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第63話 地下の迷宮に壁が出来たってねえ。塀。

――どどどどどどどー。


 気の抜けた足音を鳴り響かせながら向かってくるジャンガリアンたち。

 可愛いからといってこのまま放っておくとみんな潰されてしまう。

 でも、あれにいきなり攻撃するのは気が引けるんだけど……


――きゅきゅきゅきゅきゅー!!


 いかん。声も可愛い。

 攻撃したくない。


「ストーンウォール!!」


 最近新しく使えるようになった土魔法。

 ここには土の地面が無いけど、石を操るのなら使えるんじゃないだろうか?

 ダンジョンの地面とかが操作できるのだとしたら、だけども。


 しかしその不安は杞憂に終わった。

 迫ってくるジャンガリアンの目の前の床から大理石模様の壁がせり上がり、その進行を食い止めることに成功した。

 よし!これでいなくなってくれたら助かる。


「石の壁……え?タイセイさん。いつの間にそんなこと出来るようになったんですか?」


 あれ?タマちゃんにも言ってなかったっけ?

 そうだっけ?あれ?


「ほら、少し前に土魔法のスキルが中になったでしょ?あの時に使えるようになってたんだよ」


 そう言えば詳しくは話してなかった気がするな。

 ホウレンソウ大事。


「タイセイ様……今、土魔法のスキルと聞こえたんですが……」


「え?そう言いましたけど、何か?」


「あの……タイセイ様は元から魔法が使えたのですよね?それが魔法スキルということなのでしょうか?しかし十六夜様からは何のスキルも持っていないと……」


 あ……やらかした……。


「もしくは、タイセイ様は無職などではなく、実は魔法職に就いておられたということでしょうか?」


「あ、えっと……それはですね……その、あの、えっと……」


 そうだよ……魔法スキルのことは内緒にしてたんじゃんね。

 何を簡単にバラシちゃってんの……。

 この世界じゃ魔法は魔法職の固有スキルとして付いてくるもので、そうじゃない俺がスキルを持っているはずがない。だからそれを誤魔化す為に苦しい理由を押し通したんじゃん……。

 さて、どうやって言い訳しようか……。


――ガゴオォォォン!!


 その時、ジャンガリアンの突進の圧に耐えきれなくなった大理石の壁が破壊された。

 飛び散る石礫の向こうから再びジャンガリアンの大進撃が始まる。


――きゅきゅきゅきゅきゅー!!


「うるさい!!ストーンウォール!!」


 今どうやって言い訳しようか考えてるんだから邪魔すんな!!

 再び大理石の壁でジャンガリアンの動きを止める。


「ロリ様、さっきにはちょっとした言い間違いでして、これも元々使えてた魔法なんですよ」


「でも、さっき確かに土魔法のスキルと……」


「土魔法が好き!って言ったんです!」


「え?あれ?そうなんですか?」


「そうなんですよ!」


「タイセイ殿……それはさすがに……」


「タイセイさん……もう諦めましょう……」


 バックスさんとタマちゃんの悲し気な声が聞こえる。

 うん。俺もそろそろ罪悪感で苦しくなってきた。

 ロリ様は別にして、バックスさんをこれ以上誤魔化すのは無理だろうからね。




「職業が【その他】ですか?え?ちょっと何言ってるのか分からないです」


 でしょうね。

 俺もこの説明するの嫌いなんです。


「俺にもよく分かってないんですけど、ステータスの職業欄に【その他】って書かれてるんですよ」


「はあ……そうなんですね。それでその【その他】は魔法が使える職業なのですか?というか、使えるのでしょうね。実際に使ってらっしゃるんですから」


「まあ、そうですね。魔法スキルの事も含めて、ここから先は絶対に誰にも口外しないという約束をしてくれるのならお話しますけど――」


――ガゴオォォォン!!

――きゅきゅきゅきゅきゅー!!


「ストーンウォール!!――どうしますか?」


 俺はロリ様とバックスさんを交互に見る。


「お約束いたしますわ。バックス、あなたもよろしいですわね?」


「はっ!この命を賭けてでもお約束いたします!」


 おっさんの命などいらん。


「それに――これで私たちはお互いの秘密を共有する仲ということですわね」


 楽しそうに笑うロリ様。

 なるほど、その方がここを出た後も安心かもしれないな。

 最初からそういう事にしておけば良かった。


 そうして俺は【その他】の秘密について話し出した。




「ストーンウォール!!」


 説明に結構時間がかかったんで、その間何回も壁を作り直したけど。

 おかげでジャンガリアンたちとの距離はもう目と鼻の先になってる。


「なるほど……大体理解いたしましたわ」


「ふむ、世の中にはまだまだ知られていない職業があるのですなあ」


――ガゴオォォォン!!

――きゅきゅきゅきゅきゅー!!


「ストーンウォール!!」


「私もタイセイさんとずっといますけど、まだイマイチ理解出来てないんですよ」


 いや、タマちゃんはさすがに理解しておいてくれよ。

 今までにどんだけ説明したと思ってんの?


「まあ、二人に話したことで俺も気兼ねなく戦えるようになったから良いんだけどね」


「でも、ここで魔力使い過ぎるのもどうかと思いますよ?」


 確かにタマちゃんの言う通り。

 それに、このままじゃ進めないしね。

 でも、あれに攻撃したくないんだよねえ……。


「次に壁が壊れた時に攻撃しましょう。私も手伝いますので」


 バックスさんが剣を抜いて胸を張る。

 気が進まないが、あれでも魔物なのだからやるしかないな。


――ガゴオォォォン!!

――きゅきゅきゅきゅきゅー!!


 今日何度目かの壁が破壊された。


――どどどどどどどどー。


 真っすぐにこちらに向かって走ってくるジャンガリアンハムスターたち。

 俺は覚悟を決めて剣を抜く。

 タマちゃんも弓を構える。

 先制攻撃はタマちゃん。その後に俺とバックスさんが斬りこむ作戦。

 少しでも前で迎え撃たないと、後ろにいるロリ様が危ないからね。


「行きます!!」


 タマちゃんが連続して矢を放つ。

 俺とバックスさんはそれを合図に一気に走り出す。

 先頭のジャンガリアンにタマちゃんの放った矢が刺さり転倒する。

 いやあぁぁぁ!!可哀そうー!!

 しかし他のジャンガリアンはそれに構うことなく突進してくる。

 このまま躊躇していては踏み潰されるのは確実なので、俺は心を鬼にして向かってくる可愛らしいジャンガリアンに剣を――


――ガアァァァ!!


 ジャンガリアンの口が花弁のように4つに裂けて、そこから凶悪な牙の生えた大きな口が姿を現した。


「ぎゃあぁぁぁ!!気持ち悪い―!!」


 なんでそうなった!?

 あの可愛らしいお顔はどこへいった!?


「ファイヤーボール!!ファイヤーボール!!ファイヤーボール!!ファイヤ――」


 剣で斬りかかりにいったはずの俺は、近くにバックスさんがいることも忘れて一心不乱に魔法を撃ちまくった。



――きゅうぅぅぅ……。


 全てが終わり、その場には静寂が戻った。

 目の前には焼け焦げた動かなくなったジャンガリアンもどきの山と、前髪がちりちりになったバックスさんが呆然とした表情で立ち尽くしていた。


 本当にごめんなさい。



『デビラットを倒しました。×32

 経験値300を手に入れました×32』


 横着おうちゃくすんな。


『職業【デビラット】のステータスがドロップしました。

 職業【デビラット】のステータスをステータスインベントリへ保存します』


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