォン・カーラー。どんな質問もこの災い起こし、アルシア・ラグドが幾らでも答えてやろう!!」

「いきなり何でそんな尊大な口調になったんだい!?いや……まあ、いいや。なら一つ……。」


フリードは軽く咳払いして、真面目な顔で一言。

恐らくこの部屋にいる、この時代に生きる全ての人達がどこかで気になったであろう質問を。


「そもそも、どうして君達は1000年も眠り続けていたんだい?」

「…………………。」


(その話かぁ…………………。)

押し黙ると同時に、魔界を統べる偉大な高位魔族3人が白い目で俺を睨んでくる。

………どうしよう。

当たり前の様に答えたくない質問が飛んできた。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?