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第58話 魚が好きな人に悪人はいません!!

「国に報告していないって事は……サカナウールさん、あなたがダンジョンを発見したということですか?」


 もしくはこの人が所属している何らかの組織。


「いえ、私ではありません。発見されたのは私の雇い主の方です」


「雇い主ですか……」


 なるほど。そっちの方ね。

 サカナウールさんは誰かに雇われて、わざわざ隣国まで俺たちを連れに来たということか。

 ダンジョンを発見して、貴重な魔道具を大量に所持していて、国に黙ってダンジョンの中を調べようとしている人物。

 そんな奴、絶対にヤバいやつじゃん!!


「はい。私はその方の指示でタイセイさんとタマキさんを連れてくる為の計画を実行したのです」


 今後の展開は分からないけど、とりあえず今のところは俺たちに敵意は無い様子。

 これだけ大掛かりな計画を立ててまで俺たちの事を試していたんだから、合格した以上は安易に敵意を向けてくることは無さそうだ。


「じゃあ、さっきの若い男の人も?」


「ええ、彼のその方の仕えている者です。今回は私の手伝いとして遣わされております。裏でいろいろと準備を手伝ってもらいました」


「裏で――ですか」


 陰気な雰囲気があったから裏でいろいろ動いていたと言われると怖いな。

 転移に使った箱の準備以外にもヤバい事やってそうで。


「その方には、お二人が依頼を受けると言った場合のみお会いしていただくことになっております。お察しの通り、結構危ない橋を渡ることになりますので、こういう条件はお二人には失礼かとは思いますが、こちらの都合もございますのでどうかご容赦いただければと」


 やっぱり危ないのね。

 素直にそれを伝えておいて俺たちが依頼を受けると思っているのか?


「一応申し上げておきますと、ダンジョンを発見したからといって国に報告する義務は無いのです。そもそもダンジョン自体の数が少ないのと、この国では今まで発見されていないこともあり、現在までそのような法は作られてはいません」


 え?そうなの?

 じゃあ、報告しないで勝手に入っても良いんだ?

 ……いや、そういう問題?


「そうなんですか?そんな貴重な場所に勝手に入ったら怒られそうなもんですけど。じゃあ、危ないっていうのは?」


「タマキさんを攫った魔道具を国の宝物庫から勝手に持ち出して使ったことですね」


「そっちかい!!」


 国の宝物庫!?そっちに入ることの方がが大問題じゃね!?

 その雇い主って頭イカレてんのか!?

 それとも大怪盗か何かなの!?


「……その人、結構ヤバくないですか?」


「雇われている私が言うのもおかしな話ですが、まあ、少々変わった方ではございますね」


「タイセイさん。私、何だかお腹が空いてきました」


「今の話の流れでよくその発言が出来たね!?」


 緊張感て今度その手の平に書いてあげるね?


「ですので、今回の依頼を引き受けていただいたからといって、お二人が何かの罪に問われることは無いという事は断言させていただきます。それと報酬の方も満足されるだけの額をご用意できるかと」


 そうなの?どう考えても宝物庫に入った罪の片棒を担がされて連座させられる気しかしないんだけど?



「――確認させてもらいたいことがあるんですけど」


 そこまで危険を冒してまでわざわざ俺たちを選ぶ理由がイマイチはっきりしない。


「この国にだって冒険者はいるじゃないですか?それこそ俺たちより強い人だっているでしょう?なのに何故わざわざそんな手間と危険を冒してまで他国の冒険者の俺たちを選んだんでしょうか?」


 さっきサカナウールさんが言った、「成長力の高い冒険者」という理由だけでは納得しきれないものがある。そんなのは探したらこの国にだっているだろうし、そもそも現時点で強い奴なら問題ないはずだ。


「やはりさきほどの説明だけでは納得できませんか……」


「そうですね。高額の報酬を準備出来るのでしたら、最初からAランクの冒険者を雇えば良いんですから」


「――まあ、そういうところに気付くのも選ばれた理由でもあるんですけども。申し訳ありませんが、これ以上は私の口から話すことが出来ません。気になるのでしたら直接主にお聞きください」


 主ときたか。

 雇い主というよりは、もっと深い関係にありそうだな。

 ちょっと見えてきたな。


「その場合は依頼を受けなければいけないんですよね?」


「受けていただければタイセイさんの疑問は全て解決するかと思われます」


 胡散臭い依頼主に会う為には依頼を受けなきゃいけない。

 でも、ダンジョンには興味がある。とてもある。非常にある。

 ヤバい時に逃げ出せるような相手なら良いけど、もしも相手が闇社会の組織のような巨大なものだったらどうなるだろうか。

 いや、それだったら最初から拉致するくらいの荒っぽい事をしてくるかもしれない。

 ただ、それが出来るような相手なんだったら、最初からそいつがダンジョンに行けば良いわけではあるけど……。

 となると、やはり依頼主っていうのは……。


「タイセイさん……」


 タマちゃんが不安そうな顔で俺の方を見てくる。

 彼女としては断りたいのかもしれない。まあ、こんな話を聞いて乗り気になる方がおかしいんだけどね。

 どうするか……こんなキナ臭い話は断るのが正解なのは分かってるんだけど……。


「お腹が空いて死にそうです……」


 そんなことだろうと思ったよ。




「タイふぇイさん、ほぉのひふぁひうけまほうひょ」


「タマちゃん。口の中にものが入ってるときは喋らないよ」


 タマちゃんの空腹メーターがけたたましく鳴ったのを見計らったかのように、あの陰キャな彼が食事を運んできてくれた。

 どうやら最初からそのつもりで準備していたみたい。

 怪しい話の最中に出されたものを食べて大丈夫なのかって?

 二人とも「毒耐性(小)」を持っているから、多少の毒なら無効化出来る。睡眠薬の類も毒物と判断されるので問題ない。

 それを理解していたのかどうかは知らないけども、食事が出されると同時に貪るように食べ始めたタマちゃん。よっぽどお腹が空いていたようだ。

 まあ、出された食事は想像以上に美味しかったのだから仕方ないかもしれない。もぐもぐもぐ。


「お返事は今すぐでなくとも構いません。お二人がこの国にいる間に決めていただければ――」


「受けます」


 俺はサカナウールさんの言葉が終わるのを待たずにそう言った。


「タマちゃんも良いよね?」


「はい。私は最初からそのつもりでいましたから」


「え?そうなん?警戒心とか無かったの?」


「だって、サカナウールさんからは悪い人の匂いがしなかったですから。美味しそうな匂いしかしません」


 君にそんな能力は無かったと思うけど?

 あ、魚の匂いのする人はみんな善人とかって基準なのか?

 生臭い=善人?


「まあ……そういうことなので……」


「はははっ!そうですか!やはりあなたたちは面白い!そうですかそうですか!」


 何が面白いのか分からないけども、サカナウールさんは愉快そうに笑った。

 面白いのはタマちゃんだけで、「たち」ではないぞ。


「では食事が終わったら主のところへ案内いたします。ああ、ゆっくりと食べてください」


 ニコニコとした表情で食べている俺たちを眺めているサカナウールさん。

 そんなに見られると食べにくいんですけど。



「ごちそうさまでした!!」


 皿まで舐めたように綺麗に食べ尽くしたタマちゃんが満足そうにそう言った。

 実際に舐めてはいたけど。


「サカナウールさん。では依頼主のところへ――」


「あ、そうそう。言い忘れておりましたね。私の本当の名はサカナウールではございません」


 立ち上がろうとした俺たちに元サカナウールさんは突然そんなことを言った。


 まあ、そんなことだろうとは思ってたよ。

 どうせ魚屋さんてのも嘘なんだろうしね。



 この時点で連れていかれる先もおおよその見当がついてたからね。





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