目次
ブックマーク
応援する
5
コメント
シェア
通報

第5章 駆け抜けて地下迷宮

第70話 笑えない状況の時もたまにはある

 地下2階に降りて約2時間。ようやく思っていたダンジョンの雰囲気が漂い出してきた。


 床も大理石ではなく普通のごつごつした石の通路。壁も白塗りの壁ではなく武骨な岩肌の通路。

 当然絵画も花も飾られてない質素な通路を進んでいると、あちらこちらに横道へ入っていく通路が見えてくる。

 ときたま魔物も出てくるが、序盤という事もあってか手こずるような奴は出てきていない。手際よく俺とタマちゃんが出てくる端から倒しながら進んでいた。

 罠が無いかもタマちゃんの気配察知で探り、もちろん道中のマッピングも完ぺきだった。

 なのに何故……。




 だだっ広い何もない空間。

 通路よりも薄暗く、部屋の奥は何故か深い闇に包まれていてはっきりと見えない。

 そんな闇の中から向かってくる無数の影。

 デビラットに見た目はそっくりだけど色が真っ黒なブラビット。そんなハリウッド俳優のような名前のハムスターが飛び出してきた。

 向かってくるスピードはデビラットよりもかなり速い。

 それでもタマちゃんの放った矢が的確にブラビットを射抜いていく中、別方向から向かってきたやつを俺が一刀のもとに切り伏せる。


 見えていた黒デビラットを全て倒したと思ったら、その後ろから鍬(くわ)と鎌を持ったコボルトたちが現れた。


「鑑定!」


 ラブリーフラワーのステータスから手に入れた新しいスキル「鑑定(小)」。

 ファンタジーものでは定番のスキルをようやく手に入れることが出来た。


『職業 ノーフコボルト

名前 NO NAME

レベル 18     』


 鑑定(小)で見えるのはこれだけ。

 それでも敵のレベルが見えるだけでも優秀なスキルだと思う。


「タマちゃん!!ノーフコボルト、レベル18!!」


「了解です!!」


 鍬と鎌を振りかざして向かってくるノーフコボルトが5体。

 ノーフコボルト?鍬と鎌?ノーフ……農夫?


 そんなことを考えている間に3体のノーフコボルトがタマちゃんの矢に倒れる。

 俺はダッシュで一気に懐まで入り込み、ノーフコボルトが鍬を振り下ろすよりも早く、その胴体を真一文字に切り裂く。

 そして返す刀でもう1体を縦に斬りつけて倒した。


 倒し切った瞬間、次は部屋の奥の暗闇から巨大なライオンのような顔が現れた。


――ピイィィィィ!!


 そんな甲高い鳴き声と共に、部屋の上空からは巨大な梟が大きな羽を広げて滑空してくる。


「タイセイ殿!私も戦いますぞ!!」


「バックスさんはそこでロリ姫様を護っていてください!!いつ俺たちが抜かれても対応出来るように!!」


 このペースで敵が出てくるのなら、いつか俺たち2人でも撃ち漏らすことがあるかもしれない。その時にロリ姫様を護る人がいないと大変だからね。


「タイセイ様!ごめんなさい!私のせいでー!!」


 ロリ姫様が涙声で謝ってくる。

 ああ、全くその通りだ。


「反省してるなら、次からは勝手に部屋に入らないようにしてください!!」


 特にモンスターハウスとかっていう部屋にはね。


「鑑定!」


『職業 シシガシラ

名前 NO NAME

レベル 26    』


「鑑定!」


『職業 カムイコロン

名前 NO NAME

レベル 23     』


「シシガシラ、レベル26! 鳥の方はカムイコロン、レベル23!」


「鳥の方は任せてください!!」


 せっかくカムイコロンて伝えたんだから、そう呼んで欲しいな。

 まあ、鳥は鳥だから、あいつはタマちゃんに任せた方が良いな。

 そして俺はゆっくりと向かってくるライオン――シシガシラに備えて剣を正面にしっかりと構える。


 昔、動物園で見たのと同じライオンの顔。

 立派なたてがみに獲物を狙うような鋭い目。キマイラの尻尾についてた間抜けな顔とは桁が違う恐ろしさ。

 そしてその顔の向こうに見える――小さな足?

 ライオンてあんなに足短かったけ?

 俺はシシガシラの胴体が気になって、少し横に移動する。

 シシガシラはそれに合わせてこちらへ方向転換する。

 今度は逆方向へ移動してみる。

 やはり慌てるように俺の方へと顔を向ける。


 俺を狙ってる?それとも体を見られたくない?

 右へ移動する――

 シシガシラも急いで体を俺の方へ向く。

 ――と見せかけて、全速力で左へ移動した。

 シシガシラはフェイントに引っかかって転倒した。


 その時、シシガシラの全身がはっきりと見えた。

 巨大なライオンの顔の下にあった胴体は、大きく見積もっても柴犬。それもマメ芝。

 そんな小さな胴体に、大きなライオンの顔のついたアンバランスな体形をしていた。

 それで獅子頭ね……。


 それでもあの口で嚙みつかれたら大怪我をしそうだから急いで倒してしまおう。

 転倒しているシシガシラへ両手を向ける。

 魔法で一気にケリをつける!!


「ファイヤ――」


――ガアァァァ!!


 倒れたままのシシガシラが吠えた瞬間、俺の身体を強い衝撃が襲う。


「――がっ!!」


 予期していたかった衝撃が俺を襲い、魔法を撃つ前に吹き飛ばされた。

 今のは何だ?魔法?いや、魔法耐性が効いていないってことはスキルの類か?

 動けないほどのダメージは受けていない。

 物理防御が働いているようだから、やはりスキルによる物理攻撃か。

 俺はすぐに立ち上がってシシガシラを見ると、奴もすでに立ち上がってこちらを睨んでいた。


 ダメージ的には慌てるほどではないけど、さすがに離れた場所から連続で食らったらマズイ!!

 正面に立たないように近づいて攻撃するしかない。


「きゃっ!!」


 タマちゃんの悲鳴が聞こえた。

 慌ててそちらを見てみると、タマちゃんが部屋の壁近くまで転がっていくところだった。

 カムイコロンは空中を旋回している。

 あちらも何かのスキルで攻撃したのか?それとも魔法を使う類の魔物だったのか?

 そんな一瞬でもシシガシラから目を離してしまったのはマズかった。


「ぐあっ!!」


 俺はまたしても衝撃波のような攻撃を受けて吹き飛ばされた。

 急いで立ち上がると、目の前にシシガシラの大きく開いた口があった。

 人の頭なんて簡単に噛み砕いてしまいそうな強靭な顎と鋭い牙が迫っていた。


「ふん!!」


 反射的に地面を蹴って飛びあがる。

 そしてシシガシラの下顎に膝をお見舞いしてやった。


「ギャイン!!」


 ネコ科のくせに犬みたいな悲鳴を上げて宙に舞うシシガシラ。

 ふん。調子に乗るなよ。

 レベル的にはこちらの方が全然上なんだから、遠距離からわけの分からないスキルを使われなければ問題ない。

 お前の勝機は離れていて初めて生まれるんだからな。


 無防備にむき出しになっている腹に一閃。

 シシガシラの身体が真っ二つになる。


「ピイィィィィ!!」


 カムイコロンの鳴き声が聞こえた方を見ると、ちょうど旋回するように落ちていくところだった。

 その身体には矢が2本突き刺さっていて、どうやらタマちゃんの方も片が付いたようだ。


「タマちゃん!大丈夫?!」


「油断しました!鳥の癖に風魔法を使ってきて!」


 あっちは魔法を使えたのか。

 それでも無事倒すことが出来たのなら良し!

 大してダメージを受けてるようには見えないしね。


「ぐわあぁぁぁ――」


 安心したのもつかの間、奥の暗闇から次の魔物の唸り声が聞こえてきた。


 どれだけ倒したらこの部屋から出られるんだよ!!






この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?