魔物は討伐部位をギルドに持っていくと、それに応じて報酬が貰える。
ゴブリンなら左耳、スライムみたいな雑魚は貰えない。
そして、モヒカンはというと――
ベリベリ!!
タマちゃんが倒したモヒカンのモヒカンをむしり取っている。
なんか、マジックテープが剥がれるみたいな音がして、タマちゃんの手には立派なモヒカンが。
そして、その前に横たわるスキンヘッドの元モヒカン。
それって、着脱式だったんだ。
へえ……。
その光景は、どう見ても追いはぎとその犠牲者にしか見えない。
「タマちゃん、それって埋めてあげるの?」
さすがにこのままだとねえ。
「え?モヒカンは食べられないんで、他の魔物と同じでこのまま放っておきますよ。そのうち動物たちが片づけてくれますから」
君にはまだそれが魔物に見えるのね。
俺にはただの凄惨な事件現場にしか見えないよ。
まあ、それはさておき。
モヒカンを倒したことで、他にも驚いたことがある。
『モヒカンを倒したことで《ンバ茸》を手に入れました』
という通知だ。
「これでポチさんの依頼も達成ですね!」
喜んでいるタマちゃん。
黄色に黒の斑模様の毒々しいキノコ。
「何でモヒカンからキノコが……」
「え?モヒカンのドロップアイテムといえば《ンバ茸》ですよ?街で売ってる《ンバ茸》も全部モヒカンから採れたものです」
採れた、というか――奪ったという気がする。
本当にこれ食べて大丈夫なのか?
「人間が食べると、気分がハイになるって聞いたことがあります」
そして、人格が灰になる、と。
「一応モヒカンのステータスも手に入ったし、依頼も終わったから、今日は街に戻ろうか?」
「そうですね。あ、モヒカンから何かスキル取れました?」
「んー。こいつは特に何も持ってなかったみたい」
「そうなんですね。残念です……」
「うん、また次回に期待するよ」
そうして、俺たちは街へと戻っていった。
『職業【モヒカン】のステータスを装備しますかYES/NO』
「NO」
「ん?タイセイさん何か言いました?」
「いいや、いつもの独り言だよ」
確認したモヒカンのステータス。
そこに書かれていたスキルは――「気分上々《トリップ》(大)」。
絶対に装備しちゃいけないやつだったぜ!!ヒャッハー!!
ギルドで依頼の薬草と、モヒカンのモヒカンの報酬を受け取った俺たちは、あの体に明らかに悪そうな《ンバ茸》を調教師がいるという場所に届ける為に、ポチさんのメモに書かれていた場所を目指した。
遠いな!!
もう1時間は歩いてるぞ!!
この街、こんなに広かったのか…。
「あ、アルデナイデ競ンバ場が見えてきましたよ」
タマちゃんの指さした遥か彼方に、周りの建物よりも明らかに高い塀の建造物らしきものが、まるで蜃気楼のような雰囲気でかすかーに見えた。
見えたけど遠すぎる!!
「今日はレースやってないですけど、競ンバ場を見るだけでテンション上がりますね!!」
これはまだ見たって距離じゃないから。
街から遠くの山を見て、「やっほー」って叫んでるくらいおかしな距離だから。
そして、更に歩くこと1時間。
近づくにつれ、どんどんとテンションの上がり続けるタマちゃんをなだめながらの道のりはようやく終わりを告げたのだったぁ……依頼より疲れた。
競ンバ場に隣接しているトレセンと呼ばれている、ンバを調教するトレーニングセンター。
その中に、ンバ達を預かっている
トレセンの入り口で来訪の目的を警備の人に告げると、意外なほどすんなりと中に通してくれた。
セキュリティ緩すぎない?
施設の中は、異常に高い木造の建物が立ち並んでいて、作業着のような姿の人たちが歩いていた。
「こんにちはー!!」
扉に向かってタマちゃんが元気よく声をかける。
表札は出てないが、入り口で聞いた場所が間違っていなければ、ここがポチさんのンバを預けている調教師と呼ばれる人がいるところのはずだ。
「はいはーい。どちら様―?」
中から女性の声が返ってきた。
ん?調教師って女の人なの?
「はい、何の御用かしら?」
扉を開けて出てきたのは、やはり女の人だった。
ド派手なピンクの髪色をした、長い長いうさ耳の若い女性……。
「あの、私たちはポチさんの依頼を受けて《ンバ茸》を届けに来たんですけど」
タマちゃんが普通に接しているということは、これもこの世界では普通の事なのか?
ピンクだよ?ピンク。
この世界に来て初めてこんな鮮やかな色見たよ。
「ポチさん?ああ、ポルチーノさんのことね」
「あ、すいません!そうです!ポルチーノさんです!」
慌てて言い直したタマちゃんを見て、うさ耳の女性がケラケラと笑った。
「ケラケラケラ!そう、ポチさんね!あの人、そんな可愛らしい名前で呼ばれてるんだ!」
実際に聞くと気味悪いな。
「私はここで調教師をしている、ラビット・イトウよ」
伊藤さん?日本人ぽい名前だな。
それに――ピンクの髪に、長い長いうさぎの耳。
この人もウサギ族とかのハーフなんだろうな。
「ラビットさんは――ポルチーノさんと仲が良いんですか?」
あ、イトウが名前か。
「まあ、あの人とは昔からの知り合いだからねぇ。今は彼のンバを預かってるってのもあるし」
「そうなんですね――」
タマちゃん、そんな何かを勘ぐるような視線は失礼ですよ。
「あ、すいません!私はタマキっていいます!こっちがタイセイさんです!一緒にパーティーを組んでます!」
タマちゃんに紹介されて、俺も「はじめまして」と簡単に挨拶をする。
「パーティー仲間なのね――」
あ、ラビットさんもそういう話好きなんですね。
「あ、それで、これが頼まれてた《ンバ茸》です!1つしかないですけど、新鮮なうちにと思って持ってきました!」
「ありがとう。これ1つあれば、三日は持つから助かるわ」
そう言って《ンバ茸》を受け取るラビットさんの耳がパタパタ動いていて可愛らしい。
「ん?この耳が珍しいのかしら?」
俺の視線に気づいたラビットさんがそう言ってきた。
はい、そりゃ珍しいし可愛らしいです。
「ラビットさんの耳って長いし綺麗ですよねぇ。私、オオミミトビネズミ族の方でそんなに綺麗な耳の人は初めて見ました!!」
なんて?
「そうね、私もオオミミトビネズミ族の仲間はたくさん見てきたけど、綺麗かどうかは置いておいて、長さでは私より長い人は見た事ないわね」
おおみみとびねずみって何だ?
『【オオミミトビネズミ】
体長は7~9センチほどの
モンゴルや中国北西部の砂漠などに生息している。
耳の長さは体長の3分の2ほどの長さで、体長比では世界最大の耳をもつ』
説明されても知らんがな!!
「おおみみとびゅねじゅ……」
言いづらい!!
ウサギ族で手を打ってくれ!!
「二人ともよろしくね」
俺たちはラビットさんの差し出してきた両耳をそれぞれ掴んだ。
あ――それ、そう使うんだ……。