「タイセイ様……。私、強くなってしまいましたわ……」
お姫様なんだからこれまでに魔物を倒した事なんてないだろう。それが急にレベルアップなんかしたもんだから、そりゃあ戸惑う気持ちは分かる。
「力が漲ってきますぞぉぉぉぉ!!ふおぉぉぉぉぉ!!」
バックスさんでさえキャラが崩壊しかけてるくらいのインパクトなんだしね。
「ロリ様。どうやら俺たちとパーティーを組んでいると認識されたようで、さっきの部屋の中で倒した魔物の経験値がお2人に入ったみたいです」
「そう……なんですか?」
「タイセイ殿。私はパーティー仲間だからといって経験値が分けられるなどという話は聞いたことがございませんが?」
「え!?」
いや!普通そうなんじゃないの?!
ゲームとかでは常識じゃん!じゃないと、回復役のレベルが上げられないしさ!!
タマちゃんもそんな事言ってなかったじゃん!
「普通……パーティー全員に入るんじゃないんですか?」
「いえいえ、倒した魔物の経験値は、倒した人にしか入りませぬぞ?普通はそうでしょう?」
「普通は……。ええ、それはそうですよね」
あれ?俺の方が間違ってる?
そりゃあ、倒した人に経験値が入るのは当然だし、戦っていない人が強くなるのは不自然だけど……。
ゲームとかじゃ普通に……いや、ここはゲームの世界じゃなくて現実……でも、限りなくゲームっぽくない?
えっと、じゃあ、今までタマちゃんに入ってたのは?で、今2人に入ったのは?
「やはりタイセイ様は特別な方なのですね!!」
目をキラキラさせながら尊敬の眼差しで俺を見てくるロリ様。
特別……まあ、いろいろと他の人とは違うことが出来るけど……。
「これで私も足手まといになることなく戦えますわ!!」
握りこぶしを作って鼻息を荒くしているロリ様。
いやいや。
「ロリ姫様。レベルが上がってステータス上は強くなっていますけれど、剣も握ったことのない姫様では満足にその力を生かすことが出来ませぬぞ?」
バックスさんが俺の思っていたことを言ってくれた。
そう、俺だってレベル以外に戦闘の経験が不足していると感じた時期があった。
たとえ今回のようなパワーレベリングでレベルが100になったとしても、一度も魔物と戦ったことがなければその力に振り回されてしまうだろう。
「うぅぅ……せっかくお力になれると思いましたのに……」
一転して泣きそうになっているロリ様。
「ロリ様、これを」
俺は自分の腰のベルトに差してあったナイフをベルトごとロリ様に渡す。
「タイセイ様……これは……」
「一応、護身用として持っておいてください。今まで戦ったことがなければ戦ってみればいいんですよ。万が一の時はその気持ちでナイフを手に取ってください。まあ、今回は最後までそういうことがないようにしたいですけどね」
「……ありがとうございます」
そう言うとロリ様はナイフをぎゅっと抱きしめた。
「あ、2人ともこれ飲んでおいてください」
俺はロリ様とバックスさんに2種類の回復薬を渡す。
「2人ともHPとMPの上限が上がってますから、一度回復させておきましょう」
俺はレベルアップで上限まで回復するので必要ないけど、一気に上限の上がった2人は使っておいた方が良いだろう。
「ああ、それとタマちゃ……。おーい!ターマちゃーん!!」
「…………ハァ、ハァ、ハァ。な、なんで、しょうか……?」
あれからもずっと壁と天井を跳びまくっていたタマちゃん。
何故に自分から体力を削るようなことをするのか。
「……回復薬いる?」
「……いた、だきます」
まあ、身体の動きを確かめていたと思えば良いか……。
「ロリ様。いきなりトラブりましたけど、これからどうします?まだ進みますか?もし引き返すのであれば、ここから先は俺とタマちゃんで進みますよ」
このダンジョンがどこまで続いているのかは分からないけど、今はまだ始まったばかりの第2階層。
そんなところにあんな物騒なものがあるダンジョンなら、これから先にどんなことが待ち受けているのか想像も出来ない。
そんなところにロリ様を連れて進んで行くのは、やはり多少の不安がある。
レベルは上がった。回復もした。万が一に備えてナイフも渡した。
それでも最終的にどうするかはロリ様自身が判断することだ。
俺の質問にじっと考え込むロリ様。
バックスさんも見守るように静かにロリ様の返事を待っていた。
「タイセイ様……。私、もう少し一緒に行きたいと思います」
顔を上げて俺を見るロリ様の顔は何かふっきれたような表情に見えた。
「きっとこれから先もお荷物になると思います。皆さんにご迷惑をお掛けすることも多々あると思います。それでも!私は自身の目で、足で、この地下迷宮を調べたくてここに来ているのです!」
正直、最初からロリ様はこのダンジョンに執着しているように感じていた。
何故国に報告しないで、姫自らがこんな危険なことをしているのか不思議に思っていた。
でも、今のロリ様の顔を見ていると、彼女なりの譲れない理由があるんだろうと感じた。
「タイセイ殿、タマキ殿。どうか姫様の願いを聞き入れてはいただけないでしょうか。姫様は私が責任をもってお守りいたします。決してお2人にご迷惑をおかけするようなことはいたしません。どうか!何卒!!」
知らない人が見たら、こんな異様な光景はないだろう。
一国の姫とその護衛の騎士が、一介の冒険者に頭を下げているのだ。普通では考えられない。
「……分かりました。お2人にその覚悟があるのでしたら、俺に文句はありませんよ。タマちゃんはどう?」
「私ですか?私はずっと2人が一緒に来ると思っていたんで大丈夫ですよ」
タマちゃんのこういうところは本当に素敵だと思う。
「じゃあ、ちょっと準備するんで時間貰って良いですか?」
さっきドロップしたステータスの確認をして、これから先に備えなきゃな。
「あ、またステータスを装備されるんですか?」
デカいおっさんのところで、【その他】の能力のほとんど全部バレていたんで気楽なもんだ。
すでに「プリティーフラワー」を装備する時に一度見せているしね。
ん?ラブリーフラワーだっけ?
今回ドロップしたステータスは全部で8個。
1つずつ確認してみたけど、その中に闇の手らしきものはなかった。
貰った経験値からしても倒した事にはなっているはず。
ということは倒してはいるんだけど、ステータスがドロップしなかったということか?
あんなのに遭ったのは初めてなんだから、ファーストドロップがあるはずなん……。
そこで俺はあることに気付く。どうも最近こういう閃きが多いな。
しかしそれを確認する方法は今の時点では無いので、俺は先にステータスの装備とスキルの装備をすることにした。
ちょっとだけ嫌な予感を感じながら。