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第66話 いずれ最強に至る病

「わしの名前はマルダイという。今はこの屋敷で隠居暮らしをしておるただの老いぼれじゃ」


 マルダイさんの重低音ボイスが響いてくる。

 身長が5メートルはあるだろう彼が普通にこのジャンボソファに座っている姿を見ると遠近感が狂うな。

 俺にはベッド。彼にはソファ。なんだこれ?


「ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。私はこのコノツギ王国第一王女のヒューナード・ボランド・ウルフシュレーゲルスターインハウゼンベルガードルフ・ロリエレット・フィラデルナードと申します。こちらが近衛騎士のバックス。そちらの二人が私のパーティーメンバーのタイセイ様とタマキ様です。この度は知らぬこととはいえ、マルダイ様のご自宅に無断で入りましたこと、心よりお詫び申し上げます」


「ほお、コノツギのお姫様じゃったか。これはこれは失礼いたした。それにしてもよくぞこのようなむさ苦しいところにおいでなさったもんじゃ」


 言葉遣いは若干丁寧になったように思うけど、相手が姫様と分かったからといって別段かしこまってる感じはしないな。まあこの世界の王族って、これからの王様の印象のせいでフレンドリーに接しても怒らなさそうなイメージはあるけど。

 それにしてもこの体格といい、こんなダンジョンの中に住んでいることといい、一体全体この人は何者なんだ?そもそも本当に人間なの?


「わしもかつてはコノツギ王国より禄を頂いていた身だからのお。こうやって姫様にお会いできるというのは本当に光栄なことじゃ」


 深い皺の刻まれた強面の顔が孫を見るお爺ちゃんのように優しく緩んだ。

 でも、そのサイズの笑顔はかえって怖いぞ。


「そうなのですか?かつては――ということは、今は違うのですわね?」


「ああ、仕えていたのは姫様が生まれるよりも、ずっと昔の事だからのお。今はさっきも言ったように、ここに引きこもって隠居しておるのよ」


「マルダイ殿。私からも1つよろしいでしょうか?」


 ロリ姫様の隣に座っていたバックスさんが右手を上げる。


「私が城に仕えるようになって20年ほど経ちますが、その間もマルダイ殿の話を聞いたことが無いのです。失礼ですが、あの、それほどご立派な体格の方であれば、さすがに噂くらいなら耳にしていてもおかしくないと思うのですが」


 これだけデカいのが王国にいるなら、しかも同僚にいるのなら逆に耳にしない方がおかしいわな。

 それか、隠居してから急激にデカくなったか。

 第何次成長期か知らんけど。


「バックス殿、じゃったか?まあお主が知らんのも無理もない。わしが隠居したのは今から200年ほど前じゃからのお」


「にひゃく!?」


 あ、つい声に出ちゃった。

 え?今200歳って言った!?


「はっはっはっ!驚いたか坊主?」


「ええ……その身長以上に驚きましたよ」


 驚いたのは俺だけじゃない。

 声にこそ出なかったが、三人共信じられないといった感じで目を丸くしている。

 いや、タマちゃんだけは露骨に胡散臭そうな目で見てるけども。


「わしの職業は【管理栄養士】という、世界でわしだけが得た職業のようでのう」


 何か元の世界でも聞いた事ある職業だな……。

 意味合いは全く違うっぽいけどさ。


「わしはな、たとえ何を食ったとしても、身体の成長や生命維持に必要な栄養素に全てが自動的に変換されるのじゃ。じゃからわしの身体はここまで大きくなったし、寿命も他の者よりもずっと長いというわけじゃ」


 何を食ったとしても全てが必要な栄養素に変換される……。

 成程、それでそんなに大きく育って……とはならん。

 なんだそのでたらめな能力は!?

 サバイバルとかほぼ無敵じゃん!


「成程、そうなのですね。素晴らしいご職業ですわ!」


 なる人もたまにはいるらしい。

 世間は広いな……いろんな意味で。


「そのような職業があるということを初めて知りましたわ。タイセイ様といい、マルダイ様といい、世の中には私の知らない職業がたくさんありますのね」


「「「――あ」」」


 俺とタマちゃんとバックスさんが声を揃える。

 こらこらロリ姫。何さらっと俺の名前を出してくれちゃってんのさ。


「ほお?小僧、お主も変わった職業に就いておるのか?」


 ほら食いついてきた。

 俺の事は絶対に秘密にしてねって言ったよね?


「――あ!……すいません。ええと、マルダイ様。タイセイ様が【その他】という変わった職業だというのは秘密なので、今のは聞かなかったということにして……」


「「「――あ」」」


 君はもうお口チャーック!!


「……少しその話を聞かせてもらえるかのお?」


 このぶんだと俺の秘密が広まるまでに時間がかからなさそうだな……。




「その他、か。確かにその職業が――いや、その能力が皆に知られるのはマズイじゃろうのお……」


 一通りの説明を聞いた後、マルダイさんはそう呟いてから沈黙した。

 話している限りは俺たちの敵というわけではなさそうだし、これからもずっとここに引きこもっているなら大丈夫そうだと思って説明した。それでも聞かされた方としてはヤバい話を聞いたくらいに思ってるのかもしれない。

 その反応を見るに、どうも俺たちが思っている以上に内緒にしておいた方が良い話だったらしい。


「はい。俺もこれが知られるのはヤバいと思ってます。ですからマルダイさんも――」


「ああ、分かっておる。こんなこと誰にも言うつもりはないわい。まあ、人に会ったのも200年ぶりじゃから、もし次に誰かに会って話したとしても、その頃にはお主は生きておるまいて」


 出来ればそれまでに元の世界に戻りたいんですけどね。


「一つ聞かせてもらって良いかのお?」


 そう言ってマルダイさんは俺を射抜くような鋭い目つきになった。


「お主はその力をどう思っておる?そして今後どう使っていくつもりじゃ?」


「どう……と言われても……。俺は冒険者として生きていく為に最低限の強さが必要ですから、この能力についてはありがたいと思っていますよ。もちろん他の人に比べたら反則みたいだってことも理解してますから、あまり目立った行動はしないようにとも思っています」


 俺が異世界から来た人間で、いずれ元の世界に戻りたいと思っていることは伏せた。


「甘い、甘いのう。お主はまだ自分の持つ本当の力を理解しておらん。その能力は世界最強の高みへと届き得る。いや、このまま成長を続けるのであれば、近い将来間違いなくそうなるじゃろう。その時お主は何を望み、何を成そうとする?金か?名誉か?女か?はたまた――この世界全てか?」


「世界!?何でそんな大層なものを?!」


 くれると言われてもいらん!!


「個人がどれだけ強くても世界とかありえないでしょう?!」


「そんなことはない。今聞いた話だけでの推測で話してはおるが、職業の適正無しで無限ともいえる成長を成せるのであれば、いずれお主一人で国を落とすことも容易いじゃろう。お主の持つ【その他】という職業は、それほどの驚異的な能力をもっておるのじゃぞ」


「1人で国を……亡ぼす……?」


 おい!!マルマール!!どうなってんだこれ!!

 何馬鹿みたいな仕様にしてくれやがってますの!!

 ちょっと強くなりやすくてラッキー!でも、チートっぽいから他の人にはあまり知られない方が良いよね?ってくらいの気持ちでいたのがどうよこれ?世界最強?世界を手に入れる?こんな話が広まったら、すげえとか思われる前に、どっかの国から暗殺者とか送られてくるんじゃね?あいつヤバそうだから先に殺っとく?くらいの感覚でさ!!

 俺の命はサービスエリアのトイレじゃねーぞ!!


「タイセイさん……」


 動揺しまくりの俺にタマちゃんが心配そうに声をかけてくる。

 タマちゃん。ゴメンね。さっきから心配させてばっかりだね。


「私、分け前として貰えるならタブンナが良いです」


 世界を手に入れるつもりはないから分け前はないよ?

 本当に俺が世界最強とかになるんだったら、その頃には一緒にいる君が世界2位になってるはずだから、タブンナがどうしても欲しかったら自分で取りにいってね。




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