今度は数が多い!!
ざっと見ても10匹以上の魔物が向かってきている。
ワニのように縦に長く伸びた口から威嚇するような鳴き声を発しながら向かってくる2足歩行の魔物。全身緑色で本当にワニっぽい。
2足歩行?あんなに顔がワニっぽいのに?
ああ、リザードマンとかってやつか。
「鑑定!」
『職業 クロコダイルレザー
名前 NO NAME
レベル 24 』
高級品(ワニ革)キター!!
あいつらでバッグを作ったらどれだけの稼ぎに――
なるかー!!
なんで最初から加工品にされる運命なんだよ!!
「タイセイさん!数が多すぎます!!」
タマちゃんがそう言った時にはすでに俺は魔法を撃つ準備を終えていた。
「ファイヤーボール!!」
広いとはいえ室内だ。多少の力を抑えながら、ワニ革目掛けてぶっ放した。
――ゴオォォォ!!
敵集団のど真ん中で爆発したファイヤーボール。
目視出来た範囲だけでも半数の5匹は吹き飛んだ。ちょっと勿体ない。
残りは右に2匹。左に3匹。
俺は迷うことなく左の3匹に向かってダッシュした。
ファイヤーボールの爆風を受けて転倒していたワニ革。
起き上がろうとしていた1匹の首をそのまま刎ね飛ばす。
そして、爆発で視力をやられていたのか俺の姿を見つけられずにきょろきょろしていた残りの2匹も一気に倒した。
振り返ると、残りの2匹もタマちゃんが仕留め終わっていた。
「タイセイ殿!!」
バックスさんの叫び声が聞こえ、慌ててバックスさんとロリ姫のいる方を振り向くと、バックスさんは剣と盾をもった骸骨兵のようなものと戦っていた。
スケルトン?!
しかも次々と地面から湧き出すように増えていっている。
何だよ!?部屋の奥以外からでも出てくるのかよ!!
「くそっ!!」
スケルトン越しに2人がいるのでファイヤーボール等の魔法は使えない。
俺は全速力で救助に走り出した。
バックスさんも騎士である以上それなりに強い。しかしその本質は組織的な戦闘にあるようで、冒険者に比べると1人で複数の敵と戦うのはどうにも苦手な様子。
しかも今はロリ様を護りながらということもあり、攻撃よりも防御を優先させられているようだった。
「ストーンウォール!!」
走りながらストーンウォールを発動させる。
一気に2人の周囲を壁で囲いたいところだけど、今の俺にそこまで器用なことは出来ない。
壁はあくまでもまっすぐな壁しか作ることが出来ないのだ。
それでも敵の攻撃方向を絞ることが出来るだろう。
俺とタマちゃんが間に合うだけの時間を稼ぐことが出来ればそれでいい。
しかし――
魔力が消費された感覚はあるのに、2人の前に石の壁が作られることはなかった。
なんで!?
1階のデビラットの時は出来たのに!?
――わしが改装したのはこの階だけで
あのおっさんが大理石の床を敷いてたからかあ!!
やっぱりダンジョンの床とかを変化させることは出来ないのか。
じゃあおっさんはどうやって壁ぶち抜いたり、横道塞いだりしたんだよ……。
スケルトンたちの数は多いが、その動きは遅い。
これなら十分に間に合うだろう。
そう思った瞬間――
「キイィィィィィ!!」
俺の目の前の床から巨大なムカデのような魔物が飛び出してきた。
サイズ的にはコモドオオワームと大差ない。
間一髪で横に跳んでムカデの直撃を躱す。
「鑑定!!」
『職業 インジェンスセントペデス
名前 NO NAME
レベル 48 』
今度は意味分からん名前の奴出てきた!!
えっと、独立記念日?
『それはインディペンデンスデイです。インジェンスセントペデスはラテン語で巨大なムカデという意味です』
ありがとー。
でも訳したらそのまんまだったー。
なんで急にラテン語―。
ここ異世界なのにー。
あ、英語とかあるから別に今更おかしくないか。
いや、それよりも結構レベルが高いぞ!!
前のキマイラが49だったから、それとほとんど変わらない。
俺はその巨体に完全に行く手を塞がれる形になってしまった。
横目でちらっと見ると、俺よりも後ろにいたタマちゃんがすでに骸骨兵と戦っている姿が見えた。
さすがに弓矢だと当たりにくそうだと気付いたのか、得意の(?)剣を抜いて戦っている。
あちらはタマちゃんとバックスさんに任せて、俺はこいつに集中しよう。
俺もあの時よりも強くなっているとはいえ、こいつは油断出来るレベルの相手じゃない!!
――シュロロロロロ!!
巨大なムカデが地面を這って襲ってくる。
さすがにこれまでの相手とはスピードが違う。その上、身体が大きいので回避するのも一苦労しそうだけども――
『【称号】ダービージョッキーの効果で全てのステータスが100%アップします』
よし来た!!
キマイラと同じくらいというのなら、こいつのランクはB程度。今の俺の冒険者ランクがCだから、発動条件は満たしている。
「ダービージョッキー」の発動条件は『冒険者ランクと同ランクもしくは1ランク上の敵と対峙した時のみ発動』。
ここまでダービージョッキーが発動しなかったのは、レベルはそれなりだったが種族?職業?の分類としてはDランクとかだったんだろう。
これで迷宮の入り口にいたラブリーフラワーの時も発動してたのに苦戦したけど……。
あれは、その、うにょうにょしてたからやりにくかっただけで、本当だったらもっとちゃんと戦えてたんだよ。いや、本当に。
――うにょうにょうにょうにょ。
めっちゃある足と体がうにょうにょしてるー!!
うにょうにょしながら向かってきてるー!!
いや、これは大丈夫だわ。うにょうにょの質が違う。
とうっ!!
ステータスが2倍になったところにスキルの効果が上乗せされる。
「俊敏性(小)」の効果で、ムカデの動きを躱すことなんて容易(たやす)くなった。
ムカデの突進を躱し、そのすれ違いざまに近くにあった足をまとめて5本ほど斬り落とす。
スキル「斬攻撃力上昇(小)」の効果が乗ることで、ただの鋼の剣が業物の刀のような切れ味を発揮する。
もちろんそんな刀振った事ないけど。雰囲気大事!
――キイヤァァァァ!!
足を斬られたことで悲鳴を上げるムカデ。
怒り狂ったムカデはその巨体を大きく持ち上げて、俺を押し潰さんとばかりに襲ってくる。
でもすでに勝負はついている。
先ほどまでの俺とムカデの立ち位置は完全に逆転していた。
俺の背後にロリ様たち。
ムカデの背後には闇が広がっているだけ。
「ファイヤー!!」
ここからならみんなを巻き込むことはない。
「スラッシュ!!」
魔力を纏って紅く染まる鋼の剣。
ムカデに向かって振り抜かれた剣先から放たれたのは巨大な炎の斬撃。
それはムカデにとっては死を告げる紅蓮の死神の鎌。
爆発力ではなくスキルによって切断力を高めた炎の斬撃はムカデを苦も無く両断し、斬られた個所から燃え上がった炎がムカデの身体を覆い尽くす。
――ゴオォォォォ!!
貫通していった斬撃が遥か遠くの壁にぶつかり、激しい爆炎と共に室内が一瞬明るくなった。
そして真っ二つになって崩れ落ちたムカデはすぐに燃え尽きて灰となっていた。
そこである事に気付く。
この部屋に入ってからここまで結構な数の魔物を倒しているけど、一度もナビから何の通知がきていない。
敵を倒したという通知も、それによって得られる経験値も、そしてドロップしたステータスのことも。
これはここで始まった戦闘が今の時点で終了していないということなんだろう。
このモンスターハウスという場所が特殊で、出てくる敵を全て倒すまで戦闘が終わらないというのなら、それはつまりレベルアップでの回復が望めないという事だ。
これは俺にとって大きなアドバンテージだっただけに、それを封じられているのはかなり辛い。
魔法もあまり派手に使う事も出来ないし、前みたいに死にかけるような怪我をするわけにもいかない。
そもそもこの部屋からの脱出方法が分からない今の状況では、俺にとってそのことが唯一といって良いほどの保険だったんだから。
ようやくダンジョンだー!って始まったばかりでこんなトラップがあるんだよ!!
しばらく思考の海に浸かっていた俺は、急にあることを思い出した。
あ、ロリ様たちのこと忘れてた。
振り向いた先には、俺とムカデの死闘など気付いてもいないかのように骸骨たちを相手に奮闘しているタマちゃんとバックスさんの姿があった。
おお、無事でなにより。