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第25話 栄光の大舞台へ

『【称号】「ダービージョッキー」を獲得しました』


 表彰式に向かう途中、そんなナビの声が聞こえた。


 これって、ファンタジーの世界に関係あるの?


「それでは、アルデナイデ国王であらせられる、カザリーノ三十四世国王陛下より、勝利騎手に優勝カップが手渡されます」


 称号っていうくらいだから、何らかの効果があるんだと思うけど。


 とりあえず確認してみるか。


「ステータスオープン」


 そうして開かれたステータスボードの称号欄を見る。


 そこには、「マルマールの使徒」の下に、「ダービージョッキー」と表記されていた。


「おお、お主は、園田殿ではないか!?」


 効果は――「大舞台で全ての能力値を100%上昇する」と書いてある。


「ところで……ワシのへそくりの事なんじゃが……」


 これはどう捉えるか…100%上昇といういうのは、単純に倍の強さになるというチートなんだけど、ここでいう大舞台っていうのが、どんな状況を差すのか分からない。


 たった今、大舞台と言えなくもないダービーは終わっちゃったし。


 もし、俺が勇者で、魔王と戦うとかだったら分かりやすいクライマックスとかあるんだけど。


「よかったら、ほんのすこーしで良いんじゃが……返してはくれないだろうか?」


 一介の冒険者にすぎない今の俺では、そうそう大舞台などというシチュエーションは巡ってこないだろう。


 来ないよね?


「恥ずかしい話なんじゃが、馴染みの飲み屋のエリナちゃんがバッグが欲しいと言ってなあ…」


 まあ、もしもの保険くらいに考えておいた方が良いだろう。


「――タイセイくん、タイセイくん」


「え?あ、はい。どうしましたラビットさん」


「ほらっ、早くカップを受け取って」


 そこでステータスボードの向こうを見ると、カップを持っている王様の姿があった。


「あ、どうもありがとうございます」


 何か言いたそうな顔の王様から、巨大な黄金のカップを受け取った。


「園田殿、見事な騎乗でした。まさか、こんなところで活躍なさっているとは思いもよりませんでしたよ」


 そう言って握手を求めてきたのは、宰相のカブンニ・エラソーナさん。


「あ、どうも、ご無沙汰してます。今日は王様の付き添いですか?」


 もしくは操縦。


「ええ、競ンバの大きなレースは全て王様が直々に表彰を行うしきたりですので、私は王様の介助、いえ、補佐に参ったのです」


「宰相さんの仕事って大変なんですね……」


「まあ、うちは代々宰相の家系なので、それほどでもありませんよ」


 多分、あなたのご先祖様のせいで、王族がそんなのになってるんだよ?


「ねえ……タイセイくんて、宰相様と知り合いなの?」


 ラビットさんが顔を寄せてきて、俺の耳元にひそひそっと話しかけてくる。


「ええ……ちょっと訳がありまして、お知り合いなんですよ」


 同じように耳元で囁いてやろうと思ったが、ラビットさんの両耳は遥か頭上高く伸びていた。


 自分だけずるくない?


「あ、宰相さん」


「何ですかな?」


「王妃様に、王様が浮気してますよって伝えておいてください」


「え……」


「かしこまりました。必ずお伝えいたします」


「……え?……園田殿?宰相?」


 ステータスボードに集中していたから、その向こうの王様の姿は認識していなかったけど、その声が聞こえてないとは言ってないからね。



「では、これにて表彰式を終わります。皆さま、どうか若きダービージョッキーと、新進気鋭の若手調教師に、今一度大きな拍手をお送りください!!」


 司会の人がそう言うと、表彰式を見ていた多くの人たちから、割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こった。


 俺は改めて、逃げ出したいほどの恥ずかしさに襲われると同時に、どこか誇らしい気持ちになって、観衆に向かって大きく手を振った。


 この世界に来て、少しは成長したのかもしれない。

 前の俺だったら、こんな歓声を受けて、とてもじゃないが手を振り返すなんて真似は出来なかっただろう。

 魔物と戦ったりしたことで、自分に自信を持てるようになったのかもしれない。

 特に何も自慢できるようなものがなかった俺が。

 そんな自分の成長を感じながら、その場を退場していった。


『【称号】ダービージョッキーの効果で全てのステータスが100%アップします』


 いや、確かに大舞台だけどさ!!




「いやあ、すまなかった!!そして、ありがとうな!!」


 ダービー翌朝、ぐっすりと寝ているところをポチさんにたたき起こされた。


 謝罪と感謝はこちらが自主的に起きてる時にしていただきたいものだ。


「元々ダービーまでにはどうしても戻れない用事だったんだが、まさかロレックスの野郎が連絡付かないまま、他のンバに乗ってやがるとは思ってもみなかったぜ!」


「ええ、ロレックスさんの乗ってたンバ、騎手が違ったらしくて失格になったみたいですね」


「ああ、どうやら寝ぼけて競ンバ場に来たらしく、あれがチープだと思って乗ってたらしいぜ」


 そんなことあるんかな?まあ、ロレックスだしな。


「元々の騎手はどうしてたんですかね?」


 自分の乗るンバに他の人が乗ってたら気付くだろ?


「元の騎手のオメガは完全に寝坊してたそうだ」


 オメガだったんかい!!


 いや、会ったことはないけどさ。

 でも、タマちゃんとの約束の時に、ロレックスと一緒に寝過ごした奴でしょ?

 あの二人どんだけ寝るんだ。


「しかも、あいつら双子だから、調教師もロレックスに気付かなかったらしい。


 双子かい!!


 寝坊するのは遺伝かな?


「まあ、何にしても助かった!!これは今回の賞金の分け前だ!!多少色を付けておいたから受け取ってくれ!!」


 そう言って、ポチさんは革袋を机の上に置いた。


 ガチャン!!


 ん?今、めっちゃ重い音しなかった?


 俺は恐る恐る革袋を開けて、その中を覗いた


「……ポチさん、これは?」


「ああ、優勝賞金の5%が騎手の取り分になるんだが、今回は10%入れてある。足りないか?」


 俺の目に映るそれは、王様のへそくりを遥かに上回る数の金貨だった。


「いやいや!!こんな大金受け取れませんよ!!って、これで10%!?……じゃあ、ポチさんの懐に入ってくるのは――」


 俺の顔を見て、ニヤリとするポチさん。


「あと10%をラビットが取って、5%をチープを世話してくれている厩務員。で、残りは全部俺の懐に入るってわけだ」


 75%がポチさんの取り分……。

 この金貨の7.5倍……。


「ハハハッ!!だから、気にせずに受け取ってくれ!!」


「……そういうことでしたら、遠慮しないで良さそうですね」


 そして俺が金貨の詰まった革袋を手にした時、部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「タイセイさん!!起きてますか!!今、金貨の音が聞こえたんですけど!!しかも大量の金貨の音です!!タイセイさーん!!」


 うん、タマちゃんの生活が懸かってそうだし、これはありがたく受け取ろう。




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