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24 張本人は誰?

風が吹いたらあっさりと散りゆくような、朧な記憶。

大体十年前のことでしょう。

ずっと不思議と思っていた。

自分の気持ちも、二人の会話も覚えているのに、「あの人」の様子だけは思い出せない。

でも、その人の年齢はウィルフリードと変わらないような気がする。

やはり違う人なのか。

その百合のペンダントも、ただの偶然なのか……


塩臭い船室内よりましだけど、真夜中の海賊船の甲板は会話を気持ちよく交わすところではない。

海賊の見えない片隅なのに、海賊たちの騒がしい声が途絶えずに伝わってくる。

火の光は今にも消えるように揺れている。

空気まで腐った匂いがする。

「なんの話をしたいの?これまで悪行なの?」

「一体どんな目で僕を見ているのですか?」

「どうして船長室にいたの?なぜ船長に先生なんか呼ばれている?あんたは一体何を企んでいるの?」

戯言で逃がさないように、単刀直入に問詰めた。

ウィルフリードにかかわると、なぜか気が短くなる。

人を見るのが得意のつもりだ。初対面の人でも、よく観察すればすぐにその性格や身分の大概を掴められる。

けど、この人のことだけ、何も見通せない。

逆に見通されるような気がする……

まるで、私の天敵のような人だ。


「そのロードという船長は、呪われています」

「!?」

少し沈んだ調子で言い出された言葉はまた意外なものだった。

「海賊船に上がったら、船長の様子に気になりました。気が狂っていて、何かに取り付かれたように見えます。それで、海賊の間でよく使う暗号で『僕は同業者』だと伝えました」

「……」

海賊の暗号を知っていることはなんとなく納得できる。

この人は一応天下の大悪党だから。

「あのカンナという女に、『船長の狂気を抑えられる』と伝えたら、ロードと話させてもらいました。呪われたけど、ロードは面白い子です。世界見聞をいろいろ聞かせているうちに、僕のことを先生と呼ぶようになりました」

「……その『呪い』は、どうやって抑えたの?」

「商売の秘密です」

周りが暗くて彼の表情をよく見えないが、今私に向けているのはズルい笑顔に違いない。

「じゃ、何に呪われたの?その狂気は、客船を襲うことと青石を奪うことに何か関係でもあるの?」

「もちろん関係があります。しかも、呪いをかけた張本人はこの船にいます」

ウィルフリードは垣立に向けて一歩を踏み出し、漆黒の海面を眺めながら懐から何かを取り出した。

よく見れば、指二つくらいの太さと掌くらいの長さの「鉄棒」のようなものだ。

「オレとものを争う代償を、彼たちに知ってもらわないと」

胸の底まで沈んだその声にぞっとした。

「再会のお祝いに、綺麗なものを見せてあげましょう」

変わったのが一瞬だけ、彼の口調はまた平穏に戻った。

「綺麗なもの?」

「月のない夜に、空を輝かせます」

ウィルフリードは鉄棒の蓋を取り、開け口を夜空に向けた。

ザッサ――!

小さな爆発音と共に、光の玉は鉄棒から飛び出し、空を駆ける星となった。

ザッサ――!

また一つ。

鉄棒から十数個の流星が相次ぎ飛び出した。

黒い幕のような夜空を灯る光の球は空で爆発し、無数な金色の星となり、巨大な花を咲かせた。

「花火?」

それは遠い東方から伝わってきたものだと言われている。

火薬を容器の中に詰め込み、一定の条件を加えれば、多彩な変化を咲かせる。

「これはどういう意味?」

綺麗だけど、綺麗だけではないのもわかる。

「すぐわかります。さあ、あの張本人を探しに行きましょう」

ウィルフリードはまたもったいぶって、私の腕を掴んで甲板下の船室に入った。


「なんじゃあれ!」

「信号か?!」

「どこからのもんだ?!」

「ボスに知らせなきゃ!」

異常事態に気付いた海賊たちが騒めいて、船室内はあっという間混乱になった。

ウィルフリードに腕を引かれたまま海賊の中を走り通る。

「ウィル先生!」

「あっ、ボスの先生だ!」

「悪いが、今ちょっと手が離せねぇ!自由にどうぞ」

嘘でしょう……

教養のない雑魚に見えるやつも、まともな人間に見えるやつも、ちっともウィルフリードを疑わなかった。

それどころか、かなり尊敬な態度で彼に接している……

奥様やお嬢様たちだけではなく、海賊まで食えるの?!

「その目線、感服と捉えてもいい?」

彼は自慢そうな笑顔を見せた。

「ええ、感服したわ。その人柄の悪さに!」


「人柄の悪さね、あなたに見せますよ――ケン・グライドさん」

ウィルフリードの手は後ろから「あの人」の頸を回し、銀色輝く刃をその人の喉にくっつけた。

探していた「張本人」はこの人なの?

薄暗い狭い廊下で、ウィルフリードはこのケン・グラードという大男――客船に潜り込んだ「奴隷」を捕まえた。

ケンの大きい体は小さく震えて、唾を呑むように喉が動いた。

ケンの傍にもう一人がいる。姫様に食事を運んだ女だ。

彼女は口を大きく開いて、声ひとつも出せなかったーー私が片隅で拾った短剣で彼女の喉を指しているのが原因、でしょう。

……悪事に加担するつもりはないが、黙らせないとこっちが困る。

「ロードのところで彼を見ましたよ。出たり入ったりして、言葉も上手です。海賊船でこんなに自由に動ける人は、可哀そうな奴隷のはずがありませんね」

「なんの、つもりだ……?」

低くて、しわがれた声。

確かに発音がきれい。

「それはこっちのセリフです」

ウィルフリードはニコニコしながら、先ほど花火を放った鉄棒をケンに握らせた。

「ご自分のしたことにちゃんと責任を持って後始末してくださいね」

「……」

憎悪そのものの目で、ケンは微笑んでいるウィルフリードを睨みつけた。


「これは……ど、どうした?!」

「お前たち…ウィル先生?」

ウィルフリードはダガーでケンを抑えて、メイン通りの廊下に入ったら、さっそく何人の野次馬が集まってきた。

「この人です。先ほどこの人は何かの信号を出しました。なんのつもりかわからないけど、とにかく、彼を確保しました」

優雅で平然とした顔で、ウィルフリードは嘘をついた。

「はっ?!」

海賊たちは驚きと疑問で口を大きく開いた。

「違う、嘘だ、奴は……」

ケンは弁解しようとしたが、ウィルフリードはダガーに力を入れて、その話を止めた。

「ここでぼうっとするよりロード船長に報告しましょう。姫様のことを後にして、こっちの問題を先に解決したほうが賢明です。この人を見逃したら、挽回できないことになるかも知れません」


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