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第28話「消える傀儡・前編」


動きを止めて落下していた3本の腕がひとりでに動き始め、宙を舞う。鎧の魔族が再び動き出したのだ。

私は脚に魔力を込め、地面を蹴る。


「縮地…………、一速!」


纏っている風のヴェールの後押しを受けて、私は鎧の魔族が動き出すよりも早く、加速。

無機質な鎧の巨人に肉薄した。

風の刃を纏った聖杖を構え、更に一歩踏み出す。


「――――――ッ!」

「斬響・槍撃…………!!」


私の放った一撃と、鎧の魔族が構えた岩の剣が交差する。

びくともしない巨体に一撃を捩じ込むべく、全身に力を込めた。けれど………、


「ガァアアアアッッ!!!」

「きゃっ?!!」


鎧の魔族が咆哮すると共に剣を振り抜き、その膂力を持ってして私を大きく弾き飛ばした。

(やっぱり、一速じゃ足りない……!)

私はフレスさんの召喚をまだ使いこなせる訳じゃない。

縮地の最大速度を出すのには3回使わなければいけないし、召喚の消費コントロールもまだ完璧じゃない。

大技も撃てて精々2回か3回…………。

その内の1回は今、不発に終わってしまった。

その残りの2発も外せば、神力切れで召喚は解除され、暫くは召喚も神術も使えなくなる。


受け身を取って、恐らくはご遺体が封印されてるであろう壁を見る。

先程よりも壁は赤く輝いている。

そして、その壁の奥から何となくだけど不思議な気配が放たれていた。

たぶん、いや間違いなく………、もう時間は残されていない。

槍を構え、脚に力を込めた私目掛けて鎧の魔族は岩の剣を逆手に構えて投げ放とうとする。

そこで、フェンリルさんが動き出した。


冰潰牙牢クラウ・リズン!!」


巨大な氷の礫が鎧の魔族目掛け収束し、岩の剣を構えた右腕を圧壊させる。


「はぁっ!!」

「――――――ッ」


フェンリルさんの拳が顔面を捉え、その巨体が蹌踉めいた。

もう一度、フェンリルさんが拳を叩き込もうとした時、フレスさんの声が鋭く響く。


「フェンリルッ!!」

「…………ちっ!!」


フェンリルさんが舌打ちをし、構えを解きながら真横に飛び退いた直後、鎧の魔族が遠隔操作していた3本の腕の貫手が地面に刺さる。

引き戻した腕を再接続しながら鎧の魔族が再度体勢を立て直そうとしていたけど、私はその隙を見て弾丸の如く駆け抜ける。


「縮地・二速っ!!」


加速による負荷が一速の時よりも強く全身を襲うも、私はそれを無視して鎧の魔族に迫り、先程と同じ様に聖杖を突き付ける。


「斬響・槍撃!!」

「グォオオアアアア!!」


咆哮を上げながら、鎧の魔族は3本の手に握られた剣を振り下ろす。

暴風の槍が振り下ろされた岩の剣と斬り結ぶも、それは二振りの剣を砕いたところでまた大きく弾き飛ばされた。

(いける…………!)

手応えから確信する。次の一撃で確実に抜けると。

すぐに着地し、また地面を蹴る。

同時に、鎧の魔族も駆け出した。


「最大速度………、縮地・三速っ!!!」

「―――ッ?!」


鎧の魔族が知覚出来ない程の速度で懐に入り込み、聖杖を構える。

鎧の魔族はすぐに三振りの岩の剣を振り下ろした。けれど、届く前にその全てが腕ごと白刃によって破壊される。フレスさんだ。


「そのまま行け、リアドール君!!」

「はい……………!」


援護してくれたフレスさんに短く返し、構えた聖杖に更に力を注ぎ込む。

周囲に拡がる焔を巻き込みながら、吹き荒れる光と溶け合った暴風が聖杖の穂先に生まれた刃に収束し、一際巨大な刃が発生した。

暴風によってぐらつく鎧の魔族の鋼鉄の胸板に、私は今度こそ聖杖を叩き込んだ。


「斬響・嵐撃…………!!!」


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