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第16話 耳をすませば

 時間を無駄にロスしてしまった俺たちはいつもより速足で森へと向かった。


 到着した時には、俺もタマちゃんも少し息切れがしていたが、何とか昨日と変わらない時間に着くことが出来た。


「まずは先に依頼を済ませてしまいましょう」


 今日受けた依頼も昨日と同じ薬草を20。


 俺の目標は昨日よりも多い3つだ!!

 志は常に高く!!

 それが俺の信条だ!!


「タイセイさんは半分取れるように頑張りましょうね」


 くそっ!タマちゃんのいる高みまでは、まだまだ遠いぜ!


 結局、俺が死ぬ気で4つ目を見つけたところで、残りをタマちゃんが見つけ終わってしまった。



「で、どうです?スライムもゴブリンも何匹か倒しましたけど」


「何も落ちないね」


 薬草を探している間にも、草むらから飛び出してきたゴブリンや、ぽよんぽよん近づいてきたスライムを倒してはいたのだけれど、そいつらからステータスがドロップすることはなかった。


「やっぱり最初に倒した時だけなんかな?」


「それか、数かもしれませんよ?何匹か倒したら、とか?」


「ああ、そういう可能性もあるのか」


 それは考えてなかった。


「もう少しスライム探してみます?」


「いや――もし数だったら、そのうち嫌でも確認出来るから、やっぱり今日は初めての魔物を検証しよう」


「分かりました。じゃあ、この石をどけたら下いた小さいスライムはどうしましょうか?これって初遭遇ですか?」


「……それスライムじゃないから寝させておいてあげて」


 見た目は丸いけどね。

 でも、足いっぱいあるからね。



 森の奥へ向かう事一時間。


「結構歩いたけど、スライムとゴブリンしかいないね…」

 平和すぎて、すっかり気分が虫取りに来たみたいになってる。


 小学生の頃に山で捕まえた虫が、カブトムシのメスかカナブンかで友達と大喧嘩した事があったなあ。

 懐かしい。

 結局、コガネムシだったんだけどね。


「このあたりはまだ入り口を少し入った辺りですから、もう少し行かないといけないかもしれません」


 これでまだ少しなの!?


「……この森ってそんなに大きいの?」


「まあ、この大陸の半分がこの森ですからね」


「大陸の半分!?」


「誰もこの森の奥がどうなってるか知らないみたいですよ。探索隊も何度か派遣されたらしいですけど、誰も戻ってきていないとか……」


 魔王よりヤバいのが棲んでたりしない?


「タイセイさん止まって!!」


 何!?どうしたの!?


「あの木の下にフォレストバットがいます!!」


「森の…蝙蝠?」


「そうです!でっかい蝙蝠です!」


 どれくらいでかいの?

 と、タマちゃんが言う方向を見てみると、ちょうどこちらに気付いたみたいで、羽を広げて飛んできていた……広げた新聞紙サイズの巨大な緑の蝙蝠が。


「でかっ!!」


「でしょ!?」


 何でタマちゃんが嬉しそうなの?


「うおっ!!」


 俺とタマちゃんは左右に飛んでフォレストバットの急襲を何とか躱した。


「あいつはナイフだと分が悪そうだね…」


 攻撃を躱されたフォレストバットは、そのまま飛んだ先の木の枝からぶら下がってこちらを見ている。


「あいつは目が悪くて耳で位置を探って飛んできます。なので、そこを私が矢で撃ち落としますから、タイセイさんは落ちてきたところに止めを刺してください!!」


「了解!」


 その作戦会議が終わるのを律義に待っていてくれたフォレストバットさんは、再びその羽を大きく広げて、まるでタマちゃんの的になるかのように飛んできた。


 その片方の羽をタマちゃんの矢が貫く。


 そりゃそうなるよね。


 錐揉み状で落ちてくる蝙蝠さん。


 俺は相棒のナイフを握りしめて獲物へと走り出す。


 そして――


 必殺!!ダッシュ!!あーんど、シュートォォォ!!


 思いっきり蹴り飛ばしてやった。


「タイセイさん!ナイフ使ってー!!」


 フフ、奥の手は最後まで隠しておくものだぜ。


 フォレストバットはそのまま木に叩きつけられてピクピクと虫の息のご様子。


「ここでトドメにナイフを使うのだよタマちゃん」


 俺は止めを刺すべく――ゆっくりと、ゆーっくりと近づいていく。


 別に急に動き出さないかな?とか怖がっているわけじゃあない。


 わけじゃあないけど、んなこたあミジンコほども考えてもないけど、とにかくゆーっくりと近づく。


「タイセイさん!早く止めを刺してください!!じゃないと――」


「じゃないと?」


「フォレストバットは普段は集団で行動するんです!!なので、この騒ぎを聞きつけた仲間が集まってきま――来たー!!」


 森の奥からバッサバッサと羽音を立ててフォレストバットの群れがこちらへ飛んできていた。


「タイセイさん!!逃げますよー!!」


「走れー!!」


 トドメを刺している場合ではなくなり、全力で走り出す俺たち。


 その走る音にすら反応しているみたいに付いてきていた。


 必死で逃げている最中、俺はずっと考えていた。


 タマちゃん、多分こいつらは君の大声を聞きつけて来たんだと思うよ?


 見つけた時からずっと叫んでたもんね…。


 しかし、そんなことを本人に言う度胸など無いのです。



『フォレストバットが倒れました。

 経験値10を手に入れました

 職業【フォレストバット】のステータスがドロップしました。

 職業【フォレストバット】のステータスをステータスインベントリへ保存します』


 倒れ、ました?

 ああ、さっきのやつね。


 ラッキーって、今はそれどころじゃないから!!


「助けて―!!ロレックース!!」



 フォレストバットの群れがいなくなったことに気づいた時には、最初の森の入り口まで逃げてきていた俺たちだった。




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