「アァアアアアァァァアッッッ!!!」
咆哮を上げながらマグジールが迫る。
隣にいるニーザには見向きもしない。
あくまで狙いは俺だけだ。ニーザが俺から距離を取り、俺は牽制目的で炎閃を数発放つ。
だが、炎閃はマグジールに当たる前に負の念に阻まれ霧散していく。
「やっぱり神衣も使ってくるか……、厄介だな!」
「ガアァッ!!」
マグジールの拳が振り下ろされ、それに連動して負の念が黒く、巨大な爪へと姿を変え俺を狙う。
俺は下手に打ち合う真似は避け、後退しながらアダムの書を起動しつつ、鎖を前方に向け拡散させる。
マグジールはそれを避けるが、本命はこっちじゃない。
張り巡らせた鎖が音を立て、帯電していく。
「
瞬間、インドラの雷による放電が広範囲に拡散する。
大地を割り砕き、無数の雷が餌に群がる鳥のようにマグジールを襲う。だが、マグジールには届かない。
神衣こそ突破したものの、黒い負の念が盾として展開し、拡がる崩落の飽和攻撃を防いでいったからだ。
振りまかれた放電が徐々に勢いを緩め、その隙を狙ってマグジールが加速。ニーザが妨害の為に無数の魔法を放つも、それは負の念に阻まれ不発に終わり、反撃がニーザを襲う。
「…………ああもうっ!」
ニーザが苛立ちを見せながらもそれを回避していく。
可能であれば助けたいところだが、こちらもマグジール本体が迫っている。接敵まで数秒もない。
(速い…………っ!)
「アルシアァアアアアッ!!!」
「くっ………!?」
バフォロスをすんでのところで構え突進を防ぐも、完全に勢いは殺しきれず大きく吹き飛ばされる。
それでもマグジールは止まることなく、追撃を俺に放ち続ける。
纏った負の念により威力を増した拳がバフォロスの刀身越しに俺の身体を打ち、激痛が走る。
「ッ、ッ………!ウゥアアァアア!!!」
「ち…………、ぃっ!!」
爪と拳の乱打に加えて単純な魔力の塊、魔法まで放たれるが、バフォロスのモヤを展開してそれらを食い潰し、そのままマグジールを狙おうとした時だった。
マグジールの身体から爆発する様に重たい負の念が弾け飛び、俺目掛けて降り注ぐ。
痛みはないが、雨粒の様な負の念が身体に触れ、無数の負の感情が俺を襲う。
恐怖、怒り、悲しみ、焦り、嫉妬…………、
(まずい、これは………!)
マグジールの狙いを察し、次々と精神を襲う負の感情を払い除けながらその場から離脱しようとするも負の念は足下からも湧き上がり、巨大な泡となって俺を包み始める。
闇の拘束魔法、『ネガティブジェイル』。
対象を膨大な量の負の感情で覆い、精神を破壊する上級魔法………!
拘束を払うべくバフォロスを振り回すが、抵抗も虚しく包みこまれ、俺は泥の様に重たい負の念の檻に完全に囚われた。