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第4章「ヴェルンドの村大騒動」

第24話「体調不良?のニーザ」


これは、出発する1時間前の事…………。

俺は背中に荷物に苦笑しながらフレスに問いかける。


「なあ、フレス………、」

「駄目だ。」

「でも…………、」

「駄目な物は駄目だ。」

「けちんぼ!!」

「やかましい。」

「あたっ!?」


持ってる剣の柄で頭頂部を殴られ、情けない悲鳴を上げるも、フレスは軽く肩を落とした。


「1000年も側を離れていたんだ。少しはの事も考えろ。」

「………………………。」

「返事。」

「痛い!?」


再び頭頂部に手痛い一撃を喰らい悲鳴を上げる。

そして、これ以上やり取りするつもりはないと背を向けるフレスから背後の荷物ニーザに視線を移して溜め息を吐く。

よりにもよって今か、と。




◆◆◆


 俺達はフレス達に見送られ、ヴェルンドの村へ向かっていた。

同行してるのはアリス、フェンリル、ニーザの3人で、本来なら全員で竜化したニーザに乗るところだった。


だが、その肝心のニーザはと言うと………、


「うぅー……、アルシア、離さないでよ………。」

「分かった。分かったから、そんなにしがみつくな、ニーザ。頼むからいつもみたいに邪険に扱え。」


現在、絶賛体調不良で移動している俺にしがみついている。普段なら絶対にあり得ない光景だ。

なので、アリスは本来の姿に戻ったフェンリルの背に乗り、俺達は現在陸路で移動しているのだ。


「アルシアさん、そんな事も出来たんですね……。」

「ああ。アリスもフェンリル達と契約はしてるだろ?」

「してますけど、私は神術側の契約なので、そんな風にはならないですよ?」

「それもそうか。俺のは魔法側の契約だし。」


それだけ言って、俺は

召喚サモン。特定の相手と契約を結べる術で、契約した相手を呼ぶ……のではなく、契約した相手の力を自身に纏う物だ。

今俺はニーザの力を召喚で使っており、その影響で頬には鱗のような紋様が浮かび上がり、身体には竜の翼、爪、尾も形成されている。

アリスは不思議そうに俺とニーザを見る。


「でも、フェンリルさんの身体なら3人乗っても大丈夫ですよね。駄目なんですか?」

「妾は全然構わんのだが………な?」

「ああ、普段ならそれでいいんだが………。」


フェンリルも獣化すれば大きい。

俺達どころか、10人くらい乗ってもまだ空いてるくらいだ。

本当ならわざわざ召喚など使わずに一緒に乗ればいいのだが、俺にしがみついている少女がそれを許さない。


「…………やっ。」


俺が見下ろすと、黒髪赤眼の竜の少女はそれだけ言って俺の胸元に顔を隠してしまった。

これには俺もフェンリルも本当に困った顔をした。

よりにもよって、このタイミングか……と。

しかも、1000年も俺がいなかったせいか、知ってる限りでは一番酷い。

俺がフェンリルに乗ると、というかアリスの近くにいるだけでも拗ねるので、わざわざこんな事をしているのである。

俺とフェンリルは見慣れた――決して見慣れたくはないが――が、アリスはこの状態のニーザを見るのは初めてなので、本当に驚いた顔をしている。


「その、いつもはケンカしてるイメージというか……」

「イメージもクソもそれで合ってるよ。基本的に俺達はあんな感じの付き合いだ。」

「そうですよね……。なんで、ニーザちゃんはこんな事に……」

「女の子の日じゃからな。」

「え……!?」

「おいコラ。」


フェンリルがとんでもない事を言ってアリスが驚いているのですかさずツッコむ。

びっくりしてニーザを落としかけたろうが。


「………発情期か?」

「ふ、フェンリルさん?!」

「誤解を招くような事を言うんじゃねえ、バカ狼が!なんつー事を言うんだ!!」


フェンリルの問題発言でアリスは遂に顔を真っ赤にして顔を俯かせてしまった。

ニーザにも文句の一つでも言ってほしいが、この状態の彼女では期待をするだけ無駄なので自分だけで何とかするしかない。


「では何だと言うんじゃ?ある意味、コレが一番妥当な表現だろうに。」

「いや、そうかもしれんが……、他の誰かが聞ける移動速度じゃないとはいえ、言い方よ!!」

「あの……、ニーザちゃんは結局、体調が悪いという表現で合ってるのですか?その、女の子の日なら尚更……」


俺とフェンリルがギャーギャー言い合っていると、アリスが遠慮がちに、モジモジしながら聞いてくる。

どう言えばいいのだろう、と悩んでいると、フェンリルが先に口を開いた。


「……説明が面倒なんじゃがな。寧ろ、いつものニーザがおかしいと言うか、違うというか……。」

「………その表現ならいいや。ニーザは変な話、この状態になったら出来る限り俺らのうちの誰かの目につくとこに置いた方がいい。フレスに今回、留守をお願いしたのはそれが理由だ。この状態のニーザを城になんか置けん。」


最悪の事態を想定……、と言うより、どう転んでも最悪の事態になるので、わざわざ運んだ訳を大雑把に説明する。


「………どうなるんですか?」

「あー…………」

「………言わんと面倒な事になるぞ、アルシア。その状態でもニーザはしっかり聞いておるんだからの。」


言おうと思って胸元のニーザを見下ろすと、頬を上気させて潤んだ目で見てくるので言い淀んでしまう。

たが、フェンリルに言えと促されるので、観念して口を開く事にした。


「………この状態のニーザを俺が置いていくと、たぶん、ファルゼア城を消し炭にして俺を追いかけてくる。」


それを聞いたアリスはただただポカンと大きく口を開けて、俺の身体にしがみついている爆弾ニーズヘッグを見やるのだった。

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