光が消え、現れた光景を見る。
転移魔法で飛ばされたのは目的地を囲うように広がる荒野だった。
ファルゼア城より北、大陸の中央に天高くそびえる大樹。
それが天蓋の大樹だ。樹とは言っても、その正体は遺跡図書館と同じく神族が各世界を行き来する為に作り上げた神造神器の一つで、本体は超巨大な無機質で真っ白な塔、それが大樹の外装で覆われているのだ。
「ニーザ、着いたぞ」
「……………こっち見ないでよ」
泣き腫らした顔を見られたくないらしく、ニーザはこちらに背を向けた。
そんな姿を見て苦笑しつつ、その髪を乱暴にワシャワシャと撫でる。
「な、なによ……!」
「別に恥ずかしくなんかねえよ。なんであんな意味の分からん事になってんのかは知らないけど、お前達にとってはアイツは家族みたいなもんだろ?笑ったりしねえよ」
「…………う、うん」
「だからさ、さっさと鎧の魔族をしばき倒してロキの身体も回収して……、どうしてあんな事になってるのか問い詰めてやろうぜ。な?」
「…………いっつもこれくらい出来ればいいのに」
「ん?なんか言ったか?」
「なんでも!それより、フェンリル達も来たみたいよ」
乱暴に俺の手を払い除け、ニーザが振り替える。
俺達のすぐ近くにフェンリルとアリスが、最後に大鷲の姿をしたフレスが上空に現れた。だが………、
「あー…………ん?」
「え………?…………ぁ」
「お前ら……………」
「…………………」
目の前ではフォークに刺さったケーキを幸せそうに食べようとするフェンリルと、フォークをフェンリルの口元に持っていて楽しそうに微笑んでいるアリスがいた。
そんな2人に、俺達3人はジト目を向けるとアリスは慌てたようにぱたぱたと両手を振る。
「あ、あの!違うんです!?特訓の休憩中に戴いたケーキを2人で!」
「んぐ……、そうじゃ!大体アルシア、これはいったい……!!」
「お前は取り敢えずほっぺについた生クリーム拭えバカタレ!!」
◆◆◆
「………それでアルシア、ニーザ。向こうで何があった?この力の残滓はあやつの………」
数分後、戦闘準備を整えたフェンリルがそう俺に問い掛ける。
獣化を解除したフレスもそれを知りたいが為に俺の方を見ていた。
「詳しく説明したいけど、俺達もよく分からないんだ。取り敢えず細かい話は後だ。トートで聞いた話が本当なら、
俺が指差し、その方向を全員が見る。
離れていても分かるし、間違えようがない。
この気配はサウスウェーブで戦ったあの鎧の魔族の物だ。
鎧の魔族があそこに辿り着いてどれだけの時間が経ったのかは分からないが、何れにせよ時間が無いことには違いない。
「………それなら、急いだ方が良さそうだな」
「ああ、だから………っ?!」
フレスがそう言った時だった。俺達の背後の空間がぐにゃりと歪む。
「………ちっ、死んだんじゃねえのかよ!」
身に覚えのある気配に舌打ちをしながらそちらに右手を翳すのと、黒い塊の様な何かが空間を割り砕いて現れるのは同時だった。
「アアァアアアアアアアアアアアッ!!!!」
「地嶽炎刃………!!」
俺目掛けて背後から奇襲を仕掛けてきたそいつを地嶽炎刃で生み出した無数の岩の礫が襲い、その身体を串刺しにして遠くへと吹き飛ばす。
俺は4人と襲撃者の間に立ち、構えた。
「コイツは俺が片付けるから、お前達はあっちを頼むれ」
目の前の敵に意識を割きながら視線を一瞬、背後の天蓋の大樹へと向ける。
俺の言葉を聞いたアリスが天蓋の大樹に目を向けながらも、心配そうに呟く。
「アルシアさん、でも……………」
「大丈夫だから行ってくれ。鎧の魔族は強い。コイツの面倒まで見て戦うような相手じゃない」
「そういう事、だからアンタ達は行きなさい。ここはアタシとアルシアで抑えるわ」
そう言いながら、ニーザが無数の破砕連装を展開させ俺の隣に立った。
どうやらここに残るらしい。
「ニーザ………」
「言っておくけど、1人でやるのは無しよ。アンタだって分かってるでしょ?アイツ、ヴェルンドで戦った時よりずっと強くなってる」
「ああ、分かってる…………。ついでに、完全に人間も止めたらしい」
身体に食い込んだ地嶽炎刃の礫を吐き出すように取り除く男、マグジールを見る。
強化された影響か、はたまた理性でも抜かれたのか………、奴は纏っている黒い負の念で身体を再生しながら恨めしそうに俺を睨み、唸るように俺の名を叫ぶ。
「ある…………、シァアアアアアッッ!!!!」
「たしかに、放置するには面倒な相手じゃの。仕方ない。行くぞ、アリス、フレス」
フェンリルが2人を促し、天蓋の大樹へと向かう。
その間、マグジールは遠ざかる3人に目をくれることなく、ただ俺へと殺意を剥き出しに叫び出す。
「許サナイ、ユル………サナイッ、殺ス!アルシアアアア!!」
「……ああ、そうかよ。いい加減、しつこいし迷惑だ。ここで終わりにしようぜ、マグジール……!」