天蓋の大樹内部………、私達現代の人間が世界樹と呼んでいるそれは外観からは想像も付かない造りとなっていた。
内部は装飾すらない無機質な白い壁が広がっていて、上を見上げても白い壁が伸びるばかりで天井一つ見えなかった。
(こんな風になっていたんだ……)
当たり前だけど、私は天蓋の大樹に入った事がない。
というよりも、入れるなんて知らなかった。
獣化したフェンリルさんの背に乗りながら周囲を見渡していると、暫くして前方に巨大な魔法陣が現れる。
フェンリルさん達が移動する速度を緩めたので私はその背から飛び降りた。
術式を見ると、どうやらこれは階層を移動する為の物らしい。目的地である最上層へも、これで行くのだろう。
獣化を解除したフェンリルさん達が起動の準備を始める。
「まさか、此処にあったとはな」
「………スルトが自分の神核を使ってまで封印する訳じゃ。たしかに、誰もこんな所にあるとは思うまい」
「スノーヴェールやヴェルンドとは違うんですか?」
何処かヒヤヒヤした様子で語るフェンリルさんにそう聞くと、それにはフレスさんが答えてくれる。
「この天蓋の大樹は大龍脈の真上にあり、此処………、ファルゼアと他世界を繋ぐ唯一の場所でもある。此処以上に力の集まる場所は他には存在しない」
「じゃあ、スノーヴェール以上に封印に適して……?」
「いや、逆だ」
そう言いながらフレスさんは首を横に振って続ける。
「此処は力が集まりすぎている。こんな場所に神の遺体なんて封印すれば、最悪の場合ファルゼアそのものが崩落する。だからこそ、スルトは自身の神核を使ってまで強引に封印を安定させたのだろう」
「完全に盲点だった訳じゃな。あやつらがそんな馬鹿な真似をするとは思ってなかったからの」
失態だと言わんばかりにフェンリルさんが吐き捨てると、足下の魔法陣の色が変わり、強く発光しだす。
準備が出来たようだ。
「アリス、起動すればすぐに最上層へ辿り着く。何が起きてもいい様に構えておれ。アルシアの言う通りなら、鎧の魔族とやらが確実にいるだろうからの。」
「はい。」
短く返し、私がイヴの聖杖を構えると同時、身体が浮遊感に包まれ、景色が真っ白な光に覆われる。
強烈な光を受けて、私は思わず目を強く閉じた。
やがて地に足がつく感覚が戻り、光が徐々に消えていく。
入れ替わりに全身を刺すような熱風が襲い、私は恐る恐る目を開く。
天蓋の大樹内部、その最上層………。そこは既に部屋の中心に佇む異形の放つ灼熱の焔に包まれていたのだった。