「また会えたな、トート」
「…………………」
「…………トート?」
振り向いた男に話しかけるも、彼は何も喋らない。
少しだけ心配になり呼び掛けると、彼はぴくりと動き出した。そして………、
「……………よ」
『……よ?』
「ようこそっ!周りどころか本人にもバレっバレな好意を隠してるつもりのツンデレ統治者ニーズヘッグと、優しさと偽ってすっとぼけるポンコツヘタレ魔導士、『災い起こし』のアルシア・ラグド!改めて………っ、我が領域、超巨大神器・遺跡図書館トートへ、ウェルカッッッッム!!!」
「アルシア帰るわよ」
「そうだな分かった」
ニーザと仲良く色々な意味で顔真っ赤+こめかみをひくつかせて速攻で帰る支度をする。
駄目だ。如何に偉大な神の
諦めて他の手段を探ろう。
ついでにこんなガラクタ、龍脈とクロノスの力を駆使して二度と地上に出れないように封印してしまうか。
「ストップ!ストーーーーーーップ?!ウソウソ、悪かった!ジャストアモーーーーーーーメンッッ!!」
◆◆◆
「やー失敬失敬。久々に他人との交流をした物だからついつい悪ふざけを働いてしまった……。しかし、後悔など……っ、ない!!」
「うるせぇぞトート。二度と動けねえ様に空間隔離と龍脈で封印するぞ」
ギリギリ帰るのを止めた俺達を、この図書館の司書であり、建物の心臓部であるトートは適当に謝罪をしながらも懲りることなく追加の燃料を注いでいく。
そんなトートに、俺は不機嫌さを隠しもせず脅しをかけた。
「ふっ、いいのかな少年?そんな事をすれば二度と我が無限の書物を読み漁る事など………」
「別にいいぞ。デメリットのが明らかにデカいし」
「………………」
「………………」
「悪かった、本題に入ろう」
俺が本気だと悟ったのだろう。仮面をした燕尾服の男、トート神はおちゃらけた顔を真面目な表情に変えた。
とは言っても本人ではない。
彼は知恵の神トートの端末体であり、下界で起きた全ての出来事を記録、管理する者だ。
感情を持てば追放されるのが神なのだが、トート神の本体はこの端末体を完全に切り離して、それを無かった事にしたのだとか。
このおちゃらけた神を見ると、感情を抱いた神の追放判定とやらは案外間違ってないのかもしれない。
「最初からそうすればいいのよ。破壊………はマズいから浸水レベルまでハチミツ流し込むのを本気で考えたわ」
「え、やめて?私の大事な書庫をベトベトにしないで?お願い?」
「………本題に入るわよ、トート。アタシ達は――」
ニーザが言い切る前に、トートは掌を向けてそれを制止した。
「勿論君達がここに来た目的は知っているとも。だが……、先に言わせてもらおう。私が話せる内容はそこまで多くはない」
「知らないって事?」
「
「……開示情報制限事項。神界にとって都合の悪い事が絡んでる、って事ね?」
「少し違うな、レディー。神界がかけた物もあるが、もう1人、とある人物にも掛けられていてね」
「ある………人物?」
訝しげな視線を送るニーザに申し訳無さそうに肩を竦めるトート。
開示情報制限事項とはこの遺跡図書館に存在する、特定の情報に仕掛けられたロックだと初めて此処に訪れた時にトートに教えてもらった。
曰く、この制限下に入っている情報に関しては調べる事が出来ないらしく、無理に調べようとするとトート本人含めロックが掛かり、以降1年は遺跡図書館そのものが閉鎖されるらしい。
ニーザは一度、踏み止まるように沈黙する。
下手に踏み込んで地雷を踏み抜くのを避ける為だろう。
暫くした後、彼女は慎重に言葉を紡いだ。
「掛かってるロックは?」
「まず神界の神々がかけた情報制限………、君達、高位魔族が生まれる前に起きた事象について。」
「……2つ目は?」
「2つ目の開示情報制限、大規模侵攻発生の数日前……、戯神ロキが掛けた内容に纒わる事柄だ。」
「………ロキがここに来たの!?」
「どうやって……!」
俺とニーザは思わずお互いを見る。
俺達が知る限り、ロキがグレイブヤードの外へ出た事は無い。
フェンリル達がいる間に出たのか?と一瞬考えるも、それも無いはず。
彼は外に出たい、遊びに行きたいとあーだこーだ言いながらも外へ出ることは無かったし、高位魔族の誰かが外に出ていく時も、ロキの護衛として必ず誰かが1人は残る。
それに大規模侵攻発生前となると、ヴォルフラムが自分の命を狙っている事だって俺は伝えている。
その時期に外に行く事もまずあり得ない。
考えを口にしそうになるも、目の前にはトートがいる。
下手に踏み込むような事を言えばエラーを誘発させかねない。
そこで、トートが口を開いた。
「エラー制限は2回。すべて踏み抜けば強制シャットダウンによりここは1年使えなくなる。なので、軽めの質問からしていく事を薦めるよ?」
「……分かった。アドバイス、助かる」
「構わんよ。寧ろせっかくご足労いただいたのに大した事を話せず申し訳ない」
「それだけ答えてくれるだけでも充分だよ」
「そう言ってくれると助かるよ。それともう一つ……、
「………ああ」
言葉の本当の意図を理解し、俺達は頷く。
俺はニーザに視線で合図をし、前に出る。
「俺が知りたいのは…………」