「はあ、はあ、はぁっ…………」
魔力も神力も全て使い切った、正真正銘空っぽだ。
先程の奇妙な感覚もない。
鎧の魔族を前にふらつき、その場で倒れそうになったけど、駆け寄ってきたフレスさんが支えてくれた。
息も絶え絶えにフレスさんを見上げる。
「フレスさん………、ありがとう……、ございます」
「よくやったな。とはいえ、もう戦えまい。後は私とフェンリルに――――――」
その時だった。
鎧の魔族が護り続けていた背後の壁から凄まじい爆炎と熱風が吹き荒れたのは。
フレスさんが私を抱き抱え、フェンリルさんの真横まで移動する。
熱風から顔を守りながら鎧の魔族の背後を見ると、赤熱した壁の中から押し出される様に男の人が姿を現した。
右頬に入れ墨の様な紋様を浮かべ、鴉の羽根を束ねた様な黒いマントを羽織った人………。
それが城でフェンリルさんに見せてもらった記憶に出てきたロキ様だと分かるのに、時間は掛からなかった。
私をフェンリルさんに預けたあと、フレスさんが再び剣に手を掛ける。
「フレス………」
「ああ………、封印が解けたか。フェンリル、リアドール君を頼む。遺体が盗み出される前に私は鎧の魔族を――――」
「…………いや、手遅れじゃ」
そう言いながらフェンリルさんは僅かばかり距離を取ると、獣化を発動して銀狼の姿となった。
私は訳が分からず………、フレスさんは訝しげな視線を向けるも、すぐにその意図を察したかのように鞘に剣を戻して私をまた抱えた。
「ふ、フレスさん?!」
「何度も触れてすまない。だが、このままでは全員、灰すら残らず消える羽目になる」
「え?それはどういう………」
突然の事に私が顔を真っ赤にして目を丸くするも、フレスさんは詫びを入れ、私を抱えたままフェンリルさんの背に飛び乗った。
何が起きるているのか分からない…………、そう混乱していた時に、それは起きた。
「グ………ウォオオオオオオオオオッ!!!」
口を開いた鎧の魔族の咆哮と共に、その胸部が開閉した。
そして、開いた胸部目掛け周囲に拡がっていた全ての炎がまるで吸い込まれる様に集まり、巨大な火球を形成し始めた。
「――――――――っ」
圧縮された膨大な熱量と魔力量を見て、背筋がぞわりと泡立つ。
一目見て分かる。アレは今まで鎧の魔族が使ってきたどの技よりも危険だ。
フレスさんの言う通り、あんな物が炸裂すれば間違いなく私達は灰すら残らないだろう。
火球は回収しきれていない炎、そしてマグジールを構成していた負の念すらも巻き込んで更に巨大になっていく。
下まで移動する魔法陣に辿り着き、フェンリルさんが起動の術式をかける。
此処に来た時と同じ様に私達の周りを眩い光が包みこんだと同時、強烈な音と共に一瞬だけ強く身体を引っ張られる様な感覚に襲われた。
慌てて背後を振り返ると、火球は掌程に小さくなっていた。
けれど、それは決して威力が弱まったという事を示すものではない。寧ろあれは……………、
「発動一歩手前か………。フェンリル、まだか!!」
「あと少しじゃ………!」
二人とも冷静に、けれど僅かに焦りを見せた表情でやり取りをしあう。
心臓が早鐘を打ち、フェンリルさんの背に伸ばした手に無意識に力が入る。
フレスさんがもしもの事態に備え、腰の剣に手を掛けた時だった。
転移魔法特有の浮遊感に身を包まれると同時に………、
圧縮された火球が光を放ちながら拡散した。