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第57話 越後屋、お主も悪よのう

「それで、俺たちに何の御用があるんでしょう?」


 タマちゃんが攫われたからくりは解決したけど、その目的はまだ分からない。

 悪意は無いと判断して乗り込んできてるけど、それだって俺がそう感じているだけで、サカナウールさんが悪人じゃないと確定してるわけでもない。

 転移出来るなんて貴重な魔道具を持っているような相手。ここで豹変して襲ってくる可能性が無いとは言い切れないんだ。


「え?これって、タイセイさんへのドッキリですよ?さっきそう説明してもらいました!」


 んなわけない。

 それはタマちゃんに大人しく待っていてもらうための方便でしょ?


「タマちゃん。サカナウールさんはさっき言ってたでしょ?最初から俺たちにこの依頼を受けさせるつもりだったって」


「それはタイセイさんを驚かす為じゃないんですか?」


 おいぃぃぃぃ!!

 それじゃあサカナウールさんはドッキリに人生を捧げてる人になるじゃん!

 いや、そんな人が絶対にいないとは言わないよ?この世界だったらいてもおかしくないからね。

 職業【ドッキリマン】とかいるかもしれないからさ。


『います』


 いるんだー!!


「タマキさん。すいません、それはあなたに大人しくしておいてもらう為の嘘です」


「ええぇぇぇ!!嘘だったんですかー!!」


「さすがに俺にドッキリを仕掛ける為だけにこんなことはしないって」


「うぅぅ……嘘つかれたショックで尻尾が抜けそうですよ……」


「抜けるもんなら是非抜いてもらおうじゃないか」


 そしたら尻尾が生え変わるかどうか観察日記つけてあげるよ。



「タブンナでも有数の冒険者であるお二人が実際に噂通りであるかどうかを調べさせてもらう為にこのようなことを画策した次第でございます。気分を害すような事をした償いは後ほど如何ようにもさせていただきますので、まずは私の話を聞いていただけますでしょうか?」


「もちろん話を聞くためにこうして来たわけですからね。でも、俺たちが有数の冒険者――というのは買い被りじゃないですか?」


 少し前に狩猟祭の飛び級でÇランクに上がった俺たちが、これまでに国外に名を馳せるような活躍をしていたとは思えない。

 最近こなした依頼にしても他の冒険者と変わり映えの無いものばかりだし。


「狩猟祭で3位になったことでございますよ」


 ああ、確かに3位にはなったけど、あれってそんなに凄い事なのか?

 優勝したトリュフさんの方が有名になるんじゃね?


「お二人は3位ということでしたが、私たちの調べたところによれば、本来なら優勝していただろうという大物を狩られた――違いますか?」


 背筋にぞわっとしたものが走った。

 俺たちがキマイラを倒した事は、ラバンダとロエベさん。後はライラさんくらいしか知らない極秘事項のはず。それを調べた?……私「たち」?

 大物とは言っているが、おそらくはキマイラの事だというのも調べがついているんだろう。


「そんなに警戒しないでください。私たちは商人独自の情報網を持っているというだけのことです」


 そんな言葉を鵜呑みに出来るほど楽天家じゃないぞ。

 貴重な魔道具といい、今の話といい、ちょっと迂闊に近づきすぎたか?


「それに、その反応で情報が間違っていなかったことも証明されましたしね」


 あ――。

 くそっ!こういう駆け引きはどうやっても高校生の俺じゃ勝てない。


「今回、私たちはある依頼をお願いできる冒険者を探しておりました。私たちが探していたのはランクとはそぐわない実力の冒険者。つまり、成長力が高すぎることで実力相当のランクに昇級する実績が足りてなく、そんな理由でランクの上がっていない者。そしてあなたがたの噂を聞きつけて、勝手ながら審査をさせていただいたのです」


 同じランクで実績をコツコツ積んで昇級している者ではなくて、最終的には上級冒険者になるだろう才能のある者を探していたということか?

 いや、俺たちの強さは才能じゃなくて、ただの召喚者チートだから。


「勝手に審査ですか?受かったからといって引き受けるとは限らないですよ?」


「もちろんです。もし断られたとしても、お詫びを兼ねた迷惑料は支払わせていただきます」


「おいくらですか!?」


「タマちゃん落ち着いて。それで――依頼というのは?一応聞くだけは聞きます」


「この話は依頼を引き受けるかどうか関係なく他言無用でお願いします」


 そう真剣な顔で言うと、服の内ポケットから折りたたんでいた地図を取り出して机の上に広げた。


「これはコノツギ王国とその周辺の地図です。ここが今いる王都コレカラ。この東側一体に広がっているのが、『この世の森』です」


「この世の森?」


 サカナウールさんが指さしているのは、世界の半分を覆うと言われている森。


「ええ、タブンナでは特に名前をつけて呼ばれておりませんが、コノツギでは『この世の森』と呼んでおります」


 へー。

 そういや、普通は名前つけるよねー。

 でも、あの王様の治める国だから仕方ないか―。


「実は半年ほど前になりますが、この森の奥にて古代のものと思われる地下迷宮への入り口が発見されました」


「――ダンジョン!?」


 え?何!?この世界にもダンジョンあるの!?

 マジかー!!

 ヤベー!!

 スゲー!! 

 興奮しすぎて語彙力の喪失がハンパねー!!


「だんじょん?この地下迷宮のことですか?」


 おっと、ダンジョンという単語はこの世界では通じないらしい。


「わ、私の生まれた国では、そういうのをダンジョンと呼んでたんですよ」


「そうなのですか?なるほど、ダンジョン――ですか。では、これからはそう呼ばせていただきます。このダンジョンと同様の地下迷宮はこれまでに3つほど発見されております。ハテシナ王国、ソノウチ王国、ソレカラ王国の3カ所です。ちなみに、タマキさんを転移させた魔道具はソノウチ王国の迷宮奥地にて発見されたものらしいです」


 ハテシナ王国まで辿り着くことは出来るのだろうか?

 名前的に……。


「そして今回このコノツギ王国の近くで発見されました。つまり――」


「その探索が依頼ということですね?」


「――その通りでございます」


「あ、あのう……」


 タマちゃんがおずおずと口を開く。

 耳を怯えたようにぺたんと伏せている姿も可愛い。


「そういうのって、国の騎士さんとか兵士さんが探索するんじゃないんですか?国にとっての大事でしょう?」


 意外とまともなことをほんのたまーに言う。

 確かに、こんなことをしてまで他国の冒険者に頼むような話じゃない。


「その……申し上げにくいのですが……。このダンジョンの事は、国にはまだ報告がされておりません……」


「はあ!?」


 そんなことある?

 これ、聞いちゃいけなかったんじゃない?


 そう思ってサカナウールさんの顔を見ると――


 全く申し訳なさそうな顔なんてしてなくて――「聞いちゃいましたね?」ってな悪代官が悪だくみしている時のような表情をしていた。



 やっぱり駆け引きは敵わないって……。




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