鎧の魔族が大破し、魔力で繋がっていた残りの3本の腕が金属音を立てて床に落ちる。
格納されていた神核も破壊され、部屋全体を焼く炎も静まる……筈だった。
けれど突然、鎧の魔族の身体から色が抜け落ちて形を変え、岩の鉤爪が放たれる。
「なっ!?」
「しまった………!!」
戦闘を終え、油断していたフェンリルさん達が鉤爪に押し出される様に大きく分断される。
そして………、鎧の魔族の残骸だと見せかけていた物の周りに燃え広がる炎からまるで滲み出るように鎧の魔族が姿を現した。
その姿にはフェンリルさん達が与えたダメージは無く、赤い眼光がやっぱり私だけを真っすぐ捉えていた。
遠くから、フェンリルさん達の声が響く。
「アリス……、其奴の狙いは汝じゃ!持ち堪えろ、すぐにそっちに………ぐっ!?」
「ちっ…………、厄介な!!」
鉤爪の拘束からフェンリルさん達が抜け出し、こちらに向かおうとするも、鉤爪の拘束は今度は蛇のように形を変え、2人を襲う。
アレでは暫く、こちらに来る事は難しいだろう。だけど………、
私は後ろにじりじりと後退り、背後に視線を向けながら隙を見て鎧の魔族に背を向けて走る。
鎧の魔族も動く。右腕のみを残し、左腕全てを私目掛けて飛ばす。
ある程度距離を取ったところで足下が蠢き出し、15本の指がこちらに向けられる。
私は脚に身体強化を集中させて真下の地嶽炎刃を避け、身を捻りながら鎧の魔族に向き直る。
水平に目の前で聖杖を構えると同時に、こちらに向けて次々と放たれる炎閃を迎え撃つ。
「アリスッ!!」
襲い来る拘束を凍てつかせながら、フェンリルさんが奔り出そうとするより前、私は口を開く。
「
あの2人を近づかせては駄目だ。それでは、わざわざ2人を巻き込まない様に距離を離した意味が無い。
だって…………
この召喚は、
「――――フレスベルグ」
その名を呼ぶと同時に、聖杖から膨大な量の風が溢れ出て、私を包み込む。
そして、遅れて無数の炎閃が叩き込まれた。
私を包み込む暴風を、更に炎が襲う。だけど………
「叛翼の風・嵐転」
風が光を帯びた炎と混じり合い、無数の暴風となって鎧の魔族を狙い撃つ。
鎧の魔族は回避行動を取るも、完全には回避しきれず直撃を受けた。
左腕の全てを飛ばしたのが仇となったのだろう。まだ立ってはいるものの、受けたダメージの影響で遠隔操作していた3本の腕が落下する。
「―――――――――――ッ!?」
「貴方は最初から私ばかり狙っていた。それなら、対策するくらい私にだって出来ます。」
包みこんでいた暴風が止み、中から私が歩み出る。
召喚の影響でマントが弾け飛んだ代わりに光と風が混ざり合ったヴェールが背後に現れ、聖杖の先には風の刃が編まれていた。
執拗に狙われた恨みも込め、私は槍と化した聖杖を鎧の魔族へと突き付け、宣告する。
「さあ、今度は私が貴方を追い込む番です」