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第22話「封印の真実・後編」


丸一日の作業の後、大龍脈の応急処置は終了し、龍脈もフェンリルとフレスが権能をフルに酷使する事で――ついでに土砂や瓦礫などを運ぶ肉体作業もこなし――無事、元の機能を取り戻した。

暫くはこれで問題ないだろう。

そして龍脈を見事修復した肝心の高位魔族2人はと言うと……


「高位魔族に土木作業をさせる人間など………、生まれてこの方、見たことも聞いたことも無いわ……。」

「全くだ……。アルシア、君は魔界の歴史には名を残すかもしれんぞ?」


数日に渡る大規模侵攻を止めた挙げ句、龍脈の修復という土木作業などやらされてヘトヘトになったフェンリルとフレスは嫌味を隠すことなく、息も絶え絶えに俺をさっきから罵倒していた。


「………いやー。」

「褒めておらんわ馬鹿者!!!」」

「ぎゃあああ!?」


冗談で照れ隠しに微笑んだのはいいが、遂に怒りが頂点に達した2人によって袋叩きにされて悲鳴をあげる。

因みにニーザはニーザで、バフォロスに繋いだ魔力供給用の鎖に齧りついて、潰れながら魔力の補給をしていた。

それでいいのか、自称レディー。


「まったく………。それで、そっちはどうじゃ、ニーザ?」


俺をひとしきりボコボコにしたフェンリルは、大龍脈の修復状態を聞くべくニーザに問いかけ、ニーザも気怠げに「んー……。」と頭を上げた。


「取り敢えず……、応急処置は済んだわ。放っておいても一年は平気。けど、このバカチン。バニシングフィールドなんかぶっ放した時にまで使ってるから、外の世界との接続はズタズタ、大龍脈を完全に直さないとどうしようもないわ。」


「さすがに放置出来ないもんなー……」と、一度口から離した鎖を再度齧り直して、ニーザはまた地面に突っ伏した。だから、それでいいのか自称レディー。

潰れているニーザに気の毒そうな視線を投げかけた後、フェンリルはこちらを見た。


「……それで、妾達に袋叩きにされた汝は何をしておるのじゃ?」


フェンリルはボコボコのボロボロにされた俺がある魔法を展開してる様を見て、呆れた様に聞いてきた。

俺はそれに、術式の設定を弄りながら返す。


「何って、見れば分かるだろ。俺が使う予定だった冬眠魔法を大龍脈の修復専用魔法を組み換えてるんだ。さっき応急処置した時に必要な情報は割り出した。………と、あとはこことここを組んで、ここは変えて……。」

「だから、なんで汝が入る事前提の冬眠魔法でそれを組み直しているのかと聞いておる。」

「勿論、俺がこれに入って大龍脈の修復をするからだ。」


当たり前の様に返すと、フェンリルは目を細めて少しばかり怒気の混じった声を響かせる。


「………何を言ってるのか本当に分かっておるのか?」

「勿論だ。お前らからしたら忘れ去るくらい短い付き合いかもしれんが、俺は目茶苦茶楽しかった。ありがとうな。」


そう答えて腰から下げたアダムの書も用意する。大体の準備は出来た。

あとは魔法陣に入って起動の手順を……というところで手首を掴まれた。さっきまでそこで突っ伏していたニーザだった。


「アンタ……。分からない訳ないわよね?そんな事をすればアンタは……」

「ああ。たぶん生きて帰って来れないし、出て来れても何百年も先だ。俺は自分を修復制御用の回路にするだけだ。その間、のんびり寝るか、終わってからくたばる事にするよ。」

「……駄目よ。大龍脈を破壊したのはたしかにアンタだけど、あそこであの数の暴走魔族を吹き飛ばしてなければ、それこそ人間は絶滅してたわ。アルシア、大龍脈はアタシ達で何とかしてもいい。だから……」

「聞かねえ。」


俺がそう拒絶すると、黒髪の竜の少女はそこで初めて怒りを露わにした。


「なんで!アタシ達でやるから、アンタは何もしなくていいって言ってるでしょ!!」


掴まれた手首に爪が食い込みかける。

俺は何もしなくていい……、嬉しい話だし代わりにやってくれるならどれ程楽な事か……。

けれど、それがどういう結末になるかを知ってる身としては、させる訳にはいかない。

これ以上、何も失いたくない。

………何よりだ。


「人間が……、俺達がロキを殺して、危うく世界を滅ぼしかけた。たとえ、それを俺がやった訳じゃないとしても、何の代償も払わずのうのうと生きるなんて真似………、俺には出来ないよ。誰かに代わりにやらせるつもりもさらさら無いしな。」


ヴォルフラムとマグジール達はあまりにも身勝手な理由でロキを殺してしまった。

俺にとってかけがえない友人で、こいつらにとって大事な家族とも言える彼を……。

今回の件で、俺はファルゼア王国には完全に愛想が尽きた。

戻る気にもならないし、仮にあそこでやる事と言ったら、この状況を作り出したヴォルフラム達に落とし前をつけさせる事くらいだ。

ただ、もうそれをやろうという気にすらならない程、疲れた。

もう生きてる事さえ、どうでもいいと思えるくらいに。

本当に、大龍脈の修復役なんてちょうど良かったのだ。


何だかんだ優しい黒髪の竜の少女に「ありがとうな。」と礼を言い、掴まれた手を空いてる方の手で離してまた魔法陣へと歩き出そうとするが、再びニーザに手首を掴まれる。

止めても無駄だと分かったのか、覚悟を問う表情だ。


「アンタが修復用の回路になるとして、炉心はどうするのよ?言っておくけど、アルシアがどんなに強かろうが、それで代わりになる訳……」

「コイツらを使う。コレなら問題ないだろ。」


俺はバフォロスと鎖、手元のアダムの書を見せる。

修復用の回路になると言っても、俺一人では無理だ。炉心なんて論外である。

だから、回路の延長としてバフォロスと鎖を大龍脈に繋ぎ、俺はそのコントロールと、アダムの書を使って炉心の役割をする。


神器、魔装具はどちらも特殊な生まれだ。

時間の経過と共にその存在を強固にする関係上、何をしても壊れる心配もない。

「これで文句ないだろう?」とニーザを見るが、彼女は何故か今度は呆れた顔をしていた。

その後ろにいるフェンリルとフレスもだ。


「………何だよ。」

「……アルシアが本気なのは分かったし、それならたしかに出来なくはないわ。その上で聞くけど、アダムの書は意思なんか持ってないから、命令式無しで炉心にはならないわよ。アンタ、大龍脈の修復なんて大作業しながら、アダムの書の命令式なんか維持できるの?」

「………………………あ。」


(無理だ……………、)

俺の今気付きましたという反応に、3人揃って大きな溜め息を吐いた。





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