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第15話 約束の場所へ

 そして翌日、朝食を美味しく平らげた俺とタマちゃんはギルドへと向かった。

 今日も良い天気。

 絶好の冒険日和に足取りも軽い。

 それに、今日はいろいろと検証出来るという楽しみもあった。


「あ……」


 ギルドの入り口の扉を開けようとした時、後ろにいたタマちゃんの声が聞こえた。

 振り返ると、そこにはなかなかのイケメン冒険者がタマちゃんと見つめ合っていた。

 誰よ!その男!


「や、やあ…ひさしぶり……」


 その意味深な挨拶止めてもらって良いですか?


「はい…ご無沙汰してます……」


「………」


「………」


 さあ、どちらかが話し出すのが先か、俺がドアノブ握り潰すのが先か勝負しようか。


「……あ、そちらの彼は?」


 俺ですか?

 ちょっと大きめのドアノブですが何か?


「えっと…あの……私と一緒にパーティーを組んでいる…タイセイさん…です」


 そこをどもると、見られたくなかった的に聞こえるからね。


「そうか、仲間を見つけることが出来たんだ…良かった……」


「はい…お陰様で…」


 挨拶した方が良いのかな?

 そりゃするのが普通だよ。

 でも、俺の中の何かがそれを拒否するんだよ。


 ……とりあえず会釈ぐらいはしとくか。


「ゴメン!!」


 突然、そのイケメンがタマちゃんに対してブーメランのように体を曲げて謝ってきた。


「え!?何で!?」


 タマちゃんは何故謝られたのか分かっていないようで、手をわちゃわちゃ動かしていて可愛い。


「ずっとタマキに謝らないといけないと思っていたんだけど、急遽依頼で遠出することになって、それからなかなか会うことが出来なくて」


 呼び捨て止めてもろて。


「タマちゃん、この人は?」


 わちゃわちゃしっぱなしのタマちゃんを助けるべく俺はそう言った。


「あ、えっと、この人は――Cランク冒険者のロレックスさんです」


 Cランク、イケメン、ロレックスだと?

 Fランク、平凡、腹時計の俺といい勝負じゃねーか。

 いや、若さの分、俺が勝ってるんじゃね?


「えっと、ロレックスさん。何で謝ってるんですか?どうもタマちゃんには謝られる心当たりが無いみたいなんですけど?」


「はい、私も何でいきなり謝られてるのか分からないです」


「分からない…?俺は君にあんなに酷い事をしたのに?」


 そこ詳しく。

 内容次第では、俺の果物ナイフが火を噴くぜ。

 簡単に焼きリンゴが出来上がるぜ。


「あの時、俺は君が待っている場所に行かなかった……」


「ああ……あの時のことですか。でも、あれは当然の事だと思っています。私が悪かったんですから、ロレックスさんが謝るようなことではありませんよ…」


「えっと、俺が聞いても良い話かな?」


 聞かれたくない話なら消えるけど?

 二度と誰の目にも触れない常闇の世界に。


「別に大した話じゃないんですよ…」


 そうなの?

 昔の男は切り捨てるタイプ?


「実は前にロレックスさんと一緒に――」


 一緒に!?


「一緒に――依頼を受けることになってたんです」


 依頼!?


 ……え?


「というよりは、ロレックスさんたちが受けた依頼に、私が同行させてもらうことになってたんです。タイセイさんも知っての通り、私はレベルが低くてなかなか一緒に郊外での依頼を受けてくれる人がいませんでした。その時にロレックスさんが声をかけてくれたんです」


「ああ、新人冒険者を導くのも先輩の務めだからね。タマキが仲間を見つけられないことに我慢が出来なくなって、一人で無茶をするといけないと思って、私がレベル上げを手伝おうという話になっていたんだ」


 良い人じゃないか……。


 下心とか無かったよね?


「でも…約束の時間にロレックスさんたちは待ち合わせ場所に来ませんでした……」


 前言撤回!

 最悪だ!最低だ!

 イケメンだからって、許されると思うなよ!


「あ!違うんです!ロレックスさんが悪いわけじゃなくて、弱かった私が悪いんです!」


 俺がロレックスに睨むような視線を送っているのを見たタマちゃんが、慌てて俺たちの間に飛び込んできた。


「いや違う!!悪いのは全て私だ!!」


 そうだそうだ!


「いいえ、ロレックスさんは将来を有望されている冒険者です。私みたいな底辺を這いずり回って泥水を啜って生きているような者と一緒に行動するなんて、気が変わって当然だと思っています」


 タマちゃんの自己肯定感はどこに行けば売っていますか?


「気が変わってタマちゃんを見棄てたんですか?それなのに、今頃になって謝ろうとしてるんですか?」


「違う!見棄てたわけじゃない!!」


「じゃあ、何で行かなかったんですか!!」


 納得のいく理由を聞かせてもらおうじゃねーか。


 完全に部外者だけど。


「……だ」


「え?なんて?」


「寝坊した……んだ…よ」


 ……は?寝坊?


「前日の夜に飲んだ酒のせいか、起きた時には夕方になっていて…待ち合わせの時間は完全に過ぎていたんだ…」


 ただの遅刻!?


 ロレックスなのに!?


「仲間のオメガにも起こしてくれるように頼んでいたんだが、そいつも一緒に酒を飲んでいたから…起きられなかったみたいで…」


 オメガなのに!?


 時間守れないならお前ら名前変えろ。


「だから!……決して、タマキを見棄てたとか、そういうのじゃないんだ。あの時は本当にすまなかった!!」


 この必死さは本当に悪かったと思っているみたいだ。


「分かりました…。ロレックスさんの事はこれっぽっちも恨んでたりしてませんけど、ロレックスさんがそれで気が済むというなら、その謝罪を受け入れます」


「いいや!こんな謝っただけで私の贖罪しょくざいが済んだなんて思ってはいない!」


 ややこしくなるから、これ以上喋らないで欲しい。


「もし、君が――いや、君たちが許可してくれるなら、あの時の償いとして依頼に同行させてもらえないだろうか?薬草採集でも、ドブ掃除でも構わない!!頼む!!何か私に手伝わせてくれないだろうか!!」


 ドブ掃除とか、Cランクが手伝う仕事じゃないだろうに…それだけ真剣に言われると…。


「私はもう十分に謝ってもらったんで……タイセイさんはどう思います?」


「俺は――この人に手伝ってもらっても良いんじゃないかと思う」


 これだけ必死な姿を見せられちゃうとね…。


「今日は少し森の奥に行く予定でしょ?万が一、俺たちじゃ手に負えない魔物に出くわさないとも限らないから、Cランク冒険者が同行してくれるっていうなら心強いからね」


 ステータスがドロップした時は内緒にしておいて、戻って来てから確認すれば良いし。


「……分かりました。ロレックスさんの提案を受け入れます」


「おお!ありがとう!!タイセイくん――だったか、君もありがとう!!」


「では、ロレックスさんは今日でも大丈夫ですか?私たちは薬草採集の依頼を受けて森へ行く予定なんですけど」


「ああ!問題ない!今朝、依頼を終えて帰ってきたところだから、ギルドに報告をしたら、今日は宿屋で寝るだけの予定だったんだ!」


「では、私たちは依頼を受けてきますから、ここで待っていてもらえますか?」


「分かった!――あ、一度宿屋に戻って来て良いかな?他のメンバーに依頼完了の報告が終わった事と、君たちに同行させてもらうことを伝えないといけないから。すぐ近くの宿だから待たせるようなことはない」


「分かりました。では、この場所に集合ということにしましょう。あの時と同じ場所ですね」


 なるほど、タマちゃんなりに気を使っているんだな。

 同じ場所を待ち合わせにして、ロレックスの気持ちを清算させようと思ってるんだろう。


 そうして、俺たちはすぐの再会を約束して別れた。




「タマちゃん……」


「はい……」


「今朝帰ってきたってことは……昨日から寝てないんだよね?」


「寝ながら歩くスキルとか持っていなければ……」


「今日の予定は何て言ってたっけ?」


「宿屋で寝るだけって言ってましたね……」


 ロレックスと別れて1時間。

 ギルドの入り口前で待っている俺とタマちゃん。


「……いこっか?」


「ですね……」



 そうして――またも約束が果たされることはなかった。


 ロレックスって目覚まし時計出してないんかな?




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