「くっ、この……………!」
自身の身体を拘束する負の念の触手をニーズヘッグは強引にでも解こうとしていた。
だが拘束はビクともせず、更にニーズヘッグの身体を強く縛り上げる。
展開している破砕連装で拘束を破壊しようにも、自分ごと巻き込むしかない。
拘束が強まり、呻くニーズヘッグに異形と化したマグジールがその指先をニーズヘッグの身体に這わせた。
「っ…………………!!」
ぞわっと肌が泡立つ。
気持ち悪い…………っ!
触られる事ですら不快で仕方ないと睨むも、マグジールは下卑た笑みを張り付かせ、ただその指をニーズヘッグの腹部へ這わせ、次に胸へと這わせようとする。
その時だった。
轟音を立て、ネガティブジェイルが内側から粉砕される。
「グゥゥ………ッ、アァアアアアアアアアッ!!!」
「…………地嶽炎刃」
負の念の拘束を破壊し、静かに佇む怨敵の姿を目にしてマグジールが両腕を広げ疾駆する。
邪魔をするな、と言わんばかりに。
それでもアルシアは俯いたまま、右手に地嶽炎刃で生み出した炎を纏う岩の杭を握りしめた。
握られた岩の杭はアルシアの力の影響を受け、ただの炎ではなく黒い炎を纏い始める。
アルシアの面が僅かに上がり、白い髪の隙間から光る金色の鋭い眼光がマグジールを捉えた。
「ガ、ア…………ゥゥゥアアアァッッ!!!」
髪の隙間から覗く禍々しい瞳………、それを見たマグジールの動きが一瞬だけ止まった。
対峙するだけで伝わる。神の力を持つ者を滅ぼす力……
そして今までよりも暗く濃く、強く明確な自分自身へ向けられた殺気に恐怖したからだ。
マグジールは怯むも、それを誤魔化すかの様にまた走り出し、叫び出す。
「アルシァアアアアアアア!!!」
空気が震え、鼓膜に響く咆哮を聞き流し、アルシアは手にした杭を無造作に投げ放った。
マグジールを覆う負の念が動き出し、迫る燃える杭を包み込む。
投げ放たれた地嶽炎刃の杭はそこで止まる……はずだった。
だが、黒炎を纏った岩の杭はまるで紙でも裂くように負の念をあっさりと破り、マグジールを貫いた後、その身体を無慈悲に焼き尽くし始める。
「ァ、ァ………、ギャアアアアアアアアアアアアッ?!!!」
貫かれた箇所から猛毒の様に広がる焔に顔を歪め、その場に貼り付けにされたマグジールの断末魔が響く。
かつての同胞が炎に包まれる様子を、アルシアは見下ろし淡々と告げる。
「同胞だったよしみだ、マグジール。二度と蘇られないよう、完全に俺の手で消してやる。」
異形となったマグジールを見下ろすアルシア……、その双眸には神を滅ぼす力の証である金色の鋸刃の紋様が浮かんでいたのだった。