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第10話「遺跡図書館トート・1」


翌日の昼………、目的地に辿り着いた俺は目の前の光景に目を細めた。


「ここも昔と変わらねぇな……」

「砂漠に用が無ければ誰も近付かないもの。それに、この辺りは今になっても人が住むことは無いし。それはそうと…………、アンタ、いつまで怯えてんのよ………」

「ベッドに押し倒されて服をひん剥かれる恐怖がお前には分からんのか!」

「知るか!アタシの仕業じゃないっての!!」


呆れを隠しもしないニーザに物陰に隠れながらそう返すと、当然の様に怒鳴り返された。

あの後、俺は奇跡的にだが大人ニーザの魔の手から逃れる事に一応成功した。

まあ、あと一歩のところで色々大事な物を失いかけはしたけれども………


「………とにかく、さっさとこっちに来なさい。…………ほんと、ヘタレなんだから」

「ん、何か言ったか?」

「何でもない!それより、そろそろ時間よ」

「分かってるよ」


気を取り直して、再び俺は前方に広がる景色を見る。

目の前には広大な砂の海、セシャト砂漠が広がっていた。

物陰から移動しながら、眩い太陽の光に照らされている光景に目を細めながら、探知魔法を巡らせる。

見えないだけで目的の物はすぐ近くに来ていた。


「そろそろね」

「ああ、1000年前から何も変わってないらしい。すぐ目の前だ。今から解錠するけどフェンリル達への連絡は?」

「済んでる。その辺も大丈夫よ」


それなら問題は無い、と俺は目の前の砂の海目掛けて右手をかざす。

遺跡図書館内部では念話などの通信魔法は使えない。

だから必要な連絡がある場合は一度トートから出てから連絡するなりなんなりしなければならないのだ。

俺はニーザに視線で合図をし、解錠キーの術式を起動する。

その時だった。

砂漠全体に凄まじい地響きが起き、砂の中からゆっくりと周囲の砂と同じ色の砂岩の何かがせり上がってくる。

やがて地響きが収まると、俺達の目の前に巨大な遺跡が姿を現した。


これが俺達の今回の目的地である超巨大神器、遺跡図書館トートだ。

ファルゼアで起きた全ての出来事を記録している場所であり、起きた事に限った話で言えば魔法、神術、剣術、人物、歴史、事件……それらに限らず本当に何でも記録され納められている。


あるいくつかの理由から、気まぐれや今回の様な余程の事でもない限り足を運ばない場所でもあった。

理由としてはまず、場所が場所で単純に行くのが面倒くさい事。

遺跡図書館はこのセシャト砂漠の砂中を常に移動し続けている。何故そんな厄介な作りにしたのかは分からないが、恐らくは防衛機能の一つなのだろう。


そしてもう1つ。ここの管理をしている

ニーザはここに来るのは好きだが、司書に関してはとにかく関わりたくないらしく、来ても自分の目当ての物を自力で探している。

俺もからかわれるのが分かってるので、出来れば1人静かに今回の事を調べたいくらいだ。

とはいえ、今回は流石に司書案件だ。無視は出来ない。

解錠された重たい石扉から中に入り、薄暗く冷えた廊下を進み、奥の扉の前で止まる。


「1人ずつやってもいいけど、面倒だしアタシの配下扱いで認証済ませても良いわよね?」


ニーザの問いに「いいぞ」と返す。

それを聞いてニーザは認証用の魔法陣を組んでいく。

基本的には、入り口の解錠キーの術式とここの認証を済ませなければ中には入れないようになっているのだ。


「認証、地界グレイブヤード現統治者ニーズヘッグ。同行者――夫あるし……、うるさいわよ中のアタシ!!同行者、ニーズヘッグ配下、アルシア・ラグド………。アルシア、聞いてないわね?」

「ああ、聞いてない」


本来の姿の自分と器用に喧嘩したあと、こちらに圧を掛けられたので誤魔化す。

正直に言おうものなら抹殺されかねないからだ。


「……それはそれで何かムカつくわね」

「……理不尽じゃね?」


などとしょうもないやり取りをしている間に認証が完了し、最後の扉が開かれたので中に入る。

中に入ると、そこは外見の数十倍以上の広さを誇り、外見からは想像出来ないような、まさに図書館という見た目だった。

違うのは魔石による記録媒体があるくらい。

ニーザと2人、膨大な量の本と記録魔石に頬が緩むが、残念ながら今回はそれが目的ではない。

後ろ髪を引かれながら目の前に伸びる階段を登って、上の階に辿り着く。

そこには大きめの投写装置が設置されており、鳥の仮面をした男がこちらに背を向け、映し出されていた。

恐らくだが、俺達が来ると知って先に出てきたのだろう。


「…………1000年ぶりだな。


俺がこの遺跡図書館の主である神の名を呼ぶと、目の前の仮面の男はゆっくりとこちらに向き直り、その顔を俺達に見せた。



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