「そうか、お前も回復薬を持っていたんだな」
「ええ、すぐにロエベさんに使っていれば良かったんですけど、キマイラのせいで気が動転して忘れていました。すいません」
「いや、お前が謝ることじゃない。むしろ俺が礼を言わないといけないんだからな。お前はあんな状態になっていても俺を助けようとしてくれてたんだから。ありがとう。おかげで命拾いした」
ロエベはそういって頭を下げてくれたんだけど――
「いやいや、お礼を言わないといけないのは俺たちの方ですよ!ロエベさんとラバンダは俺……あ」
「そうだ!ラバンダの事を忘れていた!」
すっかりすっきり綺麗さっぱり忘れてたわ。
あいつ死んでないよな?
タマちゃんが見つけた時は、まだ息はあったって言ってたけど……。
俺はそおっとタマちゃんの方を振り向くと――
ぶんぶんぶん!!
凄い勢いで首を横に振っていた。
その後の事は知りませんよってな感じですね。
「結構時間経ってますけど……生きてますかね?」
一応、ロエベに聞いてみる。
「……まあ、あれは簡単には死なんだろうから」
タマちゃんの案内でラバンダを見つけた場所まで移動する。
ラバンダはキマイラが最初に魔法を撃った場所から10メートル程離れた木の上の枝に、まるで漫画の様に引っかかって気絶していた。
「ライラさん……それだけは……う、ううん……」
気絶……してるんだよな?
タマちゃんが身軽さを活かして木に登り、下にいたロエベさん目掛けてラバンダを投げ落とす。
ナイスキャッチされた姿を見てみると、確かに防具はあちこちに焦げた跡が残っていたが、その身体にはほとんど火傷したような形跡は見当たらない。
どうやら吹き飛ばされた衝撃で気を失っていただけのようだ。
俺は全身火傷、ロエベも歩けないほどのダメージを受けていたにも関わらず、ラバンダだけはほぼ無傷だったのは納得がいかないぞ。
「はあ!?お前がBランクだと!?」
「お前って言うなし!!純情可憐な救世主ラバンダ様とお呼びになりやがれです!!」
お前呼びされて憤慨している目の前のチンチクリンのポンコツ受付嬢がBランク冒険者……。
「あなたたちみたいな無謀で愚かな低級冒険者が危険な目に遭わないように、私たちのような勇敢で賢い上級冒険者様が見張っておりやんしたでありんすえ!!」
「賢い上級冒険者の純情可憐な救世主ラバンダ様が木の上で優雅にお休みになられている間に、Bランク上位のキマイラを倒したのはその愚かな低級冒険者だったけどな」
「ぐぅ……」
ぐぅの音が出た。
ホントに出るんだぐぅの音。
いや、こういう時は出さないもんだぞ?
「まぁ、そう虐めてやるなよ。そいつなりにみんなの安全を考えてくれていたんだからな」
ロエベがそう言いながらラバンダを庇おうとしているが、その厳つい顔はにやにやしていた。
「今回の収穫祭で上級冒険者の参加を禁止して、その代わりに見張りという役割にしようと提案したのはラバンダなんだ」
「「え?ラバンダ(さん)が!?」」
俺とタマちゃんは予想もしていなかった言葉に驚きの声を合わせる。
「ああ、こいつはこう見えて……どう見える?」
「ポンコツ受付嬢ですね」
俺は即答した。
「……だろうな。でも、ギルドの受付嬢をやりながら危険な依頼をこなしている優秀な冒険者なんだ。冒険者がどれだけ危険な職業なのかっていうことを身をもって知っている。だからこそ、毎年大怪我をして冒険者を辞めざるをえない者や、命を落としてしまう者が出てしまう狩猟祭を変えようとしたんだ」
「……冒険者になった以上、自分の命の責任は自分で負うというのは当たり前の事でございます。でも私は――みんなが楽しむお祭りで、そういった事が毎年起こっているのが悲しかったです」
ん?ラバンダ?
「ですので、私は今年の収穫祭がみんな無事で終わることが出来るようにと思い、ギルドの上層部や狩猟祭開催本部に直接掛け合って今回の提案をいたしました。ライラ様にも多くの助力をいただきまして、何とか実現したのでございます」
「俺たち上級冒険者を説得して回ったのもラバンダだ。収穫祭に参加する気でいた奴らを説得するのは並大抵の苦労じゃなかったはずだ」
「そうですね……。中には暴力で訴えようとしてくる方もいらっしゃいました。それでも誠心誠意お願いをいたしまして、何とかご納得いただけた次第でございます」
そうか……ラバンダもいろいろと考えてくれていたんだな……。
だがしかし!!
「まあ、そういう事情だから、あんまりこいつを――ん?どうした?鳩が爆裂魔法くらったような顔して?」
鳩強えな!!爆裂魔法に耐えるんかよ!!
「いえ、あの……ラバンダの口調が気になって……」
「ラバンダさんどうしたんですか?どこか頭でも打ちました?」
どこかで頭は確定事項なんよ。
「ああ、こいつは貴族のお嬢様だからな。冒険者として舐められないように無理して荒っぽい話し方をしようとしてるから、普段の言葉遣いがおかしくなってんだよ」
「ロエベさん!!それは秘密って!!」
Bランク冒険者で貴族のお嬢様でギルドの受付嬢?
トリュフさんの上位互換じゃね?
……キマイラの事がどうでも良いくらいの驚きだわ。
「今年の王国狩猟祭優勝者をこれより発表いたします」
王国狩猟祭の全日程が終了し、暗闇の中で松明の灯りに照らされたステージ上に立つライラさん。
これから狩猟祭の優勝者が発表される。
今回の狩猟祭に参加した多くの参加者が勢ぞろい……盗られた馬を探しに行っている者を除くが、残った全員が発表の時を待っていた。
そんな俺たちを囲むように大勢の観衆。
彼らも祭りのグランドフィナーレとも言えるこの瞬間を見逃すまいと集まっている。
「タイセイさん、ドキドキしますね!」
「そうだね。誰が優勝かな?」
そうタマちゃんに返した俺だったが、実のところはそこまでドキドキしているということはなかった。
というのも――
「まあ仕方ないですね」
「えぇぇ!!あんなに危ない目にあったのにー!!」
俺が納得する反面、タマちゃんは抗議の声を上げた。
「タマちゃん今回は諦めよう。キマイラは俺たちだけで倒したわけじゃないんだから」
そう、実際にタマちゃんの矢がキマイラの動きを制限させたのは確かだし、最後に止めを刺したのも俺だ。
でも、ラバンダお嬢様とロエベが助けに来てくれていなかったら、最初の時点で命を落としていたかもしれない。
だからこれは仕方のない事。
「理解してくれて助かる。本当なら俺たちだってお前たちの手柄だと言って回りたいくらいの快挙なんだからな」
「そうですね。タイセイ様とタマキ様のお二人の強さは、私の想像を遥かに超えるものでした。私といたしましても、ロエベさんと同じ気持ちなのでございますが……」
「ルールを決めたお前がそれを破るような真似は出来ねえだろう?タイセイ!タマキ!すまねえ!この借りはどこかで必ず返すからよ!!」
「キマイラを売却したお金は全ていただけるということですから、俺はそれで構いませんよ。タマちゃんも優勝は諦めよう?」
「うぅ……優勝賞金……」
「キマイラの取り分は4:6で良いよ」
「ラバンダさん!ロエベさん!助けてくれてありがとうございました!!優勝よりもそのお気持ちが嬉しいです!!」
まぁ、そんなことがあったので、今更俺は誰が優勝しようと関係ないと思っていた。
「では、優勝者の発表です」
ライラさんにその場の全員の目が集中する。
「優勝は、Cランク2等相当のレッドボアの変異種を討伐した――」
俺たちが倒したゾウアザラシはCランク4等らしい。
この時点で俺たちの優勝の目は消えた。
「チーム――「トリュフお嬢様と愉快な使用人たち」です!!」
キャビアとフォアグラの立場は!!
俺たちの順位は3位。
ランクを考えれば大健闘だと、壇上に上がった俺とタマちゃんに多くの歓声が上がった。
今回の功績によって俺たちの冒険者ランクが一気にCに上がる可能性があると、ライラさんはこっそりと耳打ちしてくれた。
実力的にも足りるだろうし、何よりBランク冒険者だった2人を助けた功績が大きく評価されるだろうとのこと。
もしそうなるなら、それが俺にとって一番のご褒美になる。
優勝は出来なかったけども、多くの実りがあった狩猟祭になった。
「タイセイさん!!みんなが私たちに歓声を送ってくれてますよ!!夢みたい!!」
タマちゃんは今までで1番嬉しそうな声を上げてはしゃいでいる。
まあ、この顔を見れたのもご褒美かな?
「タイセイさん!!これからも一緒に頑張りましょうね!!」
そう言って俺に抱き着いてきたタマちゃん。
最後の最後に、本当の一番のご褒美を貰うことが出来て良かったです。
第3章 はりきって狩猟祭 ―完―
『冒険を続けますか? YES/NO』