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第26話「ヴェルンド村の村長」


「………やっぱり暴走魔族だったか。」

「はい。我々にはアルシア様達が使う様な計測方法はございませんが、どちらも伝え聞いている特徴と一致しています。」

「そいつらの死体は?素材でもいい。」

「すぐにお持ちします。」


「頼む。」と俺が言うと、オルフェンは待機していた職員と別の部屋へ向かい、直ぐにカテゴリー毎に分けたであろう魔族の素材を持ってきてくれた。


「助かるよ、ありがとう。」

「いえ、我々にはこれくらいしか。それで、やはりこれらは……」

「ああ。汝の言った通り、暴走魔族と強化魔族のそれじゃ。しかし、何故今になって暴走魔族が……?」


フェンリルは出された魔族の素材を手でなぞり、そう呟いた。

たしかに妙だ。


「今はグレイブヤードの管理はニーザとフレス2人でしているし、大規模侵攻も片が付いたはず。2人が生きている以上、暴走魔族は生まれないはずだが……。」


1000年前の大規模侵攻……。

俺達はあの戦いで原因となる存在を倒している。

暴走魔族が生まれるはずがないのだ。

フェンリルはオルフェンにまた視線を移す。


「ふむ……。オルフェンよ、何か変わった事は他に無かったか?何でもよい。」


その言葉にオルフェンは眉根を寄せる。


「実は、人型の魔族を目撃したとの情報が入っています。幸い、こちらに攻撃する事なく消えた、と伺っておりますが……。」


その言葉に俺とフェンリルは視線を合わせる。

恐らくは奴だろう。

例の器探しとやらか。

俺はオルフェンに問いかける。


「一応聞くが、今回みたいなケースは初か?」

「いえ、強化魔族に該当するであろう魔族は数年前から出てはいましたが、幸いにもギルドや王都から派遣されてくる兵士達でも対処出来るものでした。ですが、今回の様な纏まった数で……、それも暴走魔族などは……」

「無かった、という事か……。」


「はい……。」とオルフェンは頷く。

表情を見る限り、彼からしてもどう対処すればいいのかも分からないのだろう。

俺は席を立った。もう少し情報が欲しい、ドワーフ側の話も聞いた方が良さそうだ。


「報提供感謝する、ありがとう。俺達はこれから村長の家に向かう事にするよ。そっちにも聞いてみないと。」


部屋を出る準備をしながらそう言うと、オルフェンは静かに会釈した。


「畏まりました。調査の間、皆様が泊まられる宿はこちらが用意する事になっています。遠慮なくご利用ください。」

「……何から何まですまない。後で有り難く使わせてもらうよ。」


色々と用意してくれていたオルフェンに礼を言い、俺達はギルドを後にして村長の家へと向かった。




◆◆◆


「はい、どちらさんだ?」


村のドワーフに聞きながら村長の家に行き扉をノックすると、扉は少しして開き、中からは俺の腰ほどの背丈の長い髭を蓄えた老齢のドワーフが現れた。

恐らくは彼が村長なのだろう。が、彼は俺やフェンリルを見ると驚いた様に目を見開き、次の瞬間にはぼろぼろと大粒の涙を流してしまった。

突然の事に俺達はぎょっとする。


「な!?なんで泣くんだ?まさか、俺達がここに来ちゃまず………、」

「ほ、本当に生きてたんだな、アルシア。それに、フェンリル様も…………、」

「……………は?」


予想していなかった言葉に困惑を隠せない。

態度や言葉からして、どうにも俺達の事をちゃんと知っているのは間違いないが………、


「妾達の事を知ってるおるのか、汝は?」

「はい。あの時はガキだったもんですから分からないかもしれませんが………、」


それを聞いて俺は1人だけ思い当たる人物を思い出す。

まさか………、


「お前、まさか……………、ゴドーか?」


恐る恐るそう聞くと、彼は涙を拭いながらしっかりと頷いた。

俺は呆けた顔のまま続ける。


「ドワーフが長生きなのは知ってるけど、まさかまだ生きてるなんてな…………。」

「他の奴らは皆死んじまったけどよ。俺の家系は長命種だったからな。こうして今も生きてるんだ。もっとも、もうジジイだけどな。」


そう答えながら嬉しそうに笑い、ゴドーは俺達を家に招き入れる。

暫く当時の話に花を咲かせていたが、彼はそこでフェンリルの隣にいるアリスに目を向けたので、本題を話す前に紹介する事にした。


「彼女はアリス・リアドール。俺達の手伝いをしてくれてる子でな。滅茶苦茶強い。」


そう紹介すると、アリスは焦ったように首を振った。


「そ、そんな事ないです!初めまして。ファルゼア王国、王立魔法学園2年生のアリス・リアドールと申します。」


アリスがそう言ってペコリと頭を下げると、ゴドーは皺の刻まれた顔に日向のような笑顔を浮かべた。


「丁寧な挨拶ありがとうな。俺はこの村の村長をやってるゴドーってんだ。気軽にゴドーと呼んでくれ。」

「はい、よろしくお願いします。ゴドーさん!」


アリスはゴドーの笑顔に負けないくらいの笑顔で挨拶を返し、彼はフェンリルと俺にしがみついたままのニーザに目を向けた。


「お二人もお元気そうで何よりです。ニーズヘッグ様は………その、アレですかな?」

「そう、アレよ。まあアルシアがおる。此奴が1人でどっかに行ったりでもしなければ、憤慨して火山を吹き飛ばしたりはせんだろう。」

「…………アルシア、やるんじゃねえぞ。」

「………やる訳ねえだろ、そんな事。」

「……………?」


当事の事を思い出してげんなりする俺達を、相変わらず何の事か分からないアリスが不思議そうに首をこてん、と傾げて見ているのだった。

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