「ギャアアァアアアアアアアッッ!!!!?」
断末魔を上げ、黒炎に包まれ転げ回るマグジールを無視し、俺は加速用の魔法陣を蹴って拘束されているニーザの元に向かう。
近付いて彼女を拘束している負の念を素手で掴んで引っ張ると、何の抵抗もなく千切れて黒い触手の拘束は霧散していった。
拘束が解け、ニーザがその場で尻餅をついてこちらを見上げた。
「……遅いわよ」
ニーザは俺の両の眼を見ながら、少しだけ疲れたように笑う。
神殺し……、アリスの物とは別の物だ。
アリスの『静止』に対し、こちらは『破壊』を司る。
俺はニーザに手を伸ばしながら、声を掛ける。
「悪い、また待たせたな。平気か?」
「当たり前………、よっ」
伸ばした手を掴み、ニーザが反動を付けて起き上がる。
俺は周囲に漂う僅かな力の残滓を感じ取り、周囲を見渡す。
俺の視線の先には薄っすらとだが、ガラスのような黒い破片が浮かんでいた。
「ニーザ、アレの準備は?」
「出来てる。いつでも使えるわよ」
「オッケー。後はどうやってアイツを倒すか、だな」
そう返しながら、今度は黒炎に包まれたマグジールを睥睨する。
神殺しの炎が負の念に掻き消されながらも、それを上回る質量で強引に掻き消され、焼かれたマグジールが身体を再生しながら立ち上がる。
マグジールの周りに漂う負の念も見たところ、少しも減った様子など無い。
「中途半端な攻撃じゃ、いくら与えても再生するだけか、それなら………」
「一撃で仕留めるのが定石ね。アルシア、アレを利用するわよ。」
そう言いながら、ニーザは負の念に指差しながら作戦を話す。
作戦を聞き終え、俺は頷く。
「分かった、それならまた俺が前に出る。ニーザは援護任せた」
「分かったわ、また捕まんないでよ」
◆◆◆
「召喚、ニーズヘッグ」
ニーザの力を纏い、破砕連装を展開しながら再生したマグジールに奔る。
マグジールは先程の展開を警戒してか、後退しようと構えたが、それをさせるつもりはない。
俺は腰のベルトに差した小指サイズの瓶を2つ取り出して投げつける。
マグジールはそれを虫でも払うように手で弾き、瓶が割れて中見が飛び散る。
「掛かった……!
俺は飛び散った中身目掛け、起動の術式を発動する。
直後、瓶の中身は急速に膨張し、無数の巨大な樹木となってマグジールを襲う。
「ガァ?!!」
「お前に使うには勿体ない代物だけどな………、バーサーク・ルーツ!!」
俺が投げ放ったのは特殊な術式で圧縮、超小型化した樹木を封印した瓶だ。今みたいに起動の術式をかける事で封印が解除され、膨張する。
マグジールはまるで竜の尾の様に迫る樹木の群れから上空へ逃げるが、逃げた先で待ち構えていたニーザが破砕連装から
だが、マグジールは纏っている負の念で足場を作り、強引に堕天の雨を避ける。
それを見て、ニーザが叫ぶ。
「アルシアッ!!!」
「ああ……っ、行け、
展開した破砕連装をマグジールを背後から囲うように移動させ、そこにニーザが放った堕天が直撃……、反射して速度を上げてマグジールの背中を襲う。
「ガ…………ウゥウウッ!!」
再びマグジールは迫る無数の重力球を躱すも、避けられたそれはニーザ側が展開したぶつかりまた反射、更に速度を上げていく。
回避され、反射、加速…………。
空間を幾度もバウンドして速度を上げる堕天を捉えきれず、遂にマグジールに直撃、容赦なく被弾していく。
「ギ………ァァアアアア!!!」
「加速式・破砕連装。アンタの動きに攻撃が追いつけないなら、速度を上げればいいだけよ。」
「そういうこった。ついでだ、コイツも貰ってけ」
全弾命中し、落下していくマグジールを荒れ狂う樹木の群れが捕らえ、地面に叩きつけ追撃の一撃が押し潰すべく鞭の様に振り下ろされた。
神衣を纏っていようと、最早意味などない。
マグジールを潰した樹木に再度攻撃指示を飛ばそうと手を動かすが、それをする前に樹木はミキミキと音を立てて盛り上がり、割り砕きながらマグジールが飛び上がる。
「アァ…………、ゥアァァアァアア………!!!」
身体を硬直させ、咆哮を上げると、両足、片腕を失ったマグジールの身体が再度、負の念に包まれ再生を始める。
黒い邪気が指先を埋めるように再生する刹那、その身体をニーザが展開した封印用の結界が包み込む。
「リーフ・スピア!!」
閉じ込められたマグジール目掛け、砕かれた樹木の一部が乾いた音を立てながら木の槍へと形を変え、上空のマグジールへの身体を結界ごと四方から貫く。
「カッ……………?!!!」
マグジールの短い呻きが響くと同時、木の槍を伝ってボタボタと夥しい血が流れ落ちてくる。
上空で串刺しにされながらも、再び負の念によって再生を始めるマグジール目掛け、合図するでもなく俺とニーザは同じ構えで両手を翳す。
雷鳴が響き、魔力が赤黒い稲妻となって掌に集まり始める。
これから放つのは妖姫ニーズヘッグが司る『破壊』の権能の象徴ともいえる技。
風の音も、マグジールの拘束から逃れようとする声すらも掻き消す程の轟音を響かせる赤雷を俺達は同時に解き放った。
『