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第26話 泥にま~みれて、生きる~

「ふふ~ん、ふふ~ん」


 タマちゃんは手に持った一枚の金貨を大事そうに見つめながら、超ごきげんで鼻歌なんて歌っている。

 ポチさんが帰ったあと、タマちゃんにもお礼だといって置いて行ったという名目で金貨を1枚渡した。

 残りの金貨はベッドの奥へ一時退避させてある。


「タマちゃん、朝からご機嫌だね」


「そりゃそうですよ!金貨ですよ!昨日負けた分が何倍にもなって返ってきたんですから、ご機嫌にもなりますよ!」


 ご機嫌すぎて、俺に賭けていなかった事を微塵も隠す気がないな。


「そうだ!これで新しい武器を買いに行きましょうよ!」


「え?こないだ変えたばかりじゃない?」


「あの時はお金が無くて、あれで我慢したんですけど、これがあれば好きなのが買えます!!」


 確かに、今のタマちゃんのレベルだと、もう少し良い弓矢でも装備出来るはずだ。


「じゃあ、ギルドに行く前に、武器屋に寄ってみようか」


「はい!じゃあ、私は急いで準備してきますね!!」


 そう言うと、タマちゃんは猫の様に素早い動きで部屋を出ていった。


 猫成分は1%だけど。



「タイセイさん、相談があるんですけど…」


 武器屋でタマちゃんの武器を新調した俺たちは、朝の込み合っているギルドに到着した。

 相変わらず、依頼の張ってある掲示板前は、多くの冒険者たちで混雑している。


「ん?何?」


 依頼が見えないから肩車して欲しいとかかな?


 よし、任せろ!!さあ、太ももかもーん!!


「……急にしゃがみこんでどうしたんですか?」


 違ったようだ。


「薬草採集で森に行って、魔物を捜すのも良いんですけど、これ以上新しい魔物を見つけようとするなら、今よりもずっと奥に行かなきゃならないと思うんですよ。それだったら、最初から魔物討伐の依頼を受けた方が良いんじゃないかな?って思うんです。それなら、初めての魔物もこちらで選べますし」


 ……確かに。


 出会うかどうか分からない魔物を捜して森を彷徨うよりも、何々って魔物を倒してくださいって依頼を受けた方が全然効率が良い。


 それに、俺たちの今の力で倒せそうな魔物を選べるのも大きな利点だ。


 俺はタマちゃんの提案を受け入れて、改めて依頼を吟味することにした。



「タイセイさん、このコボルト退治ってのはどうでしょう?」


「コボルト?あの狼男みたいなやつ?」


 2足歩行の犬が頭に浮かんだ。


「狼男って何ですか?」


「あ、狼男っていうのは、狼みたいな姿をした人間――」


「狼って何ですか?」


「狼は、こっちでいうウルフで、それが人間みたいに立って――」


「ウルフが芸を仕込まれていると?」


 泥田坊やろくろ首がいる世界で、どうして狼男が通じないのか!!


「いや、芸とかじゃなくて、そういう生き物というか魔物というか……」


「まあ、そんな感じなのがコボルトですね」


 あれ?いつの間にか通じてる?


 からかわれてたのかな?


「ウラノ村の畑がコボルトに荒らされているので何とかしてほしいって依頼ですね。これだったら私たちのランクでも受けられますし、コボルト相手なら私たち2人だけでも問題ないと思いますよ」


「報酬は銀貨5枚。プラス、討伐コボルト1体に対して銅貨10枚か……」


 薬草採集よりは全然報酬は良いな。


「ただ問題なのは、依頼完了までに何日かかるかなんですよねえ……」


「え?行って倒して終わりじゃないの?」


 そう思ってたんだけど。


「こういう依頼は、行ったその日に相手が出てくるとは限りませんし、1体でも逃がしちゃうと、それが戻ってくる可能性がある以上は達成と認めてくれません。依頼主が依頼完了を認めてくれた後に、隠れていたのが出てきた場合は別ですけどね」


 薬草採集が銀貨1枚。


 もし、この依頼を受けて、達成までに1週間かかったとしたら、コボルトを20体倒してようやく薬草採集1週間分と同じ報酬になるのか……うーん。


「だから、こういう種類の依頼は人気が無いんですよ。村の人は困ってるから何とかしてあげたいとは思いますけどね」


「よし!この依頼にしよう!」


「良いんですか?もしかしたら赤字になるかもしれませんよ?」


「俺はタマちゃんが大丈夫なら、この依頼を受けて、困っている人を助けてあげたい」


 お金はいっぱいあるから、赤字とかは気にならないし。


「私も武器を買った残りに余裕があるんで大丈夫です」


 そうして、俺たちのウラノ村コボルト退治の旅が始まった。


 受付のポンコツは今日も姿が見えなかった。




 旅終了のお知らせ。


 目的のウラノ村は、森へ行くよりも全然近いところにあった。


 アルデナイデの城下を出て2時間ほど歩いたところにある小さな農村。


 タマちゃんが言うには――地方都市以外は、ほとんどがこういう小さな村に分かれて住んでいる人が多いらしい。


 まあ、目的地が近いに越したことはないけどね。


 木でゲートのような作りになっている入り口から村の中へ入っていく。


 依頼主は、この村の村長なので、まずはその村長にあって説明を聞かなければならなかった。


「村長さんの家はどこかな?誰か村の人に聞く?」


「そう…ですねえ……」


 タマちゃんはそんな生返事をしながら、田んぼの方をきょろきょろと見ている。


 そう、この世界には米がある。


 当然、パンもあるが、米も多くの人の主食として流通していた。


 内陸の国なので魚が無いのは残念だったけど、日本人の俺には、米が食えるという事は非常に大きな事だった。


「あ、いたいた。すいませーん!!」


 農作業をしていた人でも見つけたのか、タマちゃんが田んぼに向かって声をかけ……ん?誰もいなくない?


――ズゾゾゾゾゾゾー!!


 突然、水の張られた田んぼの土が盛り上がり、そこから全身を泥まみれにしたゴーレムのようなものが現れた。


「え?田んぼの中から魔物!?」


「すいません。村長さんの家はどこでしょうか?」


 タマちゃんは武器を構えることもなく、その泥人形に話しかけている。


 いや、危ないって!!


 俺は慌ててナイフを抜いて構えた。


「ああ、村長さんの家なら、この道を真っすぐ行って、2つ目の角を左に曲がった先にあるよ」


 流暢りゅうちょうに答える泥人形。


 え?話が出来るの?


「ありがとうございます。――タイセイさん、何でナイフ構えてるんですか?」


「え?いや、ええ?――あれえ?」


『【泥田坊】

泥田坊は顔が片目のみで手の指が3本しかなく、泥田から上半身のみの姿で夜な夜な田に現れては――』



 こいつかい!!




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