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23 誘拐犯か王子様か?

廃院に隔離された最初の頃――

発作のない日は、ほかの子供たちと同じように授業に出て、礼拝をする。

やることのない時は、大人しく廃院に戻る。

でも、まもなくその大人しい生活が馬鹿馬鹿しいだと気付いた。

欠席しても、困る人は誰もいない。むしろ、欠席したほうが皆はより安心できる。

その証拠の一つは、食事を運んでくれる子供は、いつもプレートを扉の外に置いただけで、ノックもせずに逃げ去ること。

そして、楽しく遊んでいる子供たちに、私が近づけると、皆の笑顔が消えること。

私を避けている子供たちと無理矢理に遊ぶような無意味な行動をやめた。


たっぷりある自由時間をほかのことに使った。

廃院の壁の下ある穴を潜って、町に出た。

つまらない教科書や聖書にないもの、修道院の人が決して口にしない言葉をいっぱい覚えた。

下町で、修道院のよくない噂が散らばっていた。異端教団と繋がっていて、密かに邪神を信仰しているとか、養子に引き取られた子供たちは、生贄として異端の信者に売られたとか。

怖い話だけど、私はあまり心配しなかった。

だって、シスターは言った。私の身も心の、その「基準」に満たしていない。

彼女たちが子供たちに選んだ道なんて、私と関係ない。

修道院が本当に悪事をやっている偽善者だとしても、利用価値のない私を捨てなかった。  

衣食もくれていた。

下町の乞食の子にならないことだけで、満足すべきでしょう


私の道は、私自身が選ぶ。その時からすでにそう決めた。

外で学んだ最も重要なことは、綺麗な心だけでは生きていけないことだ。

仕事の能力――生存の能力が必要だ。

十分の能力があれば、修道院から離れられる。

そして、町でいろんな職人を観察し、どんな能力を学べばいいのか悩んでいるうちに、修道院を離れる日が来た。

思いも寄らない形でーー


ある日、市場から廃院に戻ると、見知らぬ青年がいた。

彼の顔を思い出せないが、確かに髪色は金色だった。

淡い光が全身を包むような人だった。

「よかった、危うく漏れた」

私を見ると、青年は嬉しそうに近づいてくる。

「誰……?」

私は思わず警戒して後退った。

「貴女をここから救出する人です。そうですね、童話中の白馬の王子様として理解していいです」

「町中の人たちが言った誘拐犯か」

そのまぶしい笑顔は、余計に怪しいと思った。

「誘拐犯?!どこからそのような結論……」

彼が戸惑った瞬間、修道院の裏扉に走り出した。

「あなたを助ける人は誰もいないですよ」

「!」

いかにも悪人っぽいセリフだった。

「大人は全員眠っています。子供たちはすでに僕が確保しました」

彼が追ってこなかったけど、その言葉を聞いた私はなんとなく異様に察して、足を止めた。

「僕は誘拐犯だったら、今すぐあなたを抱えてここから去るのもできます。でも、身の潔白を証明するために、あえてあなたの同意を得てから連れて行くつもりです」

「……」

確かに。彼の言った通り。

子供の私はあんな高い男から逃げられない。

距離を保ちながら話の続きを聞いた。

「連れてって、どこへ連れて行くの?」

「幸せなところです。あなたを愛する両親のもとへ。暖かい部屋、美味しい料理、かわいい猫ちゃんとワンコもいます」

「誘拐犯じゃなかったら……子供を口説こうとするやばい変態か?」

その時、もう下町でいろんな言葉を覚えた。

「……違います。正直な話、子供のことでもううんざりです。これ以上関わりたくありません」

「じゃあ、妄想好きな馬鹿?」

「……妄想好きでも馬鹿でもありません」

彼は一度ため息をついた。

「修道院が貴女たちに用意する親はまともではないから、代わりの親を探しています」

「だったら、私と無関係の話よ。修道院は私に親を用意しない……!」

反発をしようとしたら、呪いが発作した。

倒れた私を見たあの人は、すぐ私とほかの子供の「違い」を理解した。


「なるほど……」

「みんな、呪いと言っている。でも、なんとなく違うと思う」

怪しい人だけど、悪意がないのがわかった。

廃院のブランコはまだ使える。彼と並んで座って、適当な距離を保ちながら会話を交わした。

「親を探してくれるって、どういう意味?」

「簡単で言うと、あなたを幸せにするということです」

「そんな話、市場で五歳の子供も騙せない。詐欺師なら、もっと鍛えてきて」

「……今度は詐欺師か……」

彼はまた深いため息をついた。

「買い物をする時に、本当に欲しいものを諦めて、他人の口車に乗って別の物を買って後悔する馬鹿もいるけど、私はそうならないの」

「その言い方ですと、もう欲しいものが決まっているようですね?なんですか?」

「……本当の両親……本当の私は誰なのかを知りたい。あと、この『呪い』を解けて、普通の人のように暮らしたい……」

視線を草地に向いけたまま小さい声で呟いた。

わがままだと知っている。

けど、全部欲しい。

町で見た人々、皆当り前のように持っているものが欲しい。

どうして、私は皆と違うの?

「本当の両親、本当の自分……」

頭を上げていないけど、彼の目線はしばらく私に留まっていると感じた。

「嘘をついてもどうしようもないから、本当のことを教えてあげましょう。私に付いて行けば、その呪いのことを手伝えるかも知れませんが、『本当の両親』や『本当の自分』を望まないほうがいい。想象もつかない危険な境地に落ちます」

長い空白を置いてから、あの人は意味のわからない言葉を返した。

「親探しは……危険?なんで?」

「貴女は、ほかの子よりちょっと特殊ですから」

「『呪い』があるから?」

「『呪い』よりも厄介なことと言ってもいいでしょう。人間に触られた虎の子の結末は知っていますか?」

「人間に触れた虎の子?」

「たとえ自分の子供でも、一旦人間の匂いがついたら、虎はそれを危険視します。自分を守るために子供を殺します」

「私は人間い触られた虎の子……?」

ほかの子より特殊なのはなんとなくわかったけど、むかつくと思った。

ほかの子はまだ希望があるけど、あなただけは諦めるべきーー

と聞こえたから。

「あんたと一緒に行かない」

きっぱりと断った。

「たとえ実の親ではなくても、平穏で幸せに暮らせることができます。ここに残れば、道具にされて地獄に落ちるかもしれません」

「ここに残らない。大きくなったらここを離れる。本当の親と本当の自分を探しに行く。必ず見つけ出す!」

私の頑固さに頭を抱えたのか、あの人は再び長い息を吐いた。

「あなたの意志を尊重します。強引に連れて行きません。でも、僕がまだここにいる間に、考え直してほしい」


その日、私を除いて、修道院が引き取った12人の子供は全員失踪した。

その中の一人は、もうすぐとある男爵の孫娘になる身だった。

修道院の人たちはカオスに落ちて、私にかまう暇もなかった。

私もあの青年のことを黙っていた。

それからしばらくの間、青年は毎日も来ていた。

気が変わったのかと私に聞いて、私の変わらない答えを聞かされて、苦笑して帰る。

私たちの間の会話は、未来をかける真剣な話ではなく、何かの問答ゲームのようなものになっていた。

でも、ある日、彼はいつもと違う慎重な口調で、これが最後のように質問をした。

「今日は一緒に来てくれないと、もうここから抜け出すチャンスがないです」

「あんたについて行けば欲しいものを手に入れるの?」

今から振り返れば、そのわがままの答えは、彼を断るためのものより、自分へ戒めかもしれない。

親愛なる両親、暖かい家、どれも願っていたもの。

でもうすうす感じていた。

誰かと繋がりを作ったら、もう自由に動けなくなる。

温もりを覚えて、それに甘えたら、真実を求めることを諦めるかもしれない。


彼は少し沈黙したけど、やがてこれまでと同じように、頭を横に振った。

「じゃあ、あんたについて行かない」

「やはり自分の道で行きますか?」

迷いなくうなずいた。

「後悔しますよ」

「後悔しない」

「僕は後悔します」

「どうして?」

「お姫様を救えなかったから」

聞き飽きた長い溜息と意味不明な言葉。

そもそも、私は彼について何も知らなかった。

なぜ子供たちを「救おうとする」のも知らなかった。

この人は彼自身に関しての質問を一切スルーしていたから。

「こんな頑固な子は初めてです」

彼は方膝を地に付き、視線を私の視線と同じ水平線に置いた。

いつもより低い声で言った。

「では、これを持っててください。もう歩けなくなると思う時に、いつでもオレを呼ぶがいい」

掌に置かれたのは、小さくて、細工のいい、金色の百合のペンダントだった。


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