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第13話「遺跡図書館トート・4」


?」

「……ああ」


挑戦的で、それでいて「上手く踏み抜けよ?」と愉快げな短い問い掛けに頷く。

たったの2回………、わざとエラーに触れる質問を選んだ上、答えを上手く聞き出せなければ全てが無駄になる。

まず一つ、敵の正体………。

ニーザが何も言わず見守る中、僅かな不安を押し殺して質問を投げ掛ける。


「開示情報制限事項に踏み込む。トート、敵の正体…………、それはこの地に生まれた後、神界の神々、そして原初の人間であるアダムとイヴによって倒され、封印された太古の神で合っているな?そして、ロキはそれを知っていてわざとマグジール達に殺された、違うか?」

「……………………」

「……………アルシア?」


これまで全く俺が触れてこなかった事を言ったため、ニーザが何の事だと訝しむ視線を送るが、構わずトートに視線を向けたままでいる。

仮面の神は初めて沈黙した。そして………、

遺跡図書館内部にエラー音がけたたましく鳴り響き、目の前のトートが急に直立不動の体勢になった。


「開示情報制限事項です。情報の開示は出来ません。繰り返します、開示情報制限事項です。情報の開示は出来ません」


無機質で冷たい声がトートの口から何度も紡がれ、館内全域に響く。

(やっぱりか………)

朧気に記憶に残る夢を思い出す。

この地で生まれ、敗れた神……、それが今回の敵の正体だ。

そして、恐らくだがロキはそれを知っていて、俺やフェンリル達には内密で計画を練り、わざとマグジールに殺され大規模侵攻を発生させた。

どんな理由だったのかは知らないが、恐らくはその状況を利用してそいつを倒す為に………。

でなければ此処に来て開示情報制限なんて掛けないし、俺にイヴの聖杖を持たせたりなんてしない。

警報音が徐々に鳴り止み、無機質な声が止まる。

直立不動だったトートは姿勢を崩し、荒く息をしながら言葉を吐き出す。


「………っ、…………っ、上手く、踏み抜いたな」

「………何で知ってるのか、聞かないんだな」

「……ああ、君が知っている事も分かっていたからね」

「そうか。なら……」


そう返すと、息を整えたトートはまた愉快げに笑い仮面の下の瞳をこちらに向ける。


「さあ、あと一つだ。ここに来て間違えるなよ、アルシア・ラグド!!」

「ああ、最後の質問だ、トート。敵がロキの遺体を狙う理由……、それは自身をロキの身体に降ろし、顕現する為だな?」


最後の問いを投げ掛ける。

トートは意味深に口の端を吊り上げた。

そして………、


「開示情報制限事項です。開示は出来ません。エラーコード・00016410031、遺跡図書館トートは強制停止します。入館者は退場願います。繰り返します。エラーコード―――」


けたたましい警報音と共に無機質な声が館内に響き、次々と全ての記録媒体に魔法陣によるロックが施される。

トート本人の映像も揺らぎ、今にも消えそうだった。


「………正解だ。さて、すまないが私は眠りに就く。ファルゼアの命運は託したぞ」

「………ああ。お前が起きる頃に、今度はのんびり本でも読み耽りに来るよ」

「そう、か。楽し………みに、待…………って――――」



トートは揺らぎが大きくなり、最後にはブツン、と音を立てながら姿を消した。

これでここは暫くは使えなくなるだろう。

警報音が鳴り止み、館内はしん、と静まり返る。

何も映さない台座をぼんやりと眺めると「ねえ」と声を掛けられる。

言うまでもなくニーザだ。


「アルシア、何を知ってるの?太古の神なんて、アタシもフェンリル達も知らないわよ。トートの反応を見る限り、出鱈目なんかじゃないだろうし……、」

「………夢を見たんだ」

「夢?」

「ああ。って言っても、断片的にしか覚えてなかったから、黙ってたんだけどな」


俺は今まで見てきた2つの夢の内容の一部を覚えている範囲でニーザに語る。


遠い昔、まだグレイブヤードが存在する前に生まれたとある神の事を。

そして、その神は神界の神々と原初の人間によって倒され、今はもう魂と力だけの存在となっている事を。


「………なるほどね。」

「ついでに言うと、実はフェンリルだけには話してる。何とも言えないから取り敢えず皆には話すな、って言われててな。」

「…………へぇ?」

「に、ニーザ?」


急に不機嫌そうな顔になって近寄ってくるニーザに思わず後退りをすると、不意に両手が伸びて両頬を摘まれた。


「………アタシじゃなくてフェンリルなんだ」

「………ひや、ひょっほでりへーほなはなひだったひ………、あだっ、」

「まあ、内容が内容だし勘弁してあげる」

「だったら叩かなくてもいいじゃねえか……」


ついでに叩かれた額を擦りながらジト目を向けるも、ニーザはふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向くだけだ。

俺はついでに摘まれた頬も擦りながらこの後の事を考える。


「さて、でもどうするか……」

「そうね。遺体の場所に関する手がかりは結局0、分かったのは敵の正体と、そいつがロキの身体を使って何をするつもりなのか、だけ」

「そうだな、ひとまず此処を出よう。俺達もロキの遺体を探しに―――――」


行こうと言いかけた時だった。


「ロキの遺体を探してるのかな?」


この場にいない、第三者の声が響いたのは。



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