「……トート、まず初めに聞きたい。1000年前、大規模侵攻を起こした者と今回の強化魔族、それとあいつら………、マグジールと鎧の魔族を裏で操っている者は同じ奴なのか?」
まず初めに、俺は根本的な疑問を投げかける。
ここまで色々と情報が揃っているのだから聞くまでもない話かもしれないが念の為だ。
加えて、個人的な申し訳程度の願い。
大した敵でなければいい、という抱くだけ無駄な願い。だが………、
「そうだ。君達の想像通り、1000年前の大規模侵攻の大元であり、この事件の犯人でもある」
「……まあ、そうだよな」
先程のおちゃらけ具合は何処へやら。
真面目な顔で淡々と事実を語るトートにそう返す。
驚きも、落胆もしない。
1000年前の大規模侵攻と今回の件は細部こそ違えど、何もかもが似ている。
その違いが何を意味するか、それは分からないが聞くとしてもそれは後だ。
俺は2つ目の質問を口にする。
「次だ。そいつは神界の神なのか?」
「少し違うな。たしかに奴は神ではあるが、神界の神ではない。ギリギリの回答になるが、特殊な生まれの神だ。これ以上は答えられん」
僅かにトートが表情を歪めながらそう答える。
これ以上は地雷を踏んでしまう、という事か。
詳細を求めず、3つ目の質問を考えた時だった。
「……え、なに?………ああ、はいはい。なら変わるわよ」
ニーザが1人、誰かと会話を始める。
ここでは念話など外部との連絡は一切出来ない。という事は………、
ニーザは一度、その赤い瞳を閉じ………、すぐにその瞳を開く。その両眼は更に深く赤く染まっていた。
「アルシア、次は
「分かった」
そう返しながら俺が下がると、入れ替わりに姿はそのまま、本来のニーザが現れトートの前に立つ。
「トート、私からの質問よ。まず1つ目、1000年前に敵の正体について把握していたのは誰?」
「まず私や神界の神々、天界、魔界の住人。続いてロキ、スルト、インドラ……、最後に当時のファルゼア王国宰相、ニコライ・レーヴィット」
「っ!?」
その答えを聞き、ニーザは「やっぱりね。」と微笑む。
だが、俺はそうはいかない。
「知ってたのか、ニコライも!?」
「ああ。彼は独自に敵の正体に辿り着き、秘密裏にロキと協力しあっていた。」
「ニコライが…………、」
「大規模侵攻が発生する前、アルシアにイヴの聖杖を持たせるようロキは彼に指示をした………。そうでしょ?」
問い掛けにトートな無言で頷く。
たしかに、当時ニコライは俺を通じてロキと手紙でやり取りをしていた。
つまり、その時点でニコライは敵の正体に気付いていた?
たしかに、彼であれば不思議ではない。だが……、
「アルシア」
「っ、」
呼びかけられハッとしてそちらを見ると、肩越しにこちらに視線を送りながらニーザが妖艶に微笑んでいた。
「気持ちは分かるけど、ボケっとしちゃ駄目よ?まだトートに聞かなきゃいけないことはあるんだから」
「あ、ああ………、悪い」
素直に謝りながら、考えていた事を隅に追いやる。
まだ情報収集は終わっていない。
それに、ロキの遺体探しだってある。
時間はそんなに残されていないのだ。
俺の様子を見て大丈夫だと判断し、ニーザはまた視線をトートに向ける。
「2つ目、私からはこれで最後の質問よ」
「それだけでいいのかね?」
「ええ、十分よ。さて、それじゃあ聞くのだけど………」
「…………?」
何を思ったのか、ニーザはまた視線をこちらに向ける。
しかも、何故か知らないが意地の悪そうな視線を。
(俺が何かをしただろうか?)
と思考を巡らせるも、その意味を俺はすぐ知る事になる。
「敵がわざわざ1000年も経ってから動き出した………、それは
「…………ニーザ?」
「おかしいと思わなかった?敵は大規模侵攻の時と同じ………。だったら貴方とフェンリルが眠りに就いた後にでもまた動き出せばいい。きっと、私とフレスの2人だけでは対処出来ない相手だろうし。にも関わらず、1000年も経ってから敵は動き出した。それは………、」
「…………動けなかった?」
思わず漏らした言葉に、ニーザではなくトートが反応する。
「……そうだ。お前がルーリア平原ごと大龍脈に魔装具で攻撃をしかけた事で、奴の目論みは全て狂った。それも、取り返しが付かないほどにな」
恐らくはこの質問もギリギリなのか、少しだけ気怠げな様子でトートが答える。
それを聞いて満足したのか、ニーザがトートに背を向け、下がる。
「さて、私からはこれで終わり。アルシア、上手く繋いでね?」
微笑をこちらに向けるニーザに頷き返して、俺はまたトートの前に立つ。
トートは………、愉快げに笑っていた。
「
ただそれだけ……。それでも、そこに込められた意味を察して、「ああ。」と短く返す。
割り出した情報と、繋がらない部分を繋げていく為に………
俺は王都を出る前に向けられたフェンリルの視線と……ここ最近、2度ほど見た不思議な夢を思い返しながら、口を開いた。