「ゴドー、さっそく本題なんだが…………、」
「今回現れた強化魔族と暴走魔族の事だろ?戦った奴らから聞いた情報だが、いいか?」
「ああ、頼む。」
俺がそう返すとゴドーは頷いた。
因みにフェンリルは真面目な話という事で俺からニーザを剥がし、膝の上に乗せていた。
かなり不機嫌そうな顔をして頬を膨らませているが、ちょっとだけ我慢しといてもらおう。
「まず強化魔族の方だが、はっきり言って大した強さじゃねえ。たしかに、通常の魔族に比べれば知能も上だし強くはあるが、それだけだ。暴走魔族程じゃない。」
「ドワーフ達だからな。問題無く倒せるだろ。」
「まあな。続いて暴走魔族だが、こっちも1000年前程の強さじゃない。」
「当時より、弱い………、」
やはり1000年前と今回、何かが違うらしい。
「厄介な事に変わりないがな。」と付け加えて、ゴドーは手元のお茶に口を付け、またこちらに視線を向ける。
「結論から言っちまえば、あの程度なら問題無く対処出来る規模だ。まあ、あいつら動くまでが遅いんだけどな………。」
そう言ってゴドーは嘆息を漏らす。
ドワーフはマイペースすぎて動くのが遅い。
それは今も変わらない様だ。
「取り敢えず、俺からはこれくらいか……。そっちは何か情報は無いのか?」
「ああ、実はな………。」
俺は目覚めてからの事とオルフェンに聞いた話、スノーヴェールでマグジールに会った事を簡単に説明すると、ゴドーは顎に手をやりながら唸り出した。
「マグジールの野郎が生きてた……、か。普通に考えりゃ………、」
「本人だったとしてももう人間ではない可能性が高い。それともう一つ。質問になるんだが、このヴェルンドに器になりそうな物はあるか?詳細は分からんが、マグジールがそんな事を言ってたんだ。」
「器…………、何を入れる物かは分からねえんだよな?口ぶりからして。」
「料理を乗せる器じゃない事は確かだろうな。」
ゴドーは考え込み、ついでとばかりに部屋の中を見渡す。
「………村で保管してる物でってなると、分からねえな。いくら何でも作業場の鉄の大釜じゃねえだろうし。」
ゴドーの口ぶりから察するに、心当たりがある物は無いようだ。
器とやらが何を意味するのかは分からないままだが、ここヴェルンドに無いのであればそれでいい。
「取り敢えず、村の連中にもそれらしいのを探させておく。後はなんかないか?何でもいいぞ。」
「そうだな………。」
「アルシアさん……?」
ある事を思い出してアリスの方を向くと、彼女はきょとんとした顔で俺を見てくる。
折角だ、ダメ元で聞くのもいいだろう。
「ゴドー。この村に今、神術に対応する装備……篭手とかは無いか?」
「え、え?アルシアさん………!?」
俺の意図が分かったのであろうアリスがオロオロとしているが、それを他所にゴドーは表情を曇らせる。
「篭手で……、それも神術に対応………。お前も中々厄介な注文を付けるな……。しかも、たぶん急ぎだろ?」
「やっぱり無いか?」
ゴドーは苦い顔をして頷いた。
「神術を使える奴なんて早々いねえからな……。材料集めから初めて、最低でも一年は掛かる。」
予想通りの答えに、俺は「やっぱりか。」と呟く。
やはり、その辺はいくらドワーフ達でも技術的に解決できない壁だったか……。
「アリスの嬢ちゃんは神術なんぞ使えるのか?」
「ああ。実は……、」
俺はアリスの戦闘スタイルをゴドーに話した。
最初はうんうんと頷いていた彼も、段々と途中から怪訝な顔になって、終いには顔を顰め、アリスに申し訳なさそうな表情を向ける。
「………なあ、アリスちゃん。」
「な、なんでしょう?」
「そんな物騒な魔導士、アルシア以外に聞いたことねえよ。」
「そうだろ?」
「し、失礼な事言わないでください!!」
「あた!?ごめん、悪かった!冗談だって!!」
恥ずかしかったのか顔を赤くしながら俺をぺちぺちと叩くアリスを見て、ゴドーは楽しそうにゲラゲラと笑った。
それからひとしきり笑った後、ゴドーは思い出したように呟く。
「………そういや、倉庫に篭手はあった気がするが、アレはどうなんだ……。まあ、いいや。探しとくからまた明日にでも来てくれ。使えるもんなら持ってってくれて構わんからよ。」
「あの、大変嬉しいのですけれど、お金とかは………。」
「んなもん、いいよ。アルシアにもフェンリル様達にも散々助けられてきたんだ。在庫処分と思ってもらってくんな。」
「は、はい、ありがとうございます!」
そう言いながら元気よく頭を下げるアリスを見て、ゴドーは「おうっ。」と返しながら笑うのだった。
◆◆◆
「ゴドー、妾からも聞きたいことがあるのじゃが、その前に………。アルシア、返すぞ。」
「え?ああ……、はいはい。」
そう言ってフェンリルが膝の上にいたニーザから手を離すと、ニーザはまっすぐ俺の元に寄ってくるので気恥ずかしさを覚えながら膝の上に乗っけると、フェンリルは予想していなかった事を話し出した。
「ゴドー。妾は封印されていたし、ニーザ達も分からなかったという話だったんじゃが………
「っ!?」
フェンリルの言葉に、俺は反射的に反応した。
スルトは巨人族の長で、地上に降りてきた神だ。
燃えるような赤い髪を後ろに流し、猛禽類のような鋭い目つきの、世話好きで声が大きい……一言で言えばいろんな意味でやかましい大男だった。
ロキのところにもホイホイ顔を出していたし、ここ、ヴェルンドの村もそうだが、色んな所に顔を出していた。
俺にも何故かやたら構ってくるし。
そんな男が大規模侵攻の最中に死んだと、俺はフェンリル達に教わった。
初めは嘘だと思った。
仕事で時折何故か一緒に組んだ事があるが、彼はフェンリル達に匹敵、いや…………、それ以上の強さだった。
大規模侵攻は確かに恐ろしい災厄だったが、それでも彼が死ぬ程の事だったかと聞かれれば、それは無いと断言できる。
俺達が戦ってないだけで、スルトですら相討ちになる程の魔族がいたのか、それとも、スルトでも勝てない何かがいたのか…………
僅かな期待を寄せてゴドーを見るが、ゴドーは本当に申し訳無さそうに首を横に振った。
「……申し訳ありません。彼、スルト様に関しては俺達ドワーフ族も調べたが、何も見つからなかったんです。遺体も、戦ったという痕跡さえも。分かったのは、本当に彼が死んだという事だけでした………。俺達もあの当時、生きるだけでも必死でして………、」
「そうか……、すまぬな。嫌な事を思い出させてしまった。」
そう返しながら、フェンリルは遠くを見るような目をした。
まるで、何かを探るように………、