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第21話「激昂するフェンリル」


「フェンリルさんっ!!!」

「フェンリル!……………ちぃっ!!!」


私を庇って、代わりに攻撃に直撃してしまったフェンリルさんの名を大声で叫ぶ。

フレスさんが救出の為に動こうとするも、鎧の魔族は地嶽炎刃で刃の波を浴びせ、その動きを止める。

加えて追い討ちとばかりに次々と紅蓮陣を発動させ、立て続けに煌々と輝く業火がフェンリルさんを襲い、炎は更に肥大化していった。


「この…………!」


無機質に、そして無慈悲に尚も炎を連続投下する黒い悪魔を睨み聖銃を向けた時だった。


「っ!?」

「――――――――――――ッ!」


爆炎は目の前で乾いた音を立てて瞬時に凍りつき、砕け散る。

その中から剛速球で氷の槍が鎧の魔族目掛け放たれ、遅れてフェンリルさんが紅蓮陣の中から姿を現した。

鎧の魔族は自身から焔を噴き上がらせ、先に迫る氷の槍を溶かそうとするも、氷の槍はそれさえも貫き、ヒビ割れた左肩を貫く。


「自惚れるなよ、紛い物風情が…………っ」

「―――――――ッ」


炎の壁を突破し、フェンリルさんが鎧の魔族の鳩尾に拳を見舞い、その巨体が浮き上がった。

僅かに怪我をしているものの、無事だったその姿を見て一人安堵する。

フェンリルさんは拳を構え、叫ぶ。


「この程度、何ともないわ!妾を焼き殺したくば本物のスルトの炎でも持ってこいっ!!」


私が見守る中、その場で跳躍し、浮き上がった巨体の頭部にフェンリルさんは蹴りを叩き込み、鎧の魔族が吹き飛ぶ。

そこに逆手に剣を構えたフレスさんが追いすがる。

鎧の魔族が攻撃に備え、四本の岩の剣を交差させる様に構えるが、そこに静かに、音もなくフレスさんの白刃の切っ先が触れた。


嘴穿しせん


軽く切っ先が岩の剣に触れたまま、左掌が押し込む様に縁頭に添えられた時だった。

ワンテンポ遅れて重たい衝撃音が響き、続いて2本の腕と岩の剣が砕け散り、鎧の魔族の胴体に大きな穴が開く。


「ぐ、ガ…………、ァ――――――――、」


短い断末魔を上げ、紅蓮の化身は膝から崩れ落ちる様に沈黙したのだった。



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