「タイセイ様は世界の王になることをお望みなのでしょうか?」
ロリ様がきょとんとした顔でそんなことを言ってくる。
「いやいやいや!俺にはそんなつもりも予定もないから!!」
力づくで世界を手に入れるとか、どこの世界の魔王だよ!
ここの世界の魔王は普通の王だぞ!?
それをどの面下げて俺が本当の魔王ですなんて言えるか!――いや、どの面でも言わんわ!!
「もし一国の王くらいでよろしければ私と結婚することで叶いますが……」
「姫様?!」
「ロリ様何を?!」
どうしてここでプロポーズされるの?!
「いえ、世界が亡ぶようなことになるのでしたら、私が人柱にと思いまして……」
「それはそれで酷くない!?」
そんなの完全に魔王ムーブじゃん!
一瞬ドキッとした俺の純真を返して!
「ロリ姫様……すでにそこまでの慈愛の心をお持ちで……うぅぅ……」
「バックスさんが泣いちゃうと更に酷い話になるから止めて!!俺の心が死んじゃうから!!」
「タイセイさん……お幸せに……結婚披露パーティーには呼んでくださいね。あ、お魚料理多めでお願いします」
「せめてタマちゃんは止めて。あと、パーティーの前に式に出席してね」
なんだこれ?
俺の扱いどんどん酷くなってない?
こんな純情無垢な少年がそんな大それた野望持ってると本気で思ってる?
「とにかく!俺はこの世界で生き抜く為に強くなろうとしているだけで、王とか世界とかに興味は一切ありませんから!!」
くれると言われてもいらん!!
そう決めた!今決めた!!考えたことも無かったけど、金輪際望むことはないぞ!!
「タイセイ様は私と結婚するのが、そんなにお嫌ですか?うぅぅ……およよよ……」
「ロリ様。先に嫌々結婚すると言ったのはそちらですが?」
あからさまなウソ泣きは通用しないぞ。
「……分かった。今はその言葉を信用しよう。お主は嘘はつけない性格のようじゃからのう。少なくともそれが今の本心じゃろうて」
「え?そんな簡単に信じてくれるんですか?……俺だって嘘くらいつきますよ?」
世界の運命とかかかってる大事な事だと思うんだけど。
さっきまでとえらく反応が違ってない?
「自分で嘘をつくと宣言する奴のつく嘘など誰が見ても嘘と分かるものじゃ。これから先にお主が心変わりするかもしれんが、そんなことを言いだしたら他の誰もが反乱を起こすくらいの可能性だけならあるからのう」
「はあ……そういうもんですか」
「それにお主は考えていることが顔に出過ぎじゃわ。もう少し感情を隠す事を覚えた方がええぞ?」
俺の嘘は分かりやすいってこと?
顔見たら考えてることが分かるとかって、何だかちょっとショック……。
ん?もしかして、だから心の声を聞かれることが多いのか?
そんなフキダシみたいにはっきり見えてる?
「そういえば、タマキさんを探しに戻って来た時のタイセイさんの顔はナルシスト全開のしたり顔でしたね。謎は全て解けた!!ばっちゃんの名にかけて!!って感じでしたね」
「うっそ?!」
そんなダサい顔してたの俺?!
で、バックスさんはそれをそんな風に思って見てたの?!
自称クールを気取っていたら、それが他人にはただのナルシストに映っていた件!!
はっず!!死ぬほどはっず!!今すぐ穴があったら塞いで、その上を舗装して作った道の上を走ってどこかに消えてしまいたい!!
ちなみにばあちゃん二人は専業主婦と元看護士だから。
「わしはそれで納得しよう。それで、ヒューナード・ボランド・ウルフシュレーゲルスターインハウゼンベルガードルフ・ロリエレット・フィラデルナード姫」
全部言えた!?
長生きしてると記憶力上がるのか?
ああ、違うか。この人は元々コノツギに仕えていたんだから王家の名前は当然憶えてるわな。
「姫はこの小僧がそれだけの力を持っていると聞いてどう思ったかの?一国の王族として放っておいては危険ではないか?」
「そうですね。その力は非常に危険だと思います」
人身御供として自分を差し出すとか冗談を言ったのも、マルダイさんの言ってる事に共感したからだろうしね。
「ならばどうする?ここを出た後に小僧を捕らえるか?もしくは――」
殺しちゃうとか!?
ロリ様!?そんなことやんないよね!?
「どうも致しませんわ」
ロリ様ぁーーー!!
「ほう?自分の国が滅ぼされるかもしれんのだぞ?姫様もその事を理解して、それでもこやつを放っておくと?」
「はい。確かにタイセイ様のお持ちの【その他】という職業の力は脅威でしょう。しかし、タイセイ様が危険だということではございませんし、何の罪を犯したわけでもありません。罪なき者を捕らえて裁くは王道より外れし道でしょう」
「ふむ。罪なき小僧を裁くは外道の行いというか」
「左様です。そのような外道な行いは必ずや自らに返ってくると考えております。民を導く立場にある私の歩む道ではございません。この判断の結果国が亡ぶ危険があるというならば、私は自らの王道を貫いて滅びましょう。ただし、その時は民を守る為に、必ずや王家をあげてタイセイ様を道連れにする覚悟です」
ロリ様……なんて大人っぽいことを……。
本当に12歳?実はエルフとかなんじゃないの?
でもそこまでの決死の覚悟は当人である俺には聞こえないところで言ってね?
「素晴らしい!!その若さで見事ですな!!まさに生まれついての王の資質!!!」
――うわっ!!うるさい!!うるさい!!うるさい!!
そのデカい身体で大声出すなや!!
他の3人も突然の大声に耳を塞いで倒れそうになっている。
「小僧、すまぬな。お主をだしに姫様を試されてもらった」
「え?姫様を……試す?俺じゃなくて?」
「ああ。ロリエット王女は200年ぶりに出会ったかつての主君の子孫じゃからのお。ちゃんと国を治めていけるか試してみたくなったんだわ。わっはっはっ!!!」
笑い声もうるさいんじゃ!!
マルダイさんの笑い声で部屋中の家具がビリビリと震えていた。
「え?じゃあ俺は?危険人物とか思ってたんじゃないの?」
「お主の力が脅威なのは本当のことじゃが、そんな間の抜けた顔をした奴が世界を滅ぼすなどという大それたことを出来るとは最初から思ってはおらんよ。やれてせいぜい間抜けな詐欺師程度じゃろうて。わっはっはっはっ!!!」
そうか。じゃあ安心してこれからも強くなっていっても大丈夫なんだ。
絶対に強くなってやろう。
そして世界一強くなったら、一番にあんたをぶん殴りに戻ってきてやるよ。