「―――――――」
言葉を発する事のない鎧の魔族が駆使する四本の岩の剣が対峙しているフレスさん目掛け振り下ろされる。
それでもフレスさんは避けることなく、迫る刃を難なくいなし、手にした白刃で鎧の魔族の脚を狙う。
けど、鎧の魔族はその場で跳躍し、その攻撃を回避した。
その隙を、私達3人が狙う。
「
「風貫―――――」
「ホーリーストーム!」
氷の槍、風の短刀、光の嵐が鎧の魔族目掛け襲い掛かるも、鎧の魔族は地嶽炎刃と呼ばれる力を使い、岩の盾を生み出してそれらを防いだ。
攻撃を防いだ鎧の魔族が後退し、また指先がこちらに向けられる。
「っ……!!」
まただ………!
身体強化で反応速度を上げ、ギリギリで炎の光線を避ける。
今の攻撃で確信した。鎧の魔族は明確に私だけを狙っている。
フェンリルさん達に比べて私が1番弱いからなのか、それとも二人の隙を誘発する為なのか、或いは………、
先程向けられた視線を思い出す。
(あれは…………)
明らかな憎悪だった。
バイザーの奥で光るあの赤い眼光には、私への憎悪や強い怒りを秘められていた。
何故?自分には心当たりが無い。そもそも、この鎧の魔族にもさっき初めて会ったばかりなのだ。
それまで、あの黒い鎧の異形など見たことがない。
拭いきれない疑問を浮かべつつ、ひたすら走り攻撃を躱していた時だった。
鎧の魔族の背後に、縮地で迫ったフレスさんが現れる。
白刃が鎧の魔族の首に迫るも、鎧の魔族は地嶽炎刃で生み出した盾で防ぐ。
盾で防がれたものの、それでもフレスさんは力を込め剣を押し込む。
盾越しに、2人が睨み合った。
「――――――――」
「硬いな。だが……………」
一端刃を引き、生まれた切れ目目掛けてフレスさんはもう一度振り下ろし、盾を両断する。
割れた盾の隙間からフレスさんは潜り、無防備な鎧の魔族の胸元に蹴りを叩き込む。
鎧の魔族は姿勢を崩し、フレスさんの視線がこちらに向けられた。
意図を察して、杖を振り上げる。
生まれた隙は一瞬だけ………、僅かな時間の中で出せる上では最大威力の技を編み込む。
光の螺旋が聖杖を纏い、私はそれを振り下ろす。
(このタイミングなら…………!)
「ホーリー…………、ストームッ!!」
辺りを焼く炎さえも巻き込んで、光の暴風が鎧の魔族に迫る。
だが…………、鎧の魔族は3本の腕を同時に振り、襲い掛かるホーリーストームを打ち砕いた。
「嘘…………、」
初めての事態に動揺を隠しきれず、それを表に出す。
これまであの技を避けられた事はあるものの、防がれた事などないからだ。
そして、一瞬動きを止めた私の足下が赤く光る。
「…………っ!?」
それが事前に教わっていた紅蓮陣という名の技だという事に気付く。範囲外に逃げるより僅かに発動の方が速い。
(やられる………!)
目を大きく見開き、何とか走り出そうとした時だった。
「あ、くっ………?!」
横からの衝撃で大きく吹き飛ばされ、遅れて自分が立っていた場所に爆炎が吹き荒れる。
一瞬だけ見えた銀色の髪と青い服……、それだけで自分が攻撃を受けないように突き飛ばされた事を知り、別の焦りが生まれる。
私は自分を庇い、代わりに攻撃を受けてしまった人の名を叫んだ。
「フェンリルさんっ!!!!!」