アクロと
二人は、畑で野菜の
「アクロ! こんなに大きいのが──」
ナナシは両手で大きな
──アクロ……?
アクロは首のアクセサリーを手のひらにのせ、
「──ねぇ、アクロ……。時々、君が
ナナシは芋を足元へ降ろし、アクロに歩み寄る──。
「この石の名前はセレンディバイト……。とても珍しい宝石。黒くて、
向けられた手のひらを、ナナシが
「──小さい頃──両親に買って貰ったお守り……。けど、きっと
アクロはセレンディバイトを両手で大切に
「……
少し自虐的に──アクロは笑う──。
「──セレンディバイトの石言葉にはね、勇気っていう意味があるんだって……。これも、
アクロは、セレンディバイトを空にかざして見つめる──。
「……
アクロはセレンディバイトを右手で
「それは──素敵だね……」
ナナシも
二人の間に──柔らかい──優しい空気が流れた──。
「ムウゥ……」
アクロは両手を後ろに組むと、下を向き、身体を左右に揺らし、何か少し──モジモジしている──。
「……ねぇ──黒猫さん……。ずっと──考えていたことがあるの……」
アクロは小さく深呼吸した後、胸に手を当て、
「……あなたに出会った時──私──名前を教えて欲しいって言ったでしょ? あなたの事──ちゃんと名前で呼びたくて──」
ナナシはアクロの正面に立ち、優しい表情で、その言葉を聞く──。
「──あなたは……ナナシ……そう答えた……。驚いた……言葉を無くした……。だって──それは名前じゃない──! そんな呼び方……! 私は間違っていると思う──! だから……今迄、あなたの事──黒猫さん──って呼んでた……」
アクロの
「……名前が無いのは悲しい事……。誰にだって、名前は必要よ……! それは誰かに、大切に思われているって事! それはあなたの、世界への
アクロの言葉が徐々に力を増す──。
「──誰よりもあなたを愛していたお母様は──悲しかったでしょう──! 苦しかったでしょう──! でも──私は
アクロは
「──あなたに出会った時──その黒く
アクロは胸の前でセレンディバイトを両手で
「──覚えてて……。セレンディバイトの石言葉は──勇気──」
アクロは、ナナシへと両腕を伸ばし手を開く──。
「──これは──私の感謝の気持ち。親愛なる、あなたへの贈り物……。あなたの名前は──セレン・ディバイト──」
「──それで……セレン──どう……かしら……?」
広げた指の隙間から目を
「……セレン──。アクロ……ありがとう──! 名前……嬉しいよ──! 僕の名前は──セレン・ディバイト──! 今から、僕は──セレン──!」
セレンは飛び跳ねて喜ぶ──。
「──セレン・ディバイト! セレン!」
生まれて初めて──世界の中に──自分が確かに存在していると感じた──。
「嬉しい──! 喜んでくれて……」
目に涙を
「……良かった──良かったね! セレン!」
アクロの顔は涙でぐちゃぐちゃだ──。
──セレン……。
「──ねぇ、セレン……?」
アクロが呼び掛ける──。
「なに……? アクロ──」
セレンは満面の笑みで答える──。
「……なんでもない……フフッ──」
──セレン……。
──あなたは、私の宝物……。
「行ってくるよ……。アクロ……」
セレンはアクロの耳元で──静かに──優しく
日も
「ムウゥ……。おはよう……セレン……。ごめんなさい──もう、行くの……」
アクロが目を開く──。
「……ホワァ……。ファ……。ムウゥ……。ネムイ……」
「……セレン──いって、らっ、しゃい……」
また、目を閉じた──。
「……今日は……セレンがいなくて……さみしい……わ……」
そう言って、ベッドにうつ伏せになり、枕に顔を
「……はやく……帰ってきてね……」
うつ
「……美味しい夕飯……作って……待ってる……から……ね……」
普段、料理は二人で作るのだが、セレンが町へ働きに出る時は、アクロがいつも一人で夕飯を作って、帰りを待ってくれている──。
セレンにはそれが、自分の為に作ってくれた、特別な料理に感じられて、
「行ってきます──!」
セレンがアクロと共に過ごして数ヶ月が
今日は町での仕事の日だ──。
──夕食前には帰ってこれるかな……。
アクロはすっかり良くなり、今は普通に生活していて元気だ──。
アクロを家に一人残し働きに出る事は、セレンもまだ少し心配しているが、森へ
アクロが最初の
アクロを家へ連れて入ったのもセレン自身だ──。
仕事を
仕事がある時は、朝の決まった時間、森の入口にある小屋へ来ている──。
毎日、そこへ顔を出すのもセレンの日課だ──。
時々、セレンが時間に遅れて行っても、仕事の
この森のスラムの事を知っているのは、
彼らの誰も、
何も無い──森の奥にあるスラム──。
あの日の──アクロとの約束──。
その為にも──今はしっかりと稼がないといけない──。
母の残してくれたお金は、ほとんど使っていない──。
母が自分の為に命がけで
母の事を想えば、つまらないことには使いたくはなかった──。
生活で必要なお金は自分で
使うならいつか大きくなって、世界を回る夢の為にと決めていた──。
それでも──まだまだ──たくさんのお金が必要だ──。
「セレ〜〜ン!! いってらっしゃ〜〜い!!」
セレンが後ろを振り返ると、アクロが家の扉の前で手を振っていた──。
「アクロ〜〜ッ!! お〜や〜す〜みぃ〜〜!!」
セレンはアクロをからかう──。
──眠たいくせに……。無理して起きて来て……。
このあと、
──今日はなるべく、早く帰ろう……。夕飯が楽しみだな……。
アクロはしかめっ面で、ほっぺをパンパンに
「ムウゥ〜〜〜〜!!」