ダンジョン突入(おそらく)2日目。第4階層で交代で仮眠をとり、現在俺たちは第7階層を進んでいる。
ロリ様たちのレベルが上がった事で、俺たちは予想以上の早さで階層を進むことが出来ていた。
徐々に出現する敵のレベルも上がってはいたけど、2階のモンスターハウスで出てきた敵の方がよっぽど強かった。
バックスさんがロリ様を警護し、俺とタマちゃんが敵を倒す。
ほとんど足止めされることなく順調にここまで来ていた。
「ロリ様、まだ大丈夫ですか?」
ロリ様だけは見張りの交代に含めずに眠ったのだけど、初めての野宿に加え、これまでふっかふかのベッドでしか寝たことがないだろう彼女には辛いはず。
俺は「疲労回復(小)」があるから、軽く仮眠をとれれば数日くらいは全然平気だ。タマちゃんは「猫は夜行性なんで大丈夫です!」と、じゃあ昼間は眠いだろ?って感じのわけの分からないことを言っているし、バックスさんは「デスマーチなど、城勤めをしておれば日常茶飯事ですので」と、労基が怒鳴り込んできそうなことを言っていた。
辛くなったらすぐに言うようには伝えているが、こちらから聞かない限り自分から言ってきそうもなかった。
「まだ大丈夫ですわ!疲れても持ってきたポーションを飲んだら元気が出てきますもの!一週間くらいは寝ないでいられそうです!」
ポーションにそんな効果はない。
体力が回復しても眠気は解消されない。
それ本当に大丈夫なポーション?国で禁止してる何かが入ってるんじゃないの?
俺たちはロリ様の言葉を鵜呑みにすることなく、十分に彼女の体調に注意を払いながら行けるところまで行くことにした。
「ここが8階層へ降りる階段ですな」
「バックスさん。帰りも同じくらいの時間がかかると考えたら、今回はこの辺りまでにしておきませんか?」
ロリ様のキャンプも2泊3日くらいが限界だろうと思う。
そもそも友達とキャンプに出掛ける第一王女って何なんだ?
アウトドアが趣味の貴族友達って誰よ?
「……そうですな。この地下迷宮がどれほどの深さなのか分かりませんし、あまり帰りが遅くなると大騒ぎになる可能性がございますし」
そう言いながら、俺たち3人はロリ様の方を見た。
もう大騒ぎになってるんじゃないかと思うけども。
「そんな!ここまで来て今更帰れません!」
ロリ様ならそう言うだろうとは思っていたけどね。
「ここまでとは言いますけど、バックスさんが言ったように、この先がどこまで続いているのか分からないですから。次で終わりかもしれないし、まだまだ続いているかもしれない。どこかで区切りをつけないと、貴女は一国の王女様なんですからね。いつまでも黙って王宮を空けておくわけにはいかないでしょう?本当に行方不明だと思って大騒ぎになりますよ?」
そして俺たちが誘拐犯にされてお尋ね者になるというね。
それだけは阻止しなければ。
「……分かりました」
さすがは利発なロリ様。
事の道理をちゃんと説明すれば分かってくれる。
「じゃあ、今回はここまでということ――」
「お父様に帰りが遅くなると連絡いたします」
――は!?連絡ってどうやって!?
言っている意味が理解出来ずにぽかんとしている俺の目の前で、ロリ様はバックスさんの背負っていたリュックからメモ帳のようなものを取り出して何かを書き始める。
「……ロリ様。何をしてるんですか?」
「ですから、お父様に帰るのはもう少しかかりますけども、心配しないでくださいとお手紙を書いているんですわ」
いやいや、手紙を書いて誰が届けるの?バックスさん?
そんなことしたらロリ様の護衛がいなくなっちゃうじゃん。
「では、これを王宮にいるお父様のところまでお願いしますね」
手の平に折りたたんだメモを置いて、独り言のように呟くロリ様。
するとメモはひとりでにふわりと浮き上がり、もの凄いスピードで俺たちが今来た道を逆走(逆飛?)して飛んで行ってしまった。
「えっと……ロリ姫様。今のは何ですか?」
メモの飛んで行った方向を呆然と眺めていた俺とバックスさん。唯一タマちゃんが何とか我に返ってそう尋ねた。
「お父様へのお手紙を風さんにお願いして届けてもらったのですわ」
「風さん!?」
風にお願いして?星に願いを的な?
いや、そうじゃない。
物理的に風がメモを運んで行ったぞ?!
「あれ?言いましたよね?私は生き物以外とも会話が出来るんですよ?」
見えないもの、人ではないものと心を通わせることが出来る……。
確かに風は見えない。人ではない。だからってそれはデタラメすぎるだろ?
だって、それは自然を自在に操れるってことでしょ?
雨を降らしたり止ませたり、火事を消すことだって……。
そして、それを軍事利用した日には……。
これで大丈夫でしょう?と言わんばかりに微笑むロリ様。
本人はこの力のデタラメさに全く気付いてない様子。そりゃあ国家機密にもなるってもんだわ。こんな力が世間に知られたら、それこそ恐怖の対象にされちゃう。
俺個人の力よりも、よっぽどロリ様の力の方が世界を破滅に導く力を秘めてると思うよ……。
「さあ、これで心配事も無くなったことですし、張り切って先へ進みましょう!」
本当に疲れていないかのように元気いっぱいのロリ様。
代わりに人類にとっての心配事が増えたけどね。
こんな力持ってる人のレベル上げちゃって大丈夫だったんかな……。
今は無邪気な箱入り娘って感じだけど、将来的にもそうだとは限らない。もしも思春期に反抗期を迎えたとしたら……。
『お父様もお母様も、この国も大嫌いですわ!!いいえ!この世界全てが大大大っ嫌い!!!こんな世界なんて滅んでしまえば良いんですわ!!!』
ナビやめろ。
ろくでもない未来を想像させるんじゃない。
そして、ここまでのことが出来るとはバックスさんも知らなかったのだろう。俺たち3人の中で一番ロリ様の行動に呆気にとられていて、その顔面は蒼白を通り越して真っ白になっていた。
そんなバックスさんと目が合った。
俺はゆっくりと首を横に振ると、バックスさんは一度だけ頷いた。
――このことは誰にも言いませんよ。
――ありがとうございます。
言葉には出さなかったが、俺とバックスさんの間にはこのような意思疎通がなされていた。
「ロリ姫様の力凄いですね!!これなら好きな時に雨とか降らせるじゃないですか!!日照りとかロリ姫様に頼んだらすぐに解決しちゃいますね!!」
そんな俺たちの気持ちなど知る由もないタマちゃん。
俺はバックスさんにゆっくりと首を縦に振ると、バックスさんは一度だけ頷いた。
――あれは俺が何とかします。
――よろしくお願いします。
今度はそんな意思疎通がなされていた。