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第34話「墓標の意味」


「名もなき………悪神」

「それがアルシアが言っていた太古の神とやらの事か?」

「そうだよ。その様子だとアルシアから大体のことは聞いている感じかな、皆は」


フレスの問いにそう返しながら、ロキは俺を見た。


「話してる。俺が夢で見た内容と、トートで掴んだ情報を。と言っても、夢の方は俺がしっかりと覚えてる範囲。その悪神とかいうのが出てきて、何処かに封じられたってとこまでだけどな」

「そっかそっか。じゃあ、ボクから詳しく話していこうか。座ってもいいかな?」

「え……っ?はい、どうぞこちらに………」


相手が神ということもあってか、話し掛けられた事に少し慌てた様子で席を用意しようとした所で、ロキはくすくすと笑いながらそれを制した。


「アルシア達にしてるみたいに、もっと気軽にしてくれていいよ、フリードリヒ君。ボクはもう統治者じゃないし、半分舞台から降りてるような物だからね」

「しかし………」

「まあまあ、そこに良い例がいるだろ?」


ニヤニヤとしながらロキがまた俺を見たので、むっとしながら見返すとフリードは納得したように苦笑し、頷いた。

その様子を見てロキは満足そうに微笑み、近くのソファーに腰を下ろしたかと思うと、俺達にも座る様に視線で促した。


「長い話になるからね。さて、まずはおさらい。魔族の正体については知っているね?」

「地界グレイブヤードで削ぎ落とされた死者の負の念が形を変えたもの………でいいんだよね?」

「正解。フェンリル達高位魔族を除き、全ての魔族はグレイブヤードで削ぎ落とされた負の念から生まれている………けど、疑問に思った事はないかな?何故そんな面倒な仕組みがあるのだろうと」


その問いに全員が黙る。

アリスとフリードは何となく思っていたのだろうという顔で。

俺、フェンリル、ニーザ、フレスは何度も同じ疑問を抱いた者達として。

過去にトートで調べた事もあったが、それに関する記述は見つからなかった。あの時は単に存在しない物と思っていたが、ロキの口ぶりからするに抹消されていたのかもしれない。


「正直に言えば、少しだけ。でもそれは人が成長する為には必要な事だって………」

「たしかに、その話も間違いじゃない。魔族と相対す事で人は知恵を付け、戦う術を手にし、自分達を守る術を身に着けた。でも、それは表向きの理由」

「表…………向き?」


表向き、という言葉を聞き怪訝な顔をするフリードにロキは頷く。


「さて、ここからアルシアが見た夢へと繋げていこうか。太古の昔…………、ボクやフェンリル達ですら生まれる前の時代の話だ。この世界が生まれて少しして、神人であるアダムとイヴが生まれ、二人の間に子が生まれ………、そこから更に人間が増えていき、人の文明は発展していった。そんな時にね。ある問題が起きたんだ」

「問題、ですか?」

「バグが発生したんだよ」


アリスの問いに、ロキはそう答える。


「世界を生み出した神がデザインした生命以外の、全く想定していなかった生命が生まれたんだ。初めは取るに足りない小さな存在だったらしい。けれど、それは本当に最初だけ。当時の生きてる人間の負の念と、死者の魂と思念…………、それら全てが混ざり合い、そいつはやがてファルゼアそのものを滅ぼしかねない巨大な怪物へと成り果てた」

「では、其奴が…………」

「そうだよ。それこそが下界で生まれた神の正体。1000年前の大規模侵攻の根本的原因であり、フェンリルとアルシアの覚醒と共に再び動き出した、名もなき悪神だ。奴は地上に存在するあらゆる物を取り込み、自我を得た」


朧気に記憶していた夢の内容が明確になる。

形を持たない、蠢く巨大な闇のような黒い化け物。

多くの命を喰らい、ファルゼアを崩落一歩手前まで追い込んだ。しかし…………


「その後、悪神はアダムとイヴ、神界の主神連盟を中心とした神の部隊と死闘を繰り広げ、敗れた。けれど、新たに問題も発生したんだ」

「崩壊しかけたファルゼアの大地の修復と、悪神の死体をどうするか、だな」


俺の言葉にロキは無言で頷いた。

そこにアリスが疑問をぶつける。


「死体をそのまま放置とか出来なかったんですか?」

「残念ながらね。悪神は戦いの中で神々さえも殺して喰らい、擬似的に神核を得ると同時にその質量も更に増えた。端的に言えば、当時のファルゼアと同じくらいの大きさだったんだ。しかも、倒したと言っても休眠に近い状態だったし、膨大な負の念も抱えたまま。とても無視できるものじゃない。そこでアダムとイヴ、神々は悪神の処理を先にする事を選んだ。悪神の神核を抜き取り、それを神界で厳重に封印した。…………神々でさえも普通はそんな事されたら死ぬんだけどね」

「その口ぶりでは、死ななかったんじゃな?」


「うん……」と心底呆れたようにロキは深い息を吐いた。


「大幅に力は削ぎ落とせた。けれど、悪神は生きていて、その巨大な身体もそのまま。彼らは苦肉の策としてある行動を取った」

「ある、行動……?」

「悪神の身体の一部をファルゼア修復の為に利用したのさ。それから、一番危険な本体を大龍脈がある地中深くに埋め、封印した。そしてその膨大な量の負の念を少しずつ別の形にして削ぎ落とし、長い時間をかけて悪神を消滅させる為の場所を作ったんだ」

「…………まさか」


その話を聞いてフェンリル達の顔が驚愕に変わる。


「そうだよ。悪神の身体の一部……、そして今もこれからも増えていく負の念、それらを混ぜ合わせ魔族という形で削り出し、悪神を消滅まで導く………。ボク達の居城、地界グレイブヤードはその為の場所であり、悪神の墓標でもあるんだ」


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