「あー、その……何だ。その話はまた今度に……。」
「アルシア。さっきどんな事でも話してくれるって言ってたよね?」
その言葉に俺は「うっ。」と声を詰まらせる。
顔は笑っているが目が「お前が言い出した事だろう」と訴えてきている。
答えるまで逃がしてなんかくれないだろう。
「実は………」
「此奴がバニシングフィールド…………、アークリッチーの火球を消し去る際に使った魔装具でルーリア平原を今の渓谷にしたせいじゃ。そうだろう、アルシア?」
「……フェンリル。」
観念して原因を言おうとしたが、先にフェンリルに言われ、俺は眉をへの字にする。
フェンリルの言った内容にフリード達が「嘘だろ?」とでも言いたげな顔をこちらに向けた。
「平原を………、まさか、伝承にあった平原を渓谷に変えたって、本当に君の仕業なのかい!?」
「あー……、いや……。」
そう、確かに変えた。平原をバフォロスで暴走魔族諸共消し飛ばした。
だが、平原を渓谷に変えたのはまだ被害としては可愛い方だ。問題は………、
この期に及んでまだ言い淀んでいると、今度はニーザが軽やかにアリスの方へと歩き出した。
賭けてもいいが、アイツまで首を突っ込んだらもう終わりだ。
「人間達の伝承ではアルシアはどう語られているのかしら?」
「ニーザちゃん、学校で使ってる教科書があるけど、見ます?」
「ありがとうね、アリス。どれどれ………ぷっ、アハハハハハ!!見てよフレス、まんまコレ当時のアルシアの姿じゃない!」
アリスから渡された教科書を眺め、ニーザは挿し絵になっている俺を見て大笑いした。
◆◆◆
1000年前のルーリア平原跡……、
「取り敢えず………もう寝ていい?」
「駄目じゃ。」
「駄目に決まってるでしょ。」
「駄目だ。」
7日に渡る死闘を乗り越え、漸く文字通り死ぬ程寝ることが出来ると思っていたのに、待っていたのは高位魔族3人による却下の言葉だった。
「何でだよ!」
「当たり前でしょ!アンタ、龍脈どころか大龍脈までぶっ飛ばしておいて「疲れたから俺もう寝るねー♪」なんて舐めた話が通る訳ないでしょ!!」
「ぐっ!?」
それを言われては何も言えないと俺は押し黙る。
龍脈は大地の下に流れ、生き物の血管の様にこの大陸に流れる力の河だ。
そして、大龍脈とはその龍脈を束ねる核で、それがこの大陸の中心部に存在している。
龍脈だけならばたとえ傷付けたとしても、大龍脈が健在なら放っておいてもまた再生する。
しかし、これが大龍脈を破壊したとなれば事情がまるで変わってくる。
バフォロスで砕いたのは大龍脈の表層部分だけだから今は問題ないとは言え、何もせずにあと3日も放っておけば、ファルゼアは砕かれた大龍脈から溢れた力の奔流によって、跡形もなく吹き飛び、最後には崩落する。
現に今は力の暴走などは無いが、気温や天候などが大分おかしな事になっていた。
細かな指示をフェンリル達に出しながら、ニーザはこちらに向き直る。
「取り敢えずアルシア。フェンリルとフレスで露出した龍脈を埋めていくから、アタシと今の内にバフォロスと鎖を使って大龍脈の応急処置!いいわね!」
「………えぇい!あんなもん使うんじゃなかった!!」
俺はバフォロスで平原を焼き払った事を後悔しながら、ニーザと共に大龍脈の応急処置を始めたのだった。