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27 人質の逆襲

「一番危険な場所は一番安全な場所。堂々と指につけたものは盗んだばかりのもの、誰も想像できないでしょう」

「……本当か?!」

私を信じきれないケンは姫様に問いかけた。

藍の話によると、青石は何年前からサン・サイド島に保管されていた。青石云々と言ったけど、ケンは本物を見たことのない可能性が高い。

それに、姫様がそれを持ち歩いているという確信もないはず。

途方に暮れて、勢いで海賊を脅かそうとしただけだ。

こんな時に本物っぽいものを見せれば、必ず動揺する。

「……」

姫様は唇を噤んで無返事。

ケンは更に戸惑った。

「姫様は優しいお方、この前にも大変お世話になったの。恩人が苦しんでいる姿を見たくない。海賊たちの用意を待っている間に、姫様の代わりに私が人質になってあげる。この青石と一緒にね」

「! モ、モンドさん……!」

姫様は驚きの声を上げた。

「何に迷っているの? 姫様を人質にしても、いざとなった時に本当に手を出せるの? 無条件であなたを信じ、あなたを庇った姫様を道ずれにしたら、あなたの卑怯さは、あなたが憎んでいる奴ら以上だよ」

「……」

ケンは沈黙した。

腕の力が少し緩んだようだ。

姫様への感謝と罪悪感がまだあるのでしょう。

けど、彼の罪を咎めた私なら、躊躇いなく利用できるはず。

彼の決断を催促するために、ゆっくりと前に進む。

「さあ、姫様を放して、私を掴むがいい。どっちが有利なのか、あなたも知っているでしょ」

捕まれやすいように、両腕も伸ばした。

その時、荒い足音が耳に入った。

幾つかの人影は、甲板の向こうから走ってくる!

!!

私が突然に現れた人たちに注意力を取られたら、ケンは姫様を突き飛ばし、私の両腕を掴んだ。

「嘘でも、とにかくもらおう!」

ケンは指輪を抜こうとするが、私は拳を握り潰し、させなかった。

強奪は失敗、予想もしなった人たちも現れ、ケンは慌てて私を盾にして防御の姿勢を取った。


「これは一体……?!」

駆けつけたのは六人。

副船長、体格のいい船員が三人、自称なにかの探偵の少年、そして、ブリストン子爵の末子。全員の手に剣か銃の武器を握っている。

「見てわかりませんか。その人は人質と秘宝を交渉条件に、奴隷たちの自由と脱走用のものを強要しています」

ウィルフリードが涼しい顔で語った説明を聞いても、六人の中で五人は状況を呑み込めなったように、疑問顔のまま。

一人だけ、目がキラっと光った。

「やはり犯罪者だな……」

探偵の少年は歯を噛み締め、悔しさと憤慨を込めた言葉を発した。

「最初からお前の正体を見破ったんだ。さっさと観念しろ!海賊たちはすでに制圧された!救命ボートも食料も俺たちが確保した!これ以上悪行を重ねたら天に代わって成敗してやるぞ!」

「このガキ!なんの戯言だ!」

カンナは少年の胸倉を掴んだ。

「戯言じゃない。現実だ!武器さえあれば俺様は無敵だ!海賊如きが何匹いようとも話にならない!全員を助けるのもちょろいことだぜ!なあー!」

賛成を求めるようと少年はアルビンに視線を向けたけど、残念なこと、相手の視線が私のほうに向けていて、少年に無返事。

「全員を助けるって?どこの夢話だ!」

「夢のないエリザコ海賊ども!よく聞け、俺様はフランディール帝国皇帝陛下に直属する特別秘密探偵の……」

ああ、さっきより面倒なことになった……

ケンと海賊は敵同士。海賊と客船の人は敵同士。ここにいる全員とケンは敵同士。

誰を先にやっつければいいのか誰も分からなくなる……

まさにカオス状態だ。

不意に、割れたような痛みが頭の中を走った。

嘘でしょ、こんな時に、魔女の呪いが……!?


「姉貴!大変だ!」

「捕虜たちが……!」

「ひぃ!こっ、ここにいたんだ!」

ボロボロになった数人の海賊が慌てて駆けつけて、遅れた情報を持ってきた。

「黙れ!捕虜なんかに構う暇などない!」

カンナの一喝で雑魚たちはヒヒッと背中を伸ばした。

今となって、さすが海賊姉貴の神経も切れる。

状況はますます混乱になっている。

絶好な脱出チャンスなのに、頭を襲う痛みのせいで全身の力が散らして、集中できない……

「皆さん、もうやめてください!」

姫様は爆発直前の探偵少年とカンナの間に入って、渾身の力を絞って二人を押し分けた。

「モンドさん、モンドさんはわたくしのために人質になったのです……お願いします! 彼女を助けてください!」

「なんだと?!」

一番乗りで姫様の話に反応したのはアルビンだった。

姫様の話を聞いた子爵末っ子は血相が変わった。

「あいつは、貴女のために……?馬鹿な……」

その顔を見て、苦笑したい気分だ。

そんなに不思議なの?

「本当です!モンドさんは、自らわたくしと入れ替わって、人質になったのです……」

姫様の気持ちに申し訳ないけど、人質になったのは人助けのためではない。

「……」

数秒の沈黙が経ったら、アルビンはまた私とケンに向けた。

「お前、一体……なにをしたいんだ!このバカ!!」

突然の怒鳴りに、後ろのケンまで驚いて、膝がガクンと小さく揺れた。

「……また何かご機嫌を損なうことをしましたか?それは申し訳ないですね」

頭痛を我慢しながら、皮肉のつもりで愛想のない微笑を作り上げた。

「あの時も、同じだったのか?!同じだろう!教えろ!本当のことを教えろ!」

いろんな意味で頭痛が激しくなった。

手を使えたら、この馬鹿なお坊ちゃまに一発を食わせてやりたい。

空気を読め!過去の真実なんかを究明する場合じゃないだろ!

「どうやら、いろいろな事情があるようです……いいえ、ありすぎますね」

「藍!」

いつの間にか、藍は姫様の後ろに現れた。

遅い……いままで何をしてたの?

「お嬢様、ご無事ですね。お傍から離れてしまって申し訳ありません。あの船長の状況はちょっと手ごわいですので……」

「モンドさん、モンドさんはわたくしのために、人質になったの!お願い、彼女を助けて!」

「なるほど、姫様のために……」

姫様から話を伺った藍は、目線を私に移した。

泣きそうな姫様と全く違い、波紋一つもない静かな眼差しだ。

「この状況を片付けないと、終わるべきことも終わらないでしょう」

そう言いながら藍は前に出た。

「なんのつもりだ!!?」

警戒したケンは私の頸と腕を更に強く締めた。

両手は彼の太ももに当てられている。

「あの船長さんに青石の逸話を聞かせたのはあなたですね」

「それはどうした?!」

「だっとしたら、あなたも知っているはずです。青石は幸運を呼ぶものではなく、数々の不幸を持ち主に運ぶ忌まわしい存在です。そのような物は、どうぞお好きのように処理してください」

「!?」

その発言はあまりにも意外だったのか、一瞬、私の腕を縛る力が緩んだ。

ほぼ同時に、頭の痛みが消えて、体の感触が戻ってくる。  

「な、なにをふざけたことを!青石も、この女も、どうなってもいいのか!」

ケンは取り乱した。

チャンスだ。

右手の親指で、こっそりと人差し指につけた指輪の蓋を弾けた。

「さっさと言ったものを用意しろ!でないとこの女と青石は……」

ケンは私の方腕を掴んで上げようとする瞬間、指輪に隠された小さな刃で思いきり彼の太ももを切った。

「ガァァーー!!」

悲鳴とともにケンの体勢が崩れ、私は束縛から解放された。

躊躇いなく、垣立の向こう側に身を引き、ケンから離れる。

指輪が描いた軌跡から、数点の赤い血滴が飛ばされ、火の光の中で煌めいた。

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