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4章「その名である意味」

第33話「少女の名は……」


天蓋の大樹から戻った翌日。

結界を張り巡らせた部屋で俺達はある人物を待っていた。

待つ事数時間、部屋のドアが開き、2人の人物が中に入ってきた。

1人目はフェンリル。そしてその後ろから、昨日会った白い少女、シギュンが耳の黒い羽飾りを揺らしながら現れる。


「アルシア。彼女が……………?」


この国の王ということで唯一、この場にいる事を許可されたフリードの質問に俺は頷く。

向けられた視線を受け、シギュンはスカートを摘み、可愛らしく微笑んだ。


「お初にお目に掛かります、栄光あるファルゼアの国王、フリードリヒ陛下。私の名前はシギュン…………いったぁ!?」


言い切る前にフェンリルの張り手がシギュンと名乗る少女の後頭部を容赦なくスパァンッ!と音を立てて叩き、悲鳴が響く。

涙目のシギュンがフェンリルを睨むも、それには動じずフェンリルは声を張り上げる。


「1000年ぶりに会ったかと思えば、ちゃんとした挨拶すら出来なくなったか、お主は!!」

「ちゃんとしてたじゃな………、あぁああ!?」

「ど、こ、の、誰じゃ?偽名なんぞ名乗って、ちゃんとした挨拶だとかほざいてる愚か者は……?」

「あー、嘘!ごめん!分かったから止めて!!割れる、割れるから?!」

「割れてしまえ、いっその事!!大体一体全体…………っ!」


シギュン…………と名乗る者の悲鳴と、頭を鷲掴んで力を込めるフェンリルの本気の説教、取っ組み合う音が響き、俺とニーザ、フレスは溜め息を吐き、事態を飲み込めないアリスとフリードが引き攣った笑みを浮かべた。


「あの………、アルシアさん。フェンリルさんが………」

「うん………。それに、偽名って」


一方的に締め上げられている少女をチラチラと見ながら縋るように俺達に問い掛ける2人。

たしかにあのまま放っておけば話しをする前に絞め落としかねない。

フェンリルの気持ちも痛いほど分かるが、そこまで猶予もないだろうし、いい加減止めるべきか。


「フェンリル、ストップ。締めるのは話が終ってから全員でだ」

「む、そうじゃったな」

「む、そうじゃったな………、じゃないよ!何さらっと自分達まで混じろうとしてるのさ!?」

「やかましい。その身体といい、大規模侵攻や今回の事といい、ちゃんと説明してもらうぞ、


『……………え』


俺が目の前の少女の姿をした男の本当の名を口にした瞬間、それを聞いていたアリスとフリードの目が点になり、同時に声を漏らした。

そして、改めてシギュン……ではなくロキに視線を向ける。

視線を向けられたロキは若干気まずそうに顔を逸らし、頭をかきながら、改めて口を開いた。


「えー………、改めて自己紹介を。0の世界、ファルゼアの元統治者、戯神ロキです……」


『………………………』


最初の畏まった口調ではなく、この場の空気のせいで若干元気のない声で普段の口調で自己紹介をするロキ。

アリスもフリードは相変わらず、開いた口が塞がらないというような、面白い顔でロキを見つめていた。

それはそうだろう。俺みたいに面白おかしい風評被害ではなく、文字通り神で伝説上の存在なのだから。

若干………、いや、大分緩すぎる奴ではあるけれど。


「教えてくれ、ロキ。開示情報制限までかけて、何を―――――」


生きていてくれて嬉しい、また会えて嬉しい。そんな気持ちを隠しながら、俺は改めて問いかける。だが……、


「ストップ」


ロキはそう短く言って、小さな掌を向けた。

そうして少女らしい微笑みを浮かべる。


「悪かったと思ってるよ。君達を騙した上、今まで姿を隠していた事も。そして、謝って済む問題ではないけど、結果的に自身の死を利用して大規模侵攻を発生させた事も。だから――――」


そこで一度言葉を切り、ロキはその場にいる全員を見た。


「全部話すよ。どうしてボクがこんな姿になっているのか、何故ボクがあの時、死を選んだのか。そして………、1000年前と今、裏で暗躍していた神、の事も」

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