『
結界と無数の木の枝に串刺しという二重の拘束を受けたマグジールを暗赤色の爆雷が襲う。
「ァ、ァ、ァァァァ………ッ、ゥウゥアアアアア!!!」
マグジールの咆哮に呼応し、大量の負の念が暗黙の様に広がり俺達とマグジールを隔てるが、赤雷はそれを容易く喰い破るように貫き、マグジールを呑み込んだ。
二筋の赤雷が交差する様に天を貫き、刹那、周囲の雲を赤く染め上げると、雷は静かに消えていった。
「…………さすがに死んだか?」
「はぁ………、そうでもないみたいよ」
不服そうな表情で軽く溜め息を吐きながら、ニーザは空に佇む影を見やる。
マグジールは…………生きていた。
殆ど骨だけで繋がってるような状態で怒りからなのか、激痛からなのか、その両方なのか…………、顔をしかめ此方を見下ろしていた。
「アタシの技をアルシアと同時に撃って生きてるとか、マグジールの癖に生意気なんだけど。ただ…………」
「ああ、これで決定打は打てたな」
負の念が脈動する。
死に体のマグジールの身体に吸い込まれるように纏わりつき、また身体の再構築を始める。
異形の顔が嘲笑に変わる。まるで「何をしようと無駄だというのが分からないのか?」とでも言いたげに。
再構築が終わり負の念の幕が晴れると、そこには元通りの姿のマグジールが立っていた。
前傾姿勢になり、こちらに迫るべく構えを取った時だ。
俺は叫ぶ。
「今だ、ニーザ!!!」
俺の言葉を受けて、ニーザは魔力を込めたメイスの柄で何も無い虚空を叩く。
その瞬間…………、世界はパキリ、とガラスが割れたかの様な音を立てて崩壊した。
同時にバンッ!と何かが爆発したかの様な大きな音と……
「ガ、ァ、ァ、………………グォアアァァァアアアアッ!!」
マグジールの一際大きな悲鳴が木霊した。
マグジールの身体は………、再生していなかった。
正確には再生したものの、質量に耐えきれず自壊したのだ。
何が起きたのだと動揺を表すマグジールへ答え合わせをするかの様に、ニーザは自身の魔力を周囲に放った。
それに呼応する様に、まるで硝子の破片の様な物が無数に姿を現した。
空中に漂う破片を一欠片摘みながら、ニーザは口を開く。
「マグジール。アンタがアタシを拘束する直前、アタシはコレを放ったの。その様子じゃ、しっかりと都合の良い夢は見えたようね?」
「アァァ……………、ガ、ァ………ッ」
ニーザが持つ最強の幻術、黒翼幻夢
この術の能力は大まかに分けて2つあり、今回はその内の1つを使っていた。
対象の知覚と認識を狂わせ、相手にとって都合のいい幻を見せる物。
ニーザはこれを使ってマグジールの感覚を狂わせ、負の念による再生を過剰に行わせて暴発させたのだ。
いくら大技を喰らわせたところで、あの再生能力の前では何の意味もないから。
煙を上げ、苦痛に藻掻くマグジールの双眸がこちらを向く。
「オ…………、ノレッ、イツモ、イツモッ!ボクノ邪魔バカリシヤガッテ!!!」
「それは俺の台詞だ、マグジール。これ以上、お前のどうでもいい劣情に付き合うつもりなんかねえ。幻術はまだ続いてる。此処で終わりだよ」
過剰なダメージ故か、それとも何かの洗脳でも解けたのか…………、自我を取り戻したマグジールが片言の言葉で喚きを並べ立てるも、俺はそれを冷たく一蹴する。
今もニーザの黒翼幻夢は発動したまま、再生などしようものなら更にダメージが蓄積されるだけだ。
トドメを刺すために俺が再び構えを取るも、マグジールは構わず叫ぶ。
「フ、フフフッ、終ルノハオ前ラダ。モウスグ、アイツガ『器』ヲ回収スル!ソウスレバボクハ約束ドオリ神ノ身体ヲ手ニシ、究極ノ存在トナル!!モウオ前達ジャ僕二勝ツナンテ、不可能――――――」
「そうかよ。」
「ガッ?!!」
喋り切る前に、片手間で作った地嶽炎刃の杭がマグジールの口を黒炎を上げながら貫き、言葉を遮る。
それに遅れて、雷鳴が再び鳴り響く。
二発目の塵禍降雷が俺とニーザの掌で収束を始めた。
向ける感情は無く、俺は神の傀儡となった男に掌を向ける。
「なら、そうなる前に跡形もなく消え失せろ、マグジール」
「――――――ッッ!?」
「塵禍
今度こそとどめを刺すべく、破壊の名を紡ぎ上げた…………
その時だった。
マグジールの周りを漂う負の念が膨張し、その身体を覆う。
俺とニーザは術の発動を中断し、後退する。
「な、何だ………?!」
「ナ、何ガ…………、何ガ起キテイル!!?コレハ―――――」
どうやらマグジールの意思とは関係が無いらしい。
マグジールが自身を包もうとする負の念を払おうと腕を振り回して藻掻くも、抵抗虚しくマグジールの身体は黒い邪気に包まれた。
遅れてそれが溶けるように、目の前から霧散していく。
辺りに気配は無い。
「消えた……………、いやっ!」
「転移よ!まさか、アリス達の所に!?」
俺とニーザは弾かれたように、雲の先にあるであろう天蓋の大樹の最上層を見上げる。
見上げて少しした時だった。
空が黄昏に染まり、地上に押し潰すような圧が降り注いだのは………。