流れ込んでくる…………
死者の念が…………
悲しみ、憎悪、絶望、焦り、劣等感、恐怖、怒り、嫌悪…………
そして、俺個人へ向けられるマグジールの怨念が…………
「………………ちっ、多すぎる」
ネガティブジェイルに拘束された俺は自身の精神を意図的に外界からシャットアウトし、術の準備に入っていた。普段ならすぐに準備出来るのだが、今はひっきりなしに泥のような負の思念が精神に干渉してくる。
発動にはもう少し時間が必要だ。
『死ね』『羨ましい』『何で私が死ななきゃいけないの』『身体を寄越せ』『恐ろしい』『どうすればよかったんだ』
シャットアウトしても尚、隙間から入り込む無数の人間の思念に辟易しながらもそれを外に追いやる。
(さっさと出ないと、いつ衰弱死してもおかしくないな……)
攻撃魔法ならいくらでもどうにでもなるが、精神干渉魔法となるとそうもいかない。
向こうに今すぐ俺をどうこうする気が無いから生きてるだけであって、普通ならこの状態に持ち込まれたらとっくに殺されている。
ニーザがいてくれて良かった。そう思った時、払い除けても払い除けても入り込んでくるマグジールの思念が強く干渉し、記憶が流れ込んできた。
1000年前の王都………、今とは違う風景のその場所にマグジールは居た。かつての仲間と共に。
時期的には奴がまだヴォルフラムの部下となる前だろうか。
マグジールは仲間に笑顔を振りまき、声を掛けていた。
『よし。行こう、皆!街の皆、ひいては王都以外の人の為に!!』
その呼びかけに各々が反応を示し、先行するマグジールに続いて門へと向かっていく。
(薄っぺらい笑顔だ…………)
俺はギルド時代のマグジールの事は実はあまりよく知らない。俺が王都にやってきたのは、あいつらがヴォルフラムの部下になった後の事だったからだ。
そんな俺でも、マグジールのあの笑みが偽りだという事くらい分かった。
マグジールが本当にそう思って誰かの為に動いた事など、恐らくは一度も無い。
王都に来てすぐの俺を冒険者として迎え入れてくれたギルド長、そして、俺なんかより遥かに付き合いの長いであろう王都の一部の人間ですらそう言っていた。
曰く、「マグジールは仲間さえも見ていない」と。
別の記憶が流れ込んでくる。
多くの依頼をこなし、マグジールの名がヴォルフラムの耳にも入り、奴の指示を受けてやってきた騎士に誘われ、マグジールはヴォルフラムのお抱えの騎士となった。
王都最強の戦士、『勇者』の称号を与えられ、勇者の称号と共に与えられると云われる王国秘伝の剣技、『ディバイン・ブレード』を授けられた。
そこからのマグジール達はただひたすらに仕事をこなした。
今まで築き上げてきた全てをあっさりと捨て去って、ヴォルフラムに言われるがまま、奴の欲望の為に動き続けた。
マグジールの地位は確立されていった。
今まで築き上げた信頼と、ヴォルフラムの命で動いた事によって生まれた亜人種やロキ達、グレイブヤード側との軋轢や不信と引き換えに………。
それでもマグジールは止まる事なく、仮面の笑みを貼り付けて笑っていた。
だが、それもある事が起きた事によって全てが瓦解する方へ転がる。
まず一つ、俺が王都へやってきた事………
そして、奴らがロキを殺したせいで…………。