ある日を境に、マグジールはどうしようとない怒りに苛まれることになる。
その怒りが向かう先は2つ。
1つは向けられる不信を拭いもせず放置し続けた結果、今まで表面上でしか助けてこなかった者達からまったく相手にされなくなったばかりか、時には非難されるようになった事。
だが、そんなもの言ってしまえば自業自得だ。
俺が知る限りでも、奴らはヴォルフラムの命令以外で動く事はなかったのだから。
もう1つの矛先は俺だった。
ある日突然、王都に俺が姿を現して入れ替わりに周囲の人間から気に入られる様になった事が気に入らなかったのだろう。
今でも初めて王都に来た日の事は覚えているが、どうして王都にいたのかは知らない。
それ以前の記憶を失っていたからだ。
そして、もう1つ。
マグジールが別の感情を向けていた事を俺は初めて知った。
異界から流れ着く強力な力を持つ物質………、『
それを持っていた事も気に入らないらしい。
『何故自分ではなく、あんな奴が持っているのか』と。
見当違いも甚だしい。欲しけりゃくれてやりたいくらいだ。
アーティファクトは自ら担い手を選ぶ。
確かに強力な物だし、これまでアーティファクトに救われた事は確かに何度だってあった。
ただ、これを持つという事はある種、呪いを背負う事と同義だ。決していい事などではない。
そこから更に時は流れ、ヴォルフラムは俺に目を付け、拉致同然に奴のお抱えの騎士となった。いや、されたという方が正しいか。
やがてその事実さえ気に入らないマグジールは誠実な好青年という仮面の下で明確な敵意や憎悪、嫉妬を俺に向けるようになった。
俺はそれを見て、深くため息を吐く。
向けられる敵意の原因があまりにも幼稚だったからだ。
ただ1番でいたいから……
名誉を得たいから……
自分が持っていない物を他人が持っているのが気に食わないから……
そんな物に付き合わされる身にもなって欲しい物だ。
これ以上は流れ込んでくる思念を無視し、用意している力の準備に取り掛かろうとする。
そこでまたマグジールの別の思念が入り込んでくる。
それを見て、俺は嘲笑する。
自分に向けられる悪意なら別にいい。
無視すればいいだけだ。だが……………、
『アイツ《アルシア》とつるんでいる高位魔族の女ども………、アイツを動けない様に縛り上げて、目の前で陵辱してやれば、アイツはどんな面白い顔をするだろうか?』
それだけ知る事が出来れば充分だった。
(ああ……、やっぱりお前は救いようもないクソ野郎だよ)
神に死後の魂さえも弄ばれる哀れなかつての同胞…………
僅かに持っていた感情さえ切り捨てる。
そんな感情さえ抱く必要は無く、
「神殺し、起動」